標識がなくても「徐行」しなければ罰則を課されることがあります

道路には、道の形状や建物・工事現場などの影響により先の状況がわかりにくい場所があることから、標識等がなくても徐行しなければならない場面があります。そこで気になるのが、徐行とはどのような速度で通行することなのかということ。今回は、徐行の定義や徐行すべき場所、法律で定められていない場所における徐行、実際の判例、判例からわかる徐行という速度作りの方法をお伝えします。

「徐行」の定義と徐行すべき場所について

そもそも「徐行」とは、道路交通法第2条20号に「車両等が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう」と定義されており、明確な速度は定義されていません。しかし、教習所などでは、「1m以内で停まることができ、おおむね10km/h以下の速度」として周知され、非常に遅い速度で走行するという認識になっています。

この認識は間違っていないものの、すぐに停まるためにブレーキペダルに足を乗せたり、すぐに踏み込める状態にしなければ、車両等をすぐに停止させることはできません。よって、徐行とは、すぐに停まれる速度、かつ、停まるためのペダルの構えをしていることといえるでしょう。

では、ブレーキペダルに足を乗せ直ぐに停止するための準備をしていれば、どのような速度であっても徐行といえるのでしょうか。実際の交通事故の判例から徐行の速度について考えていきましょう。

交通事故の判例から見る徐行

交通事故の判例では、道路の形状に応じて、すぐに停止できる速度での走行し、停止する準備をしていることが徐行であることがわかります。では、実際の判例を確認してみましょう。

【判例1】見通しの悪い交差点で起きた事故(昭和43年東京高等裁判所)

古い判例ではありますが、交通整理が行われていない(信号機がない)見通しの悪い交差点で起きた事故での判例です。

この事故は、法定最高速度40km/hのところを20km/hまで減速して走行し、ブレーキベタルの上に足を乗せ、いつでも停車できる措置をとりながら走行していたものの、徐行と認められませんでした。

裁判では、ブレーキベタルの上に足を乗せていつでも停車できる措置をとりながら進行していたとしても、20km/hで走行していた場合にすぐに停まれる速度ではないことは明らかだと判断し、徐行義務に違反しているという判決でした。

つまり、この裁判では道路の状況から20km/hが徐行ではないという判決になったのです。

【判例2】タクシーと乗用車の見通しの悪い交差点で起きた事故(平成14年最高裁判所の主文より)

この事故は、夜間に見通しの悪い交差点で起きたタクシーと乗用車の事故です。タクシーが法定最高速度30km/hの道路を30km/h~40km/hで走行し、見通しが悪い交差点に侵入したとき、交差する道路の左側から走行してきた乗用車(酒気を帯びた状態で法定最高速度30km/hのところを約70km/hで走行)に衝突された事故でした。

そもそも、タクシーが法定最高速度を超過していたことや交差する道路から走行してくる乗用車の明らかな速度超過は違反です。そのため、裁判では両車に速度超過があったことも判決に影響しています。

しかし、この裁判で注目すべき点は、1審と2審でタクシーが見通しの悪い交差点に10km/h~15km/hに減速して徐行し、安全確認をしていれば、事故の回避が可能であったと判決がくだされていることです。つまり、道路の状況から15km/h以下が徐行であると裁判所が認めているのです。

上記の2つの判例から、徐行とは道路の状況に応じて、飛び出しや交差する道路から走行してくる車両を見つけたときに、すぐに停まれる速度で走行し、停車するためのペダルの構えをしていることだといえるでしょう。

徐行すべき場所はどこなのか?

徐行すべき場所を一言で説明するのであれば、「先の見通しが良くない場所」です。先の状況が把握できない場所や飛び出しなどの危険性がある場所では、法律の定めに関わらず徐行する必要があると言えます。また、徐行すべき場所ではないですが、徐行しなければいけない場合もあります。

道路交通法第42条では、徐行する場所を「標識がある場所」、「見通しがきかない交差点(信号機や優先道路を通行している場合を除く)」、「道路の曲がり角」、「上り坂の頂上付近や勾配の急な下り坂」と定めています。しかし、法律で定められている場所以外にも、住宅街のカーブの先や人通りが多い道路では、建物などの影響で先の道路の状況を把握しずらく、人の飛び出しなどの危険性があるため、事故につながるリスクが高いです。

