No Attack No Chance 夢に向かって ~コロナ禍のアメリカで修行中のメカニックからの便り その5~
先般、アメリカでインディーカー・シリーズに参戦している佐藤琢磨選手の移籍が発表されました。海外で頑張られていること、とてもうれしいですね。その佐藤選手に帯同しているメカニックは、どうなっただろう?と思ってくださる方もいらっしゃった?はず。きっと…。
海外を拠点に、レースメカニックを目指す若者たちの為に、このコラムは続けたいという想いがありまして…。自分で道を切り開くのは当たり前ですが、少しでも参考になるといいなと思います。かつて私の実兄もアメリカで10年、誰にも頼らず修行に出ましてアメリカと日本でレストラン経営をしていました。自分で切り開くこと、それは兄に学びました。が、実例があればお役に立つこともあると思います。
という訳で、例の彼、須藤翔太くんに再びレポートを送っていただきました。早速ですが、よろしくお願いします。応援してくださいね!
まずは2022年シーズンの振り返りから
皆さんこんにちは、2020年より米国NTT インディーカー・シリーズでメカニックとして活動をしている須藤翔太(すとうしょうた)です。昨年に引き続き機会をいただき、起筆させていただきます。2023年もまた同シリーズでメカニックとしてチームを移籍し、活動を継続していきます。まずは昨年の振り返りから。
2022年は渡米して3シーズン目の年。前年まで所属していたRahal Letterman Lanigan Racing(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング 以下RLL)からDale Coyne Racing(デルコインレーシング、以下DCR)に移籍した年でもあり、この1年で、色々なことが起きたシーズンでもありました。一つの目標であった「インディアナポリス 500マイルレース」、いわゆる“インディ500“を優勝することはできませんでしたが、大きな学びのある一年になったと思います。
昨年は、Car No.51 佐藤琢磨選手の車両のフロントエンドメカニックとして日々のメンテナンス等を行ってきました。また、レース時はインサイド・リアのタイヤ交換をデトロイトのレースまで行っていました。チーム移籍はしましたが、年間通してメカニックとしてはメカニカルな部分に関してのトラブルを出すことはなく、安定したクルマづくりをすることができたと思っています。
RLLの時の教訓とDCRとして前年まで起きていたトラブル等を聞き、チームクルーで話し合いをして様々な部分を改善していった結果、無事シーズンを終えることができました。
シーズンを通して様々な要因が重なり、残念ながら成績が良かったと言える一年とはなりませんでしたが、オーバルのレースに関して言えばTOPチームに割って入るような速さを見せることができたシーズンだったのかなと感じています。
小規模なチームながら、メカニック・エンジニアの団結力はかなりありました。良いと思われるものはディスカッションをして精査し取り入れ、課題もしっかりと改善していくことができ、チームとしても新しいことに挑戦し、中身としては濃い1年を過ごすことができたと思います。
そして、昨シーズン、私の中での1番大きな出来事としては、左肩関節の腱の断裂をしてしまったことです。本来は、年間を通してピットワークを行う予定でいましたが、6月の1週目に行われたデトロイトグランプリのピットワーク中にケガをしてしまったことにより、それ以降はピットワークのサポートをしていました。
怪我は、レース中2回目のピットワーク時に起きました。腱がはじけた瞬間、今まで聞いたことのない音がカラダに響き、それと同時に左腕から力が抜けてしまいました。本来であればバックアップのクルーが居て交代をするのが“普通”なのですが、チームが小規模だったこともあり、そこに充てる人が居なく、3回目も継続してピット作業を行いましたが、左腕に全く力が入らず、それが原因で大きなロスになってしまいました。無理してやるべきではなかったと今でも後悔をしています。
2回目のピットワークを終えた後、琢磨選手のスポーツトレーナーのフィジオである百井さんに応急処置をして頂き、そのおかげもあり痛みは少し和らぎましたが、ものすごい違和感は残りました。レース後にインディーカー・メディカルに行き診察を受けたところ、精密検査が必要となり、インディーカーから指定されたインディアナの病院でMRI等の検査を受け、腱が断裂していることが発覚。
すぐにでも手術をするべきではありましたが、シーズン中だったこともありドクターやチームと相談をして、シーズンが終わってから手術を受ける事となりました。手術までの間、なるべく負荷をかけないように気をつけながら、仕事をしていました。今まで様々な怪我を負ってきましたが、今回は人生で初めての手術でした。
シーズンエンド後の昨年9月末に手術を受けましたが、その際、文化の違いを感じました。手術前の受付では、必ず迎えに来る人の連絡先を病院側に伝え、手術後、麻酔が切れて目がさめたらそのまま迎えに来てもらって帰宅、という日本にいたら想像もつかない世界。医療費が高い米国ならではだと感じました。手術は1時半程度で終わり、術後もその日の夜にほんの少し痛みがあったものの、順調に回復していきました。現在、感覚的には9割9分、怪我をする前に近いくらいまで戻っています。
今回、ドクターの診察や手術、フィジカルセラピー等に係る医療費は全てインディーカー・シリーズの保険でサポートしてもらえました。医療費がものすごく高い米国でこの手厚いサポートと現場での迅速な対応を含め、大変助けられました。(*肩の手術費用だけでも約$30,000-前後になると話を聞きました。全て保険でカバーされていてただただ感謝に尽きます)。
オーガナイザーが、そのカテゴリーに関わっている人をしっかりサポートする。という体制が構築されていることを今回の怪我でより知ることができました。また現場での応急処置や残りのシーズン中のレースウィーク時にケアしてくださった百井さんにも感謝です。
オフの日や普段の生活
