トヨタ5大陸走破プロジェクト~アフリカ走破で観た社員の挑戦

モータースポーツの現場での極限の環境が、クルマが持つ100%の能力を引き出し、限界を見極め、その限界を押し上げていくことで、「もっといいクルマづくり」と「人づくり」を推し進めているTOYOTA GAZOO Racing。スピードの向こう側を目指し、日々成長していく活動は、2018年にはWRC(FIA世界ラリー選手権)でマニュファクチャラーズタイトルを獲得。WEC(FIA世界耐久選手権)ではル・マン24時間レースで初優勝と着実に成果を上げています。

この極限の環境とは別に、日常的な環境を世界中のユーザーと同じように走り、現場を体感しながら「もっといいクルマづくり」と「人づくり」に挑戦しているのが「トヨタ5大陸走破プロジェクト(以降5大陸走破)」です。どちらも「道が人を鍛える。人がクルマをつくる」という信念のもと、ターマック、グラベル、サーキットそして世界中の道を走り、道との対話、自身のセンサーを磨きながら、その国々の現場を肌で感じ取っています。

  • 左からランドクルーザープラド、フォーチュナー、ランドクルーザー200、ハイラックスなど8車種でアフリカ大陸を走破
    左からランドクルーザープラド、フォーチュナー、ランドクルーザー200、ハイラックスなど8車種でアフリカ大陸を走破
  • アフリカ大陸を走破するTeam 1
    アフリカ大陸を走破するTeam 1

5大陸走破は2014年にオーストラリア大陸を72日間、約20,000kmを走破し、2015年には北米大陸109日間、28,000km、2016年は南米大陸84日間、約20,000km、2017年は欧州を85日間、約21,000kmを走破してきました。そして昨年、アフリカ大陸を49日かけ、約10,600kmを走破。すでに延べ556人の国内外メンバーが、99,600kmを399日かけて走破しました。

私は過去ダカールラリーで南米大陸を走破していることから、チリ、アルゼンチンと一部同行させていただく機会があり、今回、アフリカ大陸も90年代からNPO医療支援やパリダカールラリーで走破していたことから、タンザニア連合共和国とナミビア共和国で一部同行する機会をいただきました。そこで観たのは、走破隊メンバーのひたむきな道との対話、メンバーどうしのクルマ談義、そしてクルマと向き合う姿でした。

トヨタ車が多いタンザニア

  • タンザニアをスタート
    タンザニアをスタート
  • 朝のブリーフィング
    朝のブリーフィング

日本と同じ右ハンドル、左側通行のタンザニアでは、トヨタ車が圧倒的に多い。人口約40万人のアルーシャの街では、その多くは日本などから輸入された中古車で、車種がある程度限定されます。6代目、7代目のカローラ、イスト、100系ハイエース、初代アルファード、初代ハリアーが多く、逆に新車ではサファリツアーに使われるランドクルーザー70そしてハイラックスを見かけました。メンバーは自社のクルマが、ここまでタンザニアの生活を支えているのかととても驚いていました。

私が同行させていただいたルートは、WRCの1戦にもなっていたサファリラリーのルートを含む、未舗装路です。2012年、13年と新城ラリーイベントにも参加してくれたビョルン・ワルデガルド選手が、現役時代トヨタ・セリカをドライブし、3度も優勝したサファリラリー。トヨタのモータースポーツ史にとって思い出深いルートを走りました。さらにルートブックと距離計を使い、雨季は沼に沈み、乾季にしか現れない一筋の轍を追いかけながら1台ずつ走ります。

  • キリマンジャロに近いこのエリアは、野生のキリンやシマウマなど多くの野生動物が生息している
    キリマンジャロに近いこのエリアは、野生のキリンやシマウマなど多くの野生動物が生息している
  • サファリラリーのルートを走り、サバンナを抜け、ガレ場を越え、沼を渡る
    サファリラリーのルートを走り、サバンナを抜け、ガレ場を越え、沼を渡る

ドライバーは、ナビゲーターや後部座席に乗るメンバーと話し合いながら正しいルートを探します。技術系、技能系、事務系などさまざまな部署から参加しているメンバーのチームビルドをしながら走ります。自分のいる部署、やっている仕事だけでは1台のクルマは出来上がらない。技術、技能、調達、営業、マーケティング、財務などあらゆる部署がつながって1台のクルマが出来上がるのだから、ここでは車内が社内。様々な部署、年齢の社員どうしが意見を出し合い、信頼しあい、クルマに乗ってゴールを目指すことも大事なことです。

