【折原弘之の目】スーパー耐久にデビューしたGR86。そのポテンシャルの高さの理由
6月4-5日に行われたスーパー耐久第2戦、NAPAC富士SUPER TEC24時間レースにデビューした新型GR86。デビュー戦の予選では旧型86に、約2秒の差をつけポールポジションを獲得。レースでも見事に24時間走り切りデビュー戦優勝。デビュー早々、その速さと強さを見せつけたレースとなった。
その新型GR86のデリバリーが始まり、スーパー耐久第3戦の菅生にはシェイドレーシングも新型GR86を持ち込んできた。結果は新型GR86が、ぶっちぎりで1,2フィニッシュ。旧型に比べ、格段に性能がアップした新型GR86について話を聞いてみた。
ベース車両としてのGR86、市販車について聞いてみた
スーパー耐久デビュー後、富士と菅生で2連勝を挙げたGR86。ベース車両の開発に深く関わった、佐々木雅弘選手に市販のGR86について聞いてみた。
「新型と旧型の大きな違いは、まずはエンジンです。旧型の2Lエンジンに比べ新型は、2.4Lと排気量が20%上がっています。今回はストロークを変えずにボアを広げることで、排気量をアップしています。
なぜボアのみ広げたかと言うと、ストロークを長くするとピストンスピードが上がり、壊れやすくなる側面があるからです。そのため、ストロークを変えずボアを広げる事で排気量を上げたのです。ですから高回転の気持ち良さはそのままに、中間トルクを乗せた印象です。しかもストロークを変えていないので、エンジン重量自体も2.0Lモデルと変わっていません。重量が変わらず、単純にパワーが上がったというのは大きなメリットだと思います。」と、まずはエンジンについてのアドバンテージを語ってくれた。
富士に続き菅生でも勝利を収めたTOM’S SPIRITチームとドライバー
佐々木選手はさらに、ボディ剛性やサスペンション周りについても語ってくれた。
「エンジンパワーだけが上がっても、バランスが悪ければ意味がありません。そういった意味でもボディ剛性は重要ですから、従来モデルに比べ150%増しています。プラットホームを含め、局部剛性がかなり上がっているので、ステアリングやタイヤからの入力に対する反応がすごく良いです。わかりやすく言うと接地感が上っているので、ステアリングやタイヤからの情報がより明確なんです。」
「これはレースだけではなくスポーツドライビングと言う観点からも、かなり完成度が高いと思います。もちろん普通に街乗りしても路面のギャップなどの走破性が上がっているので、ドライビング自体が楽しくなります」とのこと。
ボディ剛性を上げるために、アップライト(サスペンションの付け根部分)をアルミから鉄に変えたり、スタビライザーを見直したりしたそうで、市販車ベースで言えば新型GR86は、旧モデルとは別物と言って良いほどの仕上がりと言って良さそうだ。
佐々木選手の話から、ベース車両としてのパフォーマンスの高さを知ることができた。
そこで、実際にGR86を使ってレースに出場したTOM’S SPIRIT(トムススピリット)の3選手に話を聞いてみた。まず山下健太選手に、新型GR86の印象を聞いてみた。
「デリバリーが遅れてしまい、富士24hが事実上のシェイクダウンになってしまいました。そんな状態ですから、セッティングも煮詰まらないままの走行だったんです。にも関わらず乗りやすくて、ポテンシャルの高さを感じましたね。
ここから詰めていけば、もう1秒くらいはタイムも詰められそうな感じです。」と、かなり好印象なようだ。クルマの性格について聞いてみると、「ハンドリングは、どちらかと言えばオーバー方向です。そこについてはセッティングでなんとでもなると思いますが、基本的にはリヤで回っていくタイプのクルマですね」と、まさに佐々木選手が味付けした通りになっているようだ。
ただし、レースで使うにはもう一工夫必要なようで、「今は入り口でオーバーステア気味に入っているんですが、そこからリヤを出そうとするとフロントが逃げていく感じなんです。そこのバランスがうまく取れれば、もう一打段階レベルが上がると思います」とポテンシャルの高さを窺わせるコメントをしてくれた。
