運転免許を取得、ATとMTのどちらが良いのか

運転免許の取得するとき、「AT限定」と「限定なし」(MT運転可能)で悩んだ、または悩んでいる人がいるのではないでしょうか。日本で販売されている車の多くはAT車であるため、「AT限定」で困るのはレアケースだと思います。「限定なし」の運転免許が必要なケースは、仕事の都合でMT車を運転しなければならないケースや、どうしても乗りたい車がMT車しかない場合だと思います。今回は、初めて普通自動車第一種運転免許(以下;普通免許)を取得するときに「AT限定」と「限定なし」のどちらが良いのか、教習指導員の資格を保有している筆者が説明します。

免許取得者の6割以上が「普通車はAT車に限る」の条件付き

警察庁が発表している令和2年度版「運転免許統計」によると、普通免許の保有者は、全国で429万431人(2種類以上の運転免許を保有している人は上位免許に計上)です。この中で、普通免許のみを保有し「AT限定」の条件が付いている保有者は283万3,167人。つまり、普通免許のみを保有している人で、「AT限定」の条件が付いている免許保有者は66%ということです。

つまり、普通免許保有者のうち34%は、限定条件なしのMT免許ということになります。発売されているMT車の数を考えると違和感がありますが、教習指導員としての体感上、今必要な人だけでなく将来のことを考えて取得している人が多いからだと思います。

迷っているなら「限定なし」、MT興味ない人は「AT限定」

MT車を運転する必要性がある場合だけでなく、将来MT車を運転する可能性がある、運転してみたいと思う場合は「限定なし」で取得してみても良いと思います。MT車のほうが、クルマをあやつる楽しさがありますからね。
しかし、休日のドライブや日常生活における送迎・通勤などのためだけに普通免許を取得するのであれば、「AT限定」でも不自由なことはほとんどありません。また、技能的に容易な「AT限定」のほうで簡単に取得できるでしょう。「AT限定」で普通免許を取得し、「限定なし」の免許が必要になった場合には、審査を受けて限定解除をすれば良いのです。

AT限定の普通免許でMT車を運転すると違反なの?

「AT限定」の普通免許でMT車を運転すると「免許条件違反」になります。免許条件違反とは、道路交通法 第91条「免許の条件」に違反したときに適用される違反です。道路交通法 第91条には「運転の技能に応じ、その者が運転することができる自動車等の種類を限定できる(一部抜粋)」と定められています。

「限定なし」の普通免許(MT免許)で運転できる車は、普通自動車(AT車・MT車)、小型特殊自動車、原動機付自転車です。一方、「AT限定」の普通免許(免許の条件「普通車はAT車に限る」)で運転できる車は、普通自動車(AT車のみ)、小型特殊自動車、原動機付自転車となります。あたり前ですが、「AT限定」の普通免許では、運転できる普通自動車の種類をAT車のみに限定している点に違いがあるのです。

大枠の「普通免許」という点では、「限定なし」も「AT限定」も同じということになります。そのため、限られた車種のみの運転を許可している「AT限定」の普通免許でMT車を運転すると、普通免許の限定条件を守っていないということになり「免許条件違反」になるのです。

限定解除には2通りの方法がある

「AT限定」の普通免許を限定解除するときは、どうすればよいのでしょうか。
普通免許の限定解除の方法は、「指定自動車教習所で技能審査を受ける方法」と「直接試験場で限定解除審査を受ける方法」の2通りです。ここでは、警視庁が公表している限定解除の条件や手続き方法を例に挙げて解説します。

限定解除の審査を受験するための条件

「AT限定」普通免許の限定解除の審査を受けるためには条件があります。その条件とは、居住している住所を管轄する公安委員会で手続きをすることと、限定されている免許を現に受けていることです。この2点が限定解除をするための条件となります。

指定自動車教習所で技能審査を受ける方法

指定自動車教習所では、「AT限定」普通免許の限定解除の教習および審査を受けられます。最寄りの指定自動車教習所で限定解除を実施しているかという詳細は、ご自身でご確認ください。

令和3年5月13日に警察庁交通局の通達文書には、限定解除に関わる教習の最低時限や教習内容が細かく定められています。その内容は、次の通りです。

普通免許の限定解除は、MT車による技能教習で、最低4時間以上受けなければならないと定められています。教習内容は、「クラッチペダル・チェンジレバーの取扱い」、「発進及び停止」、「変速操作」、「ブレーキ操作」、「坂道の通過」、「狭路(曲線・屈折)の通過」、「坂道発進」、「踏切通過」、「方向変換及び縦列駐車」、「教習効果の確認(みきわめ)」の10項目です。また、限定解除の審査も教習内容に基づいて行われます。つまり、教習所のコース内で教習や審査が行われるのです。

指定自動車教習所での限定解除の教習が修了し、審査を受けて合格すると「技能審査合格証明書」が発行されます。この技能審査合格証明書と現在の運転免許証を試験場に持参し、手続きをすれば免許証条件変更(限定解除)が完了です。

試験場で限定解除審査を受ける方法

試験場で限定解除をするときは、運転免許証を持参して試験場に出向き、限定解除審査申請書(試験場にて入手可能)を記入し、技能審査を受けます。技能審査に合格し、免許証条件変更の手続きをすれば限定解除が完了です。

限定解除の手数料

試験場で限定解除の審査を受けるときの手数料は、試験手数料が1,400円、試験車使用料が1,450円、合計2,850円です。指定自動車教習所で発行された「技能審査合格証明書」を持参し手続きをする場合には、試験手数料の1,400円がかかります。

限定解除をスムーズに進めるために

当たり前のことですが、限定解除をスムーズに進めるためできることは、AT車での運転に慣れておくことです。運転する車がAT車からMT車になると操作が増えるため、運転が難しくなります。指導員としての経験上、AT車での運転に慣れていない状態でMT車を運転すると、基本操作や装置の取り扱いを習得するのに時間がかかり、教習時限が伸びてしまい、追加料金が発生してしまう可能性が高くなるでしょう。

私は、指定自動車教習所で限定解除の指導も行っていました。これまでの指導経験から限定解除をスムーズにするための最低限のドラテクをまとめましたので、これから限定解除をしようと考えている方は参考にしてみてください。

運転装置の操作方法の見直し

アクセルやブレーキ、ハンドルや方向指示器などの運転装置の操作を見直しておきましょう。ペダルの踏み方、ハンドル保持の位置、ハンドルの回し方や戻し方などの運転装置の操作は、日頃の運転でクセがついていると直すのが難しいです。限定解除の教習および審査を受ける前にクセを直しておきましょう。

安全確認の方法

安全確認はミラーと目視で確実に行いましょう。ミラーだけで安全確認をしてしまうと、ミラーの死角部分の安全確認をしていないと判断がされてしまい、減点が積み重なり、審査で不合格になってしまいます。安全確認はミラーだけでなく、ミラーの死角となる斜め後方の目視確認も確実に行ってください。

AT車で運転に慣れてから限定解除をした方がMT車への移行がしやすい

AT車はクルマの基本的なテクニックである程度の運転が可能です。AT車より操作量の多いMT車の運転が必要になったときは、AT車で運転や公道での走行に慣れてから、限定解除の審査を受けることをおすすめします。

(文:齊藤優太 編集:ガズー編集部 岡本 写真:AC)

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