ニュルブルクリンク24時間レースでエンジニアを務める凄腕技能養成部の関谷利之さんは「テストコースなどオンロードでの全開走行は日常的にしていますが、オフロードでパワーをかけて走ったことはあまりないのでとても興奮しました。ランドクルーザーのオフロードでの走行安定性の高さがこれほどいいとは。アフリカで信頼される理由が自分で走ってみてわかりました」。また1台でサバンナのなかを走っていて、万一クルマに不具合が出たら、命に関わる一大事になります。だから走行安定性や快適性なども大切ですが、何より目的地まで走破できる耐久性がとても大事だと多くのメンバーが気づいていました。

ナミビアの雄大な砂丘を越える

  • ナミビアの大西洋沿岸にはフラミンゴ。動物たちにとって楽園だ
    ナミビアの大西洋沿岸にはフラミンゴ。動物たちにとって楽園だ
  • この写真の約4倍の砂丘を越えていく
    この写真の約4倍の砂丘を越えていく

ナミビアは大西洋に面した中西部のスワコプムントから南下し、世界最古の砂漠として知られるナミブ砂漠を目指します。海岸線の砂浜に入る直前に空気圧を低くし、先行車と充分距離を空けて走る。空気圧を落として砂浜を走ると、舗装路を走っているときとは、クルマの挙動も大きく変わります。まるでボートを操船しながら海を航行しているかのようなゆったりした動きで進みます。波打ち際の湿って締まった砂と乾いた砂で、運転の仕方も変わります。こうして決まった道がないところでも、ナミブ砂漠への観光ツアーの4WDが何台も通ります。この地域にとっては、この砂浜もクルマが走る道なのです。

  • トラクションコントロールなど制御のないランドクルーザー70は勢いで登る
    トラクションコントロールなど制御のないランドクルーザー70は勢いで登る
  • 360度見渡す限りの砂漠。このなかを超えていく
    360度見渡す限りの砂漠。このなかを超えていく

そしてナミブ砂漠へ入ります。海岸線から少し上ると待ち受けていたのは500m以上の大きな砂丘。アクセルを緩めすぎたり、ステアリングを切りすぎたら失速して登れません。本当にこんな砂丘を登れるのか、みな不安になります。その中、先陣を切ったのは、普段ランドクルーザーの開発を担当している車両技術開発部の山田太郎さん。ランドクルーザー200のステアリングを握り、一気に登り切ります。その光景を観ていたメンバーは、あの大きくて重いランドクルーザー200が登れるのなら、それより軽いハイラックスやフォーチュナー、ランドクルーザープラド、ランドクルーザー70は簡単に登れるだろうと勇気が湧きます。

しかし一度で登れないメンバーもいて、そして1台ずつ登るごとに砂が柔らかくなり、どんどん難しくなっていきます。登り切ったメンバーは登ってくるクルマを応援したりして、なんとか全車登り切り、みなほっとした面持ちに。比較的緩やかな砂丘で下り方のレクチャーを受け、360度見渡す限りの砂漠のなかへ。ここで埋まってしまったら、街まで帰ることができません。砂漠でもしっかり走破できるよう、耐久性だけでなく様々な制御を装備しているありがたみを体感しています。

  • 本格4WDは砂丘に映える
    本格4WDは砂丘に映える
  • 砂丘を下って登る。その繰り返しで砂漠を抜ける
    砂丘を下って登る。その繰り返しで砂漠を抜ける

私は2か所しかご一緒していませんが、そこでは過去のデータや経験を机上で議論するのではなく、実際に現場に飛び込み、現地でクルマを走らせ、メンテナンスをし、絶えずクルマに手で触れ、現地の環境に触れながら、器用な言葉でなく、アイコンタクトで同僚が何を感じ、何を考えているか伝わってくるほど同僚を意識し、自身も思いを熱意として伝わるよう目で語ります。

クルマで走り、感じたことが、もっといいクルマづくりに役立つ。参加したメンバーが、それぞれの部署に戻り、この5大陸走破で体感したことを活かしていきます。彼らが関わり、これから5年後、10年後のトヨタ車がもっといいクルマになっていることが、今から楽しみです。そしてオーストラリア、北米、南米、アフリカと4大陸を走破したこのプロジェクトは、この春から2020年にかけ、中東からアジアを走り、すでに走破しているヨーロッパを含め、ユーラシア大陸を走破し5大陸を走破します。これからもTOYOTA GAZOO Racingの5大陸走破プロジェクトから目が離せません。

  • ランドクルーザー200
    ランドクルーザー200
  • フォーチュナー
    フォーチュナー
  • ランドクルーザー70
    ランドクルーザー70
  • ランドクルーザープラド
    ランドクルーザープラド
  • ドライバーとナビゲーターがコミュニケーションを取りながら正しいルートをみつけて走る
    ドライバーとナビゲーターがコミュニケーションを取りながら正しいルートをみつけて走る
  • まるで月面に着陸した探索車のよう
    まるで月面に着陸した探索車のよう

(テキスト / 写真:寺田昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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