昨年は、渡米してきてから一番充実したオフを過ごすことができました。コロナのパンデミック以降、様々な事に制限があった米国もパンデミック以前の状態に戻りつつあり2020、2021年と比べると、多くの人が活発に国内を移動するようになったと感じます。行きたかった場所や他カテゴリーのレースを見に行ったりもしました。
また、昨年(2022年)の開幕前にインディアナポリ・モーター・スピードウェイの近郊に引っ越したことで、より充実した生活を送ることができました。趣味である料理も相変わらず気が向いたらやっています。琢磨選手や百井さんがインディアナポリスでレースの際、アパートに来られたり、時間が合えば琢磨選手のモーターホームにお邪魔して食事を楽しんだりしました。
シーズンオフには、友だちとレンタカーでRoute66を走り、途中にある町を観光したり、映画「トランスフォーマー」のロケ地になったフーバーダムに行ったりと、過去二年できなかったことを実現することができました。
州が変われば国が変わる、という言葉を耳にしますが、本当に地域ごとに違った歴史や文化根付いていて、この国は改めて面白い国だなと思いました。そして、いつかはRoute66をシカゴからサンタモニカまで自分のクルマで走破してみたいです(*Route66総距離Chicago, ILからSanta Monica, CA- 2,448mi=3,940km)。
国が大きすぎるということもありますが、行きたい土地はまだまだ多くあるので今年は時間を見つけて、米国という国をより知ることができればと思っています。
NASCAR見学
また、NASACRを見に行くこともできました。チームのスポンサーでもあった Rick Wear Racingオーナーのリックさんから見に来るときは連絡して、とお誘いいただき3レースほど見に行きました。
Indianapolis-Road course/Bristol- Short Oval /Homestead Miami- Short Ovalの3レースを観戦しましたが、各レーストラックともに特色が異なり、地域によって雰囲気の違い、文化の違いも含め、とてもレースを純粋に楽しむことができました。同じ米国のトップカテゴリーでもインディーカーとは違った雰囲気・伝統を肌で感じることができ、今後の仕事へ良い刺激を受けました。そしてNASCARを見て、V8エンジンのサウンドと迫力はアメリカのレースを語るうえでは必要不可欠だと感じました。
そんなNASCARは今年で75周年、インディーカーのインディ500に関して言えば今年で107回目。長きに渡りこの国に根付いている伝統的なモータースポーツに、見て触れて関わることができるこの環境に感謝するばかりです。
2023年と今後について
昨年末、所属していたDCRを離れ、今年からCHIP GANASSI RACING (チップ・ガナッシ・レーシング、以後CGR)に移籍しました。
CGRはインディーカー・シリーズ(Champ Carも含む) で通算14回のシリーズチャンピオン、インディアナポリス500では通算5勝を挙げているチームです。また、毎年タイトル争いをするチームの一つでもあります。モータースポーツが好きな人であれば、一度は耳にしたことがあるチームではないかと思います。
チームとしては、インディーカーシリーズ(HPD-Honda)/IMSA&WEC(Cadillac-GMC)/Extreme E(Hummer EV-GMC)/の4つのカテゴリーに参戦をしています。“One Team. One Goal. ”をチームの目標として掲げており、全てのカテゴリーでの優勝とシリーズチャンピオンを取ること、またIndianapolis500で勝つことを目標に各シリーズに参戦をしています。
私自身、渡米した時から一つの目標にしていたチーム。そこへ加入することができたことを嬉しく思います。昨年12月に知り合いを通じてチームを紹介していただき、現在に至ります。
今年はCar 11(Driver: マーカス・アームストロング / 佐藤琢磨) のフロントエンド・メカニックとして、また、インサイドフロントタイヤ交換のピットクルーとしてフルシーズン、チームで活動をしていきます。
また、琢磨選手も今年CGRでオーバルのみですが5戦スポットで参戦します。琢磨選手からも一緒にIndianapolis 500を勝ちたいと言って頂けたこと、またTOPチームに加入できるチャンスが巡ってきたことを喜びたいです。日本、アメリカの過去8年間の中で、一番大きなチームに所属することになります(全社員で約200人以上がチームに所属しています)。
働き方もかなり細分化され、かつシステマティックで、非常に働きやすい環境です。毎日グループごとにショップ内のジムでワークアウト、また週ごとにピットワークの練習等、レースに向けて必要なことがしっかりスケジューリング、またフォーカスされた日々を過ごしています。
今後の目標としては、このチームに長く所属し、シリーズチャンピオンやIndianapolis 500での優勝に、より多く貢献していければと思っています。
今シーズンのインディーカー・シリーズは、3月5日のセントピーターズバーグで開幕し、9月10日ラグナセカで最終戦を迎えます。約6か月間、昨年と同じ17レース。唯一、デトロイトGPが昔F1も行われていたダウンタウンに移動し、新しいコースレイアウトで開催されます。
古き良きアメリカの歴史や伝統があるサーキット等、アジア、ヨーロッパとは違った雰囲気を是非テレビやSNS等を通じて感じて頂き、機会があれば現地で異文化を体験して頂けたらと思います。
今シーズンは、今までよりも良いシーズンになるよう僕自身楽しみつつ頑張りますので、チームの応援宜しくお願いいたします!
CHIP GANASSI RACING/INDYCAR SERIES Mechanic
須藤 翔太
(編集:大谷幸子)
レポーター(お)ねえさん・大谷幸子
随時、クルマに関する様々なイベント・テーマでレポートしていきます!
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