そのため、法律に定められていない場所でも、先の見通しが悪い場所や交差する道路の安全を確認することがむずかしい場所では法定最高速度以下の速度で走行し、事故につながる危険がありそうな死角の多い場所では徐行する必要があるでしょう。

徐行しなければいけない場合は、「狭い道路で歩行者の横を通るとき」「左折するとき」「道路外に出て右左折するとき」ほかに「身体障害者や幼児のそばを通過するとき」などあります。危険が潜んでいる場所は、徐行しなければいけないと思えば良いでしょう。

徐行で走行するコツ

徐行は、何かあったときにすぐに停止できる速度、かつ、すぐに停止するためのペダルの構えが必要です。つまり、道路の形状や交通量、場面によって、速度の作り方が違うということです。

ここで紹介する「見通しの悪い交差点」、「交差点の左折」、「交差点の右折」は、いずれも道路交通法の定めにより徐行しなければなりません。それぞれの場面によって速度の作り方にどのような違いがあるのでしょうか。

【見通しの悪い交差点】

見通しの悪い交差点では、交差点に差し掛かる手前までに十分に減速します。なお、交差点の手前に一時停止がある場合は、停止線の手前で一度停止してから、交差点の手前まで徐行で進みます。交差する道路の状況がわかるまでは、ブレーキペダルに足を構えた状態で速度を抑えながら進行し、車両・歩行者・自転車などがいないことが明らかであれば、アクセルに足を移し、アクセルペダルを踏んで進みましょう。

【左折】

交差点の左折は、巻き込み事故や走ってくる横断者などがいることから、危険性が高い場所です。そのため、交差点に差し掛かる手前までに十分に速度を落とし、ブレーキペダルに足を構えた状態で安全確認をしてから左折を開始しましょう。人や自転車などが明らかにいないときは、アクセルをわずかに踏み、速やかに進んでいきます。また、左折した先の道路の状況に応じて、アクセルを踏み込み量を調整することも大切です。

【右折】

交差点の右折は、対向車線の直進車や左折車・横断者・自転車が明らかにいないことを確かめてから右折を開始します。右折するときは、わずかにアクセルペダルを踏み、速やかに右折を開始し、横断歩道に差し掛かる前までにブレーキペダルに足を構え、右折した先の横断歩道に侵入してくる横断者などがいないことを確かめながら進むと良いでしょう。横断歩道を横断する人などがいない場合には、再びアクセルペダルに足を移し、速やかに進んでいきます。

上記は、あくまでも代表的な速度の作り方です。交通場面によってブレーキペダルに足を構えるタイミング、アクセルペダルを使うタイミングが異なることがわかるかと思います。ここで説明した速度作りのコツは、安全運転の参考にしてみてください。

死角に潜む危険を予測して速度作りをしましょう

道路交通法では、徐行について明確な速度が定義されておらず、直ちに停止することができるような速度で進行するということだけが定められています。すぐに停止できる速度は、道路状況や交通場面によって異なるため、一概に何km/hと断言できません。

ただし、すぐに停まれる速度、つまり、徐行すべき場所であるにも関わらず、明らかに徐行していない場合には、「徐行場所違反」として罰則が適用されます。違反点数は2点、反則金は普通車で7,000円です。

道路交通法に定められている徐行すべき場所は、交差する道路からの飛び出し、建物や道路形状などの影響によって発生する死角に危険が潜んでいる可能性があることから、徐行場所として指定されている場合がほとんどです。徐行すべき場所では、死角に危険があるかもしれないという意識を持って運転をしましょう。

また、法律で定められている徐行すべき場所だけでなく、建物や駐車車両などによって死角が発生している場所では、道路の先の状況や交差する道路の状況がわかりにくいため、十分に速度を落とし、ブレーキペダルに足を構え、すぐに停まれる速度で通行することが大切です。何かあったときに停まれる速度と停まる準備をすることで、事故を減らすことができるでしょう。

(文:齊藤優太 編集:ガズー編集部 写真:国土交通省、AC、トヨタ自動車)

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