ランクルとともに人を鍛えるTLC。 ダカールラリー2017同行取材で観た!(その3) 1/2

<Team Land Cruiser TOYOTA AUTO BODY>(以降TLC)がダカールラリー2017の市販車部門で4連覇を達成し、しかもワンツーフィニッシュを飾った。豪快に走るプジョーのバギーやMINI、ハイラックスを中心に総合優勝争いが注目される中、市販車部門は、市販車が持つ本来の信頼性、耐久性、悪路走破性の高さが試される最も過酷な走行試験的要素がある。その中で連覇をすることは容易なことではない。90年代までは、トヨタだけでなくレンジローバーやメルセデス、日産、三菱、いすゞなどラダーフレームを持つ4WD車がしのぎを削っていた。トヨタフランスが、プライベーター支援のためにランドクルーザーの部品を積んだアシスタントカミオンを走らせてくれたり、90年代中盤以降、TLCの前身であるチームアラコがランドクルーザー80で参戦したあたりから、徐々に「市販車部門はランドクルーザーであったら完走できるし、上位入賞できる」ということが選手たちの常識となった。2009年に舞台をアフリカ大陸から南米大陸に移してから、その傾向は加速し、今回も市販車部門のほとんどが、ランドクルーザー200、ランドクルーザープラドが占めた。その頂点に立つのが、トヨタグループでランドクルーザーの開発・生産を担うトヨタ車体のチーム、TLCだ。このチームは、市販車部門の頂点に立つことだけを目指しているだけでなく、いくつかのチャレンジを続けている。

社員が選手でダカールに挑む

チームが発足したのは前身であるアラコからだが、当初より社員が選手として参戦した。伊藤健司さん、藤澤隆さん、伊藤一さん、荒川大介さん、沼田靖志さんなど、みなナビゲーターを務めてきた。その後、ダカールラリーでの経験を活かし、エンジニアとして「もっといいクルマ作り」に活躍している方が多い。「道が人を鍛える」ということを23年前から続けているが、発足当初は、リクルート活動の意味合いがあった。アラコはトヨタが世界に誇るランドクルーザーを組み立てる会社だったが、社員への士気高揚や地域の方々により知っていただくことで入社希望者を増やす狙いもあった。トヨタ車体に車両事業統合後もダカールラリー参戦活動は継続され、今回社員ドライバーとして参戦している三浦昂選手は、ダカールラリーに出られるかもと思ったのが入社志望のひとつの要素だったことから、このモータースポーツ活動は、企業活動のひとつとしても大きな役割になっている。
三浦選手は、2006年に当時23歳で社内選考会で選ばれ、三橋淳選手のナビゲーターとしてUAEデザートチャレンジでクラス優勝し、2007年ダカールラリーで市販車部門優勝。そして最も若く活躍したナビゲーターに贈られるアンニ・マーニュ賞を獲得するなど華々しいデビューを飾った。舞台を南米大陸に移した2009年はフランス人ドライバーのニコラ・ジボン選手とコンビを組み、市販車部門で優勝した。しかし翌年リタイヤし、後輩社員ナビゲーターの育成をするようになったが、チームが市販車部門の連覇が6勝で途絶えてしまった翌年、再度ナビゲーターとしてチームに合流し2015年までチーム連覇に貢献した。 そして2016年、TLCとして初めて社員ドライバーとなりステアリングを握った。今まで三橋選手、ニコラ選手のナビゲーターとしてダカールラリーを走っていたから、どのようにランドクルーザーを走らせればいいか、ドライビングやペースなどの感覚は備わっていた。チームメイトのニコラ選手のサポートをしながら見事完走し、市販車部門連覇に貢献した。2度目のドライバーとなる今年は、事前にロシアと中国を走破するシルクウェイラリーに1台で参戦し、終盤まで部門トップを走りながら、いくつものトラブルを乗り越える経験をナビゲーターのローラン・リシトロイシター選手と積んできた。今年のダカールラリーでは、序盤から市販車部門ワンツー体制を作り上げ、ステージ4では、チームメイトのクリスチャン・ラヴィエル/ジャン・ピエール・ギャルサン組がタイヤのパンクやリム落ちでスペアタイヤを使い切ってしまったため、自分たちのスペアタイヤを渡すなどチームワークに徹しながらも、ステージ部門優勝するという快挙を成し遂げた。後半ステージでもステージ部門優勝するなど安定した走りをベースに日に日に速くなっていく姿に、チームメンバーがみな喜んでいた。三浦選手は、トヨタ車体に入社してダカールラリーに出たいという夢を、まずナビゲーターとして叶え、そして今度は社員ドライバーとしてさらに成長し、市販車部門連覇の目標達成をより確実なものにしている。三浦選手がランドクルーザーをドライブし、ダカールラリーでつけてきた轍を見て、社内はもちろんこれから社会人になる若者にも大きな道標になっていくことだろう。

パラグアイでプレスカンファレンスを実施したTLC。中央の角谷監督は2015年に就任。以来、市販車部門でチームを優勝に導き続ける
TLCはフランスで予備車検を受けているので、車検会場では選手の装備などをチェックしてもらうくらい合格できる。それでも合格するまで緊張する場所だ
パラグアイ・アスンシオンのセレモニースタート。トヨタ車体 増井社長も応援に駆けつけ、選手たちにエールを送った
ポディウムが見える観客エリアは、歩く隙間がないほどたくさんの観客が集まり、大いに盛り上がった
ステージ初日はマシンの調子をみながらも果敢に攻める
自分のマシンが巻き上げる砂塵で視界が遮られることもある
サン・サルバドール・デ・フフイ(アルゼンチン)からトゥピサ(ボリビア)へ向かう416㎞のステージ4では、砂丘も越えた。チームメイトがスペアタイヤを使い切ってしまったため、自分たちのスペアタイヤを貸すなど献身的なサポートをした。この日三浦選手はステージ部門優勝をした
チームメイトのクリスチャン選手は、総合上位を走ってきたベテランドライバー。三浦選手はもっとうまくなるためにクリスチャン選手に教えを乞う
雄大な地形のなかを疾走するのは気持ちいい。直線では180km/hを超えるときもある
川渡りでは、そのダイナミックな走りを観にたくさんの観客が集まっているところもある
ナビゲーターをしていたときに、三橋淳選手の砂丘をまるでサーフィンをするかのように華麗でダイナミックな走りや、ニコラ・ジボン選手のスタックしない的確なライン取りなどを体験しているので、自分の走りに迷いがない
ビバークでは翌日のステージのブリーフィングがある。ドライバーになった今もしっかり参加して貪欲に情報を集める
砂丘は迷ってアクセルを緩めればスタックする。踏みすぎてもスタックする。着実に砂丘を越える術をすでに得ている

(写真:トヨタ車体、寺田昌弘)
(テキスト:寺田昌弘)

[ガズー編集部]