『V8の咆哮がラリーに轟く』トップスピードは170km/h越え!新城ラリーはクラス2位を獲得

今シーズンも全日本ラリー選手権が始まりました。本来2月に第1戦が群馬・嬬恋村で
開催予定でしたが、昨年の台風19号の影響で中止となり、第2戦の「新城ラリー2020 Supported by AICELLO」が事実上の開幕戦となりました。

しかし昨今の新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、無観客で競技を開催することになりました。サービスパークとなる新城総合公園は、関係者しかいないのでとても静か。それでもラリーを開催してくれた主催のモンテカルロ・オート・スポーツ・クラブをはじめ、
愛知県、新城市の皆さまに感謝しています。

さて私にとって2シーズン目を迎える全日本ラリー初戦をどのように挑んだのか、お伝えします。

10本のSSは細かったり長かったりと難しいレイアウト

3月13日は早朝からレッキ(下見走行)に出かけ、「舟着」「ほうらいせん一念不動」「鬼久保」「雁峰西」と4本のSS(競技区間)のペースノートを作りに行きました。

ドライバーの石井宏尚選手とは、全日本ラリーでLEXUS RC Fとともにコンビを組んで
4戦目となり、少しずつですが息も合ってきています。石井選手はRC Fを前期モデルから現行モデルへアップデートしてくれ、私もハンデにならないように昨年末に7kgの減量をし、アップデートしてきました。

午前中に約200kmのレッキを終え、午後に参加確認と公式車検をして準備完了。TGRラリーチャレンジの場合、1日で早朝からレッキをしてそのままラリーが夕方まで続き、時間的に集約されていて手軽に参戦できるのがいいのですが、そのぶん体力的にきつかったりします。

全日本ラリーは、ラリーに向け、しっかりレッキの復習ができたり、体調を整えたりする時間があるので気に入っています。

レッキを終え、整備中。サポートしていただいているCUSCOは、トヨタ、スバル、日産そしてLEXUSと様々なマシンで全日本ラリーに挑む
レッキを終え、整備中。サポートしていただいているCUSCOは、トヨタ、スバル、日産そしてLEXUSと様々なマシンで全日本ラリーに挑む
RC Fを担当する熊崎大介さん(左)と積み込みをチェックする石井選手
RC Fを担当する熊崎大介さん(左)と積み込みをチェックする石井選手

LEG1は雨、雨、霧。それでも攻める

参戦台数は55台。私たちのクラスのJN2は、TOYOTA GAZOO Racingと名古屋トヨペットの2台のヴィッツGRMNにR3車両のGT86が2台、シトロエンDS3そしてフォルクスワーゲンPolo GTIとバラエティに富んだ7台がエントリー。

このクラスはもちろん、全体を見回しても私たちのLEXUS RC Fのようなロングノーズのビッグボディに大排気量エンジンは皆無。さらに初日は雨で路面が滑りやすいので、ビッグパワーを活かすことができない不利な環境でスタートしました。

SS1は「舟着」(5.97km)。細く細かいターンが続き、路面は完全にウェットでしたが、トップから約11秒遅れの3位でフィニッシュ。今回のラリーのタイヤ制限は6本で、翌日の天気は晴れ予報でしたが、路面がハーフウェットやウェットも残ると想定。タイヤをDUNLOP DIREZZA94R W01(舗装路ウェット用)で、RC Fとのマッチングもよかったです。

SS2は、「ほうらいせん一念不動」(7.47km)。SS1に似ていますが、普段からあまりクルマの往来がない林道のようで、路面は古く、路端に落ち葉や砂利があって、より走りにくい。パワーを持て余しながらも、ここは安全第一で抑えて走ります。トップから約32秒遅れの6位。

SS3は、「鬼久保」(6.96km)。鬼久保ふれあい広場を囲む道路から2車線でスピードの出せる旧本宮山スカイラインを走ります。ここは昨年もクラストップを獲ったRC Fと相性のいいSS。

しかし路面がかなりウェットでセンターラインのキャッツアイや水を含んだ落ち葉が、
イメージしているレコードラインを阻みます。キャッツアイはバーストやホイールを痛め、落ち葉は一瞬でマシンをスピンさせる可能性があります。

このセンターライン上の障害物をうまく避けながら走りましたが、トップに約2秒遅れの2位。前半戦は路面とタイヤのグリップを確認しながら、ドライバーの石井選手は耐えた走りに徹してくれました。

無観客で少し寂しげながらスタート
無観客で少し寂しげながらスタート
想定より雨足が強く路面にライトが映るほどだ
想定より雨足が強く路面にライトが映るほどだ
水しぶきを上げ果敢に攻める
水しぶきを上げ果敢に攻める
水を分けたタイヤ跡を見るとかなり直線的に走っているのがわかる
水を分けたタイヤ跡を見るとかなり直線的に走っているのがわかる
雨の中、なんとか生き残り、サービスへ戻る
雨の中、なんとか生き残り、サービスへ戻る
CUSCOのラリーメカのおかげで安心してSSを攻められる
CUSCOのラリーメカのおかげで安心してSSを攻められる

SS4はキャンセルでSS5は、再び「ほうらいせん一念不動」へ。
RC Fはほかのマシンと比べて車重があるだけでなく、基本的にアンダーステア方向のセッティングになっています。本来であればブレーキングでフロントに荷重をかけて