レースを題材にすると、よりドラマチックな写真に仕上げたくなる。

レースをはじめとするスポーツの撮影は、ドラマを演じている演者を撮るようなものだ。感動を与えてくれるアスリートを、よりドラマチックに表現するには撮影中に気を配るのは当然、撮影後の画像補正も有効な手段の一つだ。今回はモビリティリゾートもてぎで行われたMOTO GPを題材にして、よりドラマチックな表現をするレタッチについて考えていこう。

ドラマチックな演出について語る前に、写真に対する僕の基本的な考え方を説明しておきたい。撮影するにあたって一番大事なことは、被写体となるターゲットをしっかりと決めておくことだ。

MOTO GPのように世界中からスターが集まって来るレースの場合、なおさら撮る対象を絞るべきと考える。大勢のスター選手からターゲットを絞るのはもったいない気もするが、より中身の濃い写真を撮るには散漫にならないように撮影したい。

今回の日本GPは、ケガから復帰したマルク・マルケス選手とウイナーとなったジャック・ミラー選手に絞って撮影した。撮影対象を決めたら、どう表現していくかを決めるのだが基本的には「写真は引き算」と言うのが僕の考え方だ。なるべくシンプルに作品を作っていきたい。

  • 折原弘之のレース写真考察 背景を簡略化

    【写真01】バックを簡略化するのは最もシンプルな表現だ

  • 【写真02】

  • 折原弘之のレース写真考察 記者会見を作品として仕上げる

    【写真03】記者会見も見方を変えれば作品として成立する

【写真01】のようにバックを簡略化し、見せたいものだけを切り取る。これが一番簡単で効果的な方法でもある。レタッチしたのはバックに入っているロゴを消し、ヘルメット奥の顔を少し明るくすることで緊張感を増す効果を上げたことだ。
また【写真02】のように、コントラストを上げて明暗さを利用するのも効果的と言える。コントラストを上げ、バックを焼き込むことで顔に当たったライトを強調することができる。このようにチョットしたレタッチで、より大きな効果を得ることができる。
また、【写真03】のように少しアングルを工夫することで、記者会見などの退屈そうな場面でも意味を持たせることもできる。

  • 折原弘之のレース写真考察 ブレーキの強さを表現

    【写真04】ブレーキングの強さを表現してみた

アクションシーンを撮影する場合は、どんなシーンを撮りたいのかをハッキリとイメージすることが大切だ。【写真04】はブレーキングで、リヤタイヤをリフトさせているシーンだ。リヤタイヤがリフトする事で、ブレーキングの強さをより強調できる。さらに言えばフロントフォークがフルボトムし、アッパーカウルとフロントフェンダーがぶつかりそうなくらい接近している。そんな所からも、Gフォースの強さを表現することが可能なのだ。

  • 折原弘之のレース写真考察 雨の日にライダーの目線を狙う

    【写真05】雨の日はライダーの目線を狙う絶好のシュチュエーションだ

雨の日にも表現できることがある。【写真05】のように、走行しているライダーの目にフォーカスする事だ。この写真はクリアシールドを使用する、雨の日ならではの作品だ。
シールドの奥の目を撮ることで、作品が一層力強くなる。撮影時の露出を少し明るめにし、レタッチでは色のバランスをとってやるくらいに抑えておこう。アクションシーンに関しては、写真自体が強いのでレタッチする事は少ないと感じている。
レタッチに慣れていないと、いかにも「いじりました」と言う感じで「ヤリすぎ」る事が多くなるでしょう。僕のレタッチは比較的控えめのにし、「オリジナルと比べた時に初めてわかる」くらいの仕上がりを心がけている。

  • 折原弘之のレース写真考察 色の強さで作品に力を与える

    【写真06】色の強さが作品に力を与えてくれる

晴れた日の撮影では、レタッチもやれることが増えてくる。写真06のように逆光を利用して、日中シンクロにトライしてみるのも良い表現方法だ。

この作品のポイントは、逆光で影になった被写体に光を当てバックの露出に合わせて撮っていることだ。太陽光に負けない強さでストロボを発光させ、被写体の色を出すことでより濃い色を出している点だ。
クリップオンストロボでの撮影なので、発光量はMAXで良い。それでも足りない場合は、レタッチで補ってあげよう。例えばレイヤーを複製して「乗算」(レイヤーを重ねて色を濃くしていく)し、色が濃すぎる部分のレイヤーを薄く消してあげれば、より緊張感のある作品に仕上がる。

  • 折原弘之のレース写真考察 被写体を浮かび上がせる

    【写真07】露出の差を利用し被写体を浮かび上がらせることも出来る

【写真07】は、モビリティリゾートもてぎならではの作品と言える。立体交差の陰に入った瞬間なのだが、影に露出を合わせることでバックを真っ白に飛ばしている。日影と日向の露出差を利用した表現なのだが、曇りの日だと露出差が少なくバックが飛び切らないので晴天でこそ生きてくる。晴天でも影の部分は残ってしまうので、コントラストを上げスタンプツールなどを使用してバックを真っ白に飛ばすことも必要だ。

  • 折原弘之のレース写真考察 物のアップで表現

    【写真08】物のアップで表現できることも多い

  • 折原弘之のレース写真考察 物のアップで表現

    【写真09】物のアップで表現できることも多い

他にも表現方法は、色々考えられる。【写真08】のように物を撮っただけでも、スピード感や迫力を表現する事ができる。
例えばエキゾーストの出口のヒートグラデーションは、金属の温度が上昇しとてつもない高温で加熱され、この部分が紫から青に変色する現象で、排気温度がの高さ=エンジンの爆発の強さを表現することができる。
さらに彩度とコントラストを上げると、見せたい部分を強調することができる。【写真09】は何の変哲もないアッパーカウルの写真だが、バックを暗く落とし余計な物を排除することで静寂や緊張感を表現できる。このようにアスリートや、アクション以外でも緊張感は表現できるのだ。

  • 折原弘之のレース写真考察 喜びの表現も工夫次第

    【写真10】喜びの表現も工夫次第でワンランク上の作品となる

  • 折原弘之のレース写真考察 喜びの表現も工夫次第

    【写真11】喜びの表現も工夫次第でワンランク上の作品となる

最後に【写真10】のように、足し算の写真も場合によっては面白い。このレースで優勝したジャック・ミラー選手のバーンアウト。モータースポーツの喜びの表現としては、見慣れた光景だが説得力は強い。
大量のスモークを足す事で、喜びの感情を表すもってこいのシーンとなる。そして表彰式で、バックにある母国の国旗を足すことでより感動を大きくしてみた。この作品は大きくレタッチしてはいない。影になった顔を少しおこしたくらいだ。このように様々な題材をレタッチすることで、表現したいことをより強調することができる。撮影後のレタッチもデジタル写真の醍醐味だ。最初は難しいかもしれないが、慣れてくると表現の幅が広がるので是非試して欲しい。

(文/写真:折原弘之)

折原弘之 プロカメラマン

自転車、バイク、クルマなどレース、ほかにもスポーツに関わるものを対象に撮影活動を行っている。MotoGP、 F1の撮影で活躍し、国内の主なレースも活動の場としており、スーパー耐久も撮影の場として活動している。また、レース記事だけでなく、自ら企画取材して記事を執筆するなどライティングも行っている。

作品は、こちらのウェブで公開中
https://www.hiroyukiorihara.com/

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