河野俊佑選手からは、開発側のコメントを聞くことができた。
「24時間がデビューのできたてのマシンの割には、安定した仕上がりだったと思います。
これは、ベース車両のポテンシャルが高かったおかげだと思います。その中でも煮詰める箇所は沢山ありますし、各部のネガ出しみたいな作業もこのプロジェクトの使命の一つでもあります。」新型GR86でスーパー耐久に参戦する理由の一つに、“より厳しい条件でクルマを鍛え熟成させる”と言う大事な使命があるのだ。
具体的にどのような開発をしているのか聞いてみると、
「一言で言えば最適化ですね。クルマを仕上げて行く上で、ブレーキの選定だったり、サスペンションの設定だったり。ありとあらゆるパーツを精査し、より良いクルマに仕上げる作業をしています。レースで得られた情報を、最終的には市販車にフィードバックさせるのが目的ですから。」とのこと。
河野選手からのコメントからは、メーカーワークスならではの役割を担っていることも垣間見ることができた。
最後に新旧86でレースを戦った経験のある松井孝允選手に、その違いを聞いてみた。
「新型に乗り換えて一番変わったと感じるのは、やはりエンジンですね。
20%排気量がアップされているので、パワーの違いは体感できています。分かりやすくするためにパワーという言い方をしましたが、体感しているのはトルクの太さの方ですね」と、市販車を開発した佐々木選手のコメントを、裏付けるようなコメントが飛び出した。
これは、まさに狙い通りのクルマに仕上がっているようだ。次にクルマの剛性について質問してみると
「剛性はメチャクチャ上がってますね。それによって、足(サスペンション)がきちんと仕事している感じです。旧型はどこか動きが引っかかる感じがあったのですが、新型は入力に対してサスペンションがキチンと動いている感じです。」と話してくれた。
24h耐久レースで旧型より2秒近く速かった理由について聞いてみると、
「マシン自体の印象は、旧型とさほど変わらないんです。あくまでも旧型の延長線上で、正常進化しただけなんです。だから、乗り方も変える必要が無かったんです。富士で旧型より2秒速かったのも、コーナリングスピードが上がったとかではなく単純に加速性能で詰めた感じです。それにトルクが増した事で、レースが楽になりました。」
「例えば予想よりスピードを落とさなければいけないシュチュエーションでも、求めるスピードに復帰するのが速いから楽なんです。まだ出来たてなのにポテンシャルの高さを感じられますから、セッティングを詰めていけばもっと楽しくレースができると思います。」と、かなり高評価だ。
正常進化したGR86、これからが楽しみだ
NAPAC富士SUPER TEC24時間レースから、スーパー耐久シリーズに参戦を始めたGR86。JAF GT車両(スーパー GTに出場しているマシン)とは違い、あくまでも市販車の延長線上にあるスーパー耐久マシン。市販車のポテンシャルが、そのまま戦力に直結する。
今回の取材から、戦闘力の高さと信頼性の高さは証明された。レースだけではなく、市販車自体のポテンシャルもかなり高い。佐々木選手の弁を借りれば、「より一層スポーツドライビングが楽しめるクルマ」に仕上がっているようだ。
新型GR86はレースのみならず、ドライビングの楽しさを教えてくれる上質なスポーツカーに仕上がったようだ。
(文、写真:折原弘之)
折原弘之 プロカメラマン
自転車、バイク、クルマなどレース、ほかにもスポーツに関わるものを対象に撮影活動を行っている。MotoGP、 F1の撮影で活躍し、国内の主なレースも活動の場としており、スーパー耐久も撮影の場として活動している。また、レース記事だけでなく、自ら企画取材して記事を執筆するなどライティングも行っている。
作品は、こちらのウェブで公開中
https://www.hiroyukiorihara.com/
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