スーパー耐久開幕戦Qクラスに見るレースの未来形【折原弘之の目】
マシン開発の場として進化したST-Qクラス
日本最大の参加型レースとして人気を博すスーパー耐久レース。今シーズンから冠スポンサーにENEOSを迎え、ENEOSスーパー耐久シリーズ2022Powered by Hankookとしてスタートした。3月20に三重県の鈴鹿サーキットで開幕を迎えたのだが、ST-Qクラスに大きな変化が見られた。
スーパー耐久レースは多くの車両の参加を認めているため、排気量や駆動方式などで9つのクラスに細かく分けられている。そして分けられたクラスの中でも、改造範囲が厳しく制限されている。そんな中、昨シーズンから新設されたST-Qクラスだけは一切の制限が設けられていない。平たく言えば、何でもありなのだ。
昨年で言えば、ORC ROOKIE Racingが走らせた水素燃料のカローラスポーツと、GR Supra GT4がその車両に当たる。水素燃料のカローラは、市販さえされていない次世代型のレーシングマシン。GR Supra GT4は次期モデルの先行開発車両のため、どのクラスにも当てはまらずST-Qクラスに出場している。このように性能自体が全く違う車両を走らせるため、レースというよりはマシン開発の場として提供されたクラスと言える。主催者からの呼びかけに呼応するように、4チーム、5台のマシンがエントリーしてきた。
自社パーツ開発の場としてエントリーしたMercedes AMG GT4
ブレーキメーカーとして有名なENDLESSが、Mercedes AMG GT4をベース車両とし自社パーツの開発を始めた。今回のAMG GT4にはブレーキディスク、キャリパーとサスペンションが組み込まれているとのことで、詳しい話をレース部門の責任者である中村稔弘氏に聞いてみた。
「当社はご存知の通り、ブレーキパッド、キャリパー、ローターと言ったブレーキパーツメーカーですので、その開発のため参戦を決めました。以前からGT4車両のブレーキ開発に取り組みたかったんですが、GT4のブレーキを変えて出場は難しかったんです。そんな中、GT4のブレーキを変えられるQクラスの新設を受け、昨年使用していたAMG GT4でエントリーしたわけです。今回はブレーキだけでなく、開発中のサスペンションも組み込んできました」と語ってくれた。
自社パーツをレースの場で開発する意味について聞くと「まず長い時間走れることですね。そしてよりグリップの高い状況、つまりパーツに対しての入力がより強い状況でテストできる事に意味があるんです。今後もブレーキだけに留まらず、ダンパー、スプリングなどサスペンション全般のパーツをより厳しい状況で開発していく予定です。例えば新しい素材であったり、新しい技術を投入していく予定です。レースの場で得られたデータは、市販パーツ開発に大きく寄与してくれると思います」と、チューニングパーツメーカーらしいトライをしてきた。
バイオ燃料でレースの未来を提唱するMAZDA2
MAZDA SPIRIT RACINGとして、ST-Qクラスに挑戦を始めたマツダ株式会社。こちらは、マツダのプロジェクトとしてトライしているとのこと。チーム監督である前田育男氏に聞いてみた。
「このプロジェクトを始めるキッカケは、トヨタさんがST-Qクラスで新しい取り組みをしている中でお声がけを頂いたことでしょうか。そこで昨年のスーパー耐久最終戦に、バイオ燃料を使ったマツダ2を走らせたわけです。そして今シーズンから本格的にST-Qクラスに参戦し、よりサステナブルなレースに挑戦しよう!と言うことになったわけです」
マツダとしては得意のディーゼルでのトライもあったのだが、より環境に優しいバイオ燃料での挑戦に踏み切ったと言う。しかも今回使用しているマツダ2は、バイオ燃料のための仕様変更は一切していないとのこと。従来のディーゼルエンジンで、バイオ燃料を使用しているとのことだ。
前田氏はさらに「今のカーボンニュートラルという考え方の中には、EVであったり水素であったりと色々なトライがあります。その波はいずれレース界にも及ぶでしょう。その時にマツダとして、バイオ燃料と言う新しい選択肢を増やしたと言うことです。カーボンニュートラルと言っても、色々な道がありますから。マツダとしては、植物由来のユーグレナで環境破壊ゼロを目指していこうと考えています」と環境を考えつつ、レシプロエンジンによるレースを残す方法を模索している。
カーボンニュートラル燃料で挑むSUBARU BRZ
Team SDA Engineeringとしてエントリーした株式会SUBARUは、BRZにカーボンニュートラル燃料を使用することで環境問題に取り組んだようだ。カーボンニュートラル燃料とは何なのかを含め、チーム監督の本井雅人氏に聞いてみた。
「今回ルーキーレーシングさんの86と同じ、カーボンニュートラル燃料を使用してBRZで参戦しました。カーボンニュートラル燃料とは、生成の段階で化石燃料を使用しない燃料のことです。そもそも化石燃料とは地中にある石油や石炭、天然ガスのことで、生成する段階でCO2を発生してしまいます。その化石燃料を使用せず自然由来のものを原料としますが、CO2を取り込んで生成するため排気によるCO2は発生します。ですが生成段階でCO2を取り込んでいるため、CO2排出量を差し引き0にしている燃料です。
現在はCO2を輩出してしまうので、100%のカーボンニュートラルとは言い切れません。ですが将来的には燃料会社さんと共に、内燃機関を残しつつ100%カーボンニュートラルを目指す取り組みです」と、環境問題に対し燃料からトライするとの事だ。
2年目のORC ROOKIE Corolla H2 conceptとORC ROOKIE GR86 CNF concept
2シーズン目に入ったカローラスポーツH2コンセプトに加え、GR86 CNF(カーボンニュートラルフューエル)の2台のコンセプトカーを走らせるルーキーレーシング。
監督の片岡龍也氏に話を伺った。「カローラスポーツの方は、2年目ですので昨シーズンの正常進化が狙いです。新たに加わったGR86ですが、こちらはスバルさんのBRZと同じ燃料を使用しています。
では何が違うのか。スバルさんはもともと搭載されている、水平対向エンジン。対してルーキーのGR86は1,4リッターターボエンジンに載せ替えています。兄弟車ではありますが、お互いに得意なエンジンに同じ燃料でガチンコ対決させようと言うわけです。そう言ったライバル関係を成立させる事で、開発スピードや完成度の高さを早めようと言うトライです」
GR86コンセプトと言う名前を冠する以上、カーボンニュートラルだけに収まらず先行開発もしているようだ。その部分についても片岡氏は「もちろんエンジンだけではありません。次世代86のために。ジオメトリを含めた、足回りであったり新素材のテストなど行われています。自動車メーカーのコンセプトモデルですので、これからも色々なパーツを組み込んでテストしていく予定です」と今後の構想を話してくれた。
今回の取材を通して各チームの代表が、語るレースの未来に説得力が出てきたように思える。昨年まではCO2ゼロの内燃機関でのレースなんて、遠い未来の話だと思っていた。その未来は、本当にすぐそばまで来ている。この先も心地よいエキゾーストを残しながら、環境に優しいレースが出来るのだと心の底から思えることが嬉しかった。
(文、写真:折原弘之)
折原弘之 プロカメラマン
自転車、バイク、クルマなどレース、ほかにもスポーツに関わるものを対象に撮影活動を行っている。MotoGP、 F1の撮影で活躍し、国内の主なレースも活動の場としており、スーパー耐久も撮影の場として活動している。また、レース記事だけでなく、自ら企画取材して記事を執筆するなどライティングも行っている。
作品は、こちらのウェブで公開中
https://www.hiroyukiorihara.com/
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