トヨタのメカニックがロードスターをメンテナンス!? 広島にこだわる「メイプル広島レーシングチーム」
参加型カテゴリーの最高峰であるスーパー耐久では、プロのレーシングチームからパーツメーカー、プロショップ、さらに自動車メーカーなどさまざまなチームがレースではしのぎを削り、あわせてそれぞれの参戦目的に向けた活動が行われている。
特にメーカー系の自動車販売店によるチームはレースでの勝利は目指すのはもちろんだが、自社のメカニックの育成やリクルートに活用するなど自社の活動につなげている。そんな販売店が関わるチームで面白い取り組みが行われているチームがある。それはST-5クラスにロードスターで参戦する「メイプル広島レーシングMAZDAロードスター」だ。
「広島というひとつの共通点で集まった」というこのチームは、実はマシンメンテナンスを広島トヨペットと広島マツダのメカニックが行っている。なぜロードスターを走らせるチームにトヨタ販売店が参加しているのか、その理由を広島トヨペットの古谷英明代表取締役社長と広島トヨペットのレーシングチームを統べるサービス事業部の二川正教部長に伺った。
トヨタとマツダ混成のオール広島チーム「メイプル広島レーシングチーム」
まず参戦のきっかけとしては、広島トヨペットが2022年まで「HIROSHIMA TOYOPET RACING」としてスーパー耐久に参戦していた際に、ドライバー兼アドバイザーとして参加していた桧井保孝選手からオファーがあったことだという。
「このクルマは桧井選手が所有されていて、MAZDA SPIRIT RACINGのサブのチームとして走らせたいんだけど、どうせならオール広島でメンバーを揃えたいから一緒にやりませんかというお誘いをもらいました」と二川部長が教えてくれた。
現在は広島トヨペット自らのチームでのスーパー耐久に参戦しておらず、GR Garageのスタッフも機材も参加することは可能ではあったということだが、そもそもロードスターで参戦するチームに参加することに対してはどのように感じていたのだろうか。
「GR Garage HATSUKAICHIとしてトヨタ車はもちろん、私たちは広島を拠点にしていますのでマツダ車のお客様もいらっしゃいます。メーカー問わず広島の全てのお客様にクルマを楽しんでもらえる技術を付けたいと考えていまして、いい機会でしたので車両のメンテナンスもさせていただいています」
オール広島で参戦することで、広島のクルマ好きを盛り上げたいという想いとともに、GR Garageが掲げる「町いちばんの楽しいクルマ屋さん」に向けた活動の一環として取り組んでいるのだ。
実際にGR Garage HATSUKAICHIではマツダ車などトヨタ車以外のメーカーのお客様もいたり、イベントに参加いただいたりしているようだが、これを機にトヨタ車以外の車種も扱うことの認知を上げていきたいという想いもあるようだ。
そして、以前まではライバルだった広島マツダと一緒のチームになるということで最初は不思議な感覚もあったそうだが、すぐにお互いにいいコミュニケーションを図ることでき、ロードスターに関してのメンテナンス方法もしっかり教えてもらいながらいいチームワークが生まれてきているという。
GR Garageにロードスターのお客様も迎え入れたい
ロードスターのS耐マシンに触れてみて、GR Garage HATSUKAICHIの田上輝昭ガレージマネージャーは、「やっぱりスポーツカーのレーシングカーだと感じます。ベースがしっかりとしたスポーツカーなので、以前走らせていたヴィッツとは違いますよね。しかもメカニックも楽しそうにしていますよ。普段触ることのないクルマですので新しい発見があったり、メーカーによる思想の違いなどを感じて日々勉強になっていると思います」と語ってくれた。
実際にロードスターをメンテナンスすることになったGR Garage HATSUKAICHIのGRコンサルタントの正木勇二さんにもお話を伺った。
HIROSHIMA TOYOPET RACINGとして参戦していた時からレースに帯同し、ヴィッツのエンジンの精密オーバーホールを担当するなどの経験を活かし、現在はスバルのEJ20型や日産のSR20型など他メーカーのエンジンのオーバーホールなども手掛けているという。
そうした他メーカーの受け入れに関しても「全部一から調べたり工具を揃えたりするのは大変ですけど、見たことがないクルマに触ることができるのは面白いですよね。広島だとサーキットに行くとロードスターが一番多かったりしますので、これを機にロードスターのお客様にも来ていただけるようになるとうれしいですね」と笑顔で語ってくれた。
レースで培った技術を途絶えさせないために
今回もサーキットに来場しスタッフと笑顔でコミュニケーションをとり、車両の移動時には積極的に手押しの輪に加わる古谷社長だが、こうしてスーパー耐久に改めて参戦することにした理由の一つに「技術を途絶えさせてはいけない」という想いも強いという。
2016年に広島トヨペットのレーシングチームを立ち上げ、2020年からはスーパー耐久に参戦、2021年からはST-ZクラスのGRスープラとST-5クラスのヴィッツと2台体制で参戦するなど、レース活動を通じて高い技術力を手に入れる環境が整っていた。しかし2022年をもってスーパー耐久への参戦を中止したことで、積み上げたものがなくなっていく危機感を感じていたのだろう。
「私達としてはクルマを整備する技術をもっと磨きたいし、キープしておきたいという想いがあります。今回はロードスターということで普段扱っているクルマとは違いますがやらなければいけないことは同じで、お客様の命を預かって走らせるという安全第一を実現するための技術を常に学んでいきたいと考えています」
また、広島トヨペットは「みなさまと一緒に“HIROSHIMAを楽しみ尽くす”企業への変革に向けた挑戦」という『HIROSHIMA+』というコンセプトを掲げている。その一環として立ち上げたHIROSHIMA TOYOPET RACINGを通じて「広島を盛り上げていきたい」という想いを、最前線でけん引していきたいという想いも伺うことができた。
いずれはロードスターのパーティレースにも出てみたい
2023年の年末に桧井選手からオファーがあり、年明けから動き出したプロジェクトももうすぐ1年目を終えようとしている「メイプル広島レーシングチーム」。来年以降のスーパー耐久への参戦は未定というが、今回ロードスターをメンテナンスする機会に恵まれたことで、新たな目標もできたという。
「GR GarageとしてはGR86/BRZ CupやYaris Cupなどお客様に安全に楽しんでモータースポーツに参加していただける体制作りは引き続きやっていきたいと思います。さらにロードスターの整備の技術もしっかり学んで、ロードスターのパーティレースに参戦したいという方のお手伝いもゆくゆくはさせてもらえればという目標もあります。マツダ車のレースにトヨタディーラーのチームが参戦するって面白いですよね」と、例えるならまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のような笑顔で二川部長は語ってくれた。
夢は広がるばかりのHIROSHIMA TOYOPET RACINGの今後の活動にも注目していきたい。
(文、写真:GAZOO編集部 山崎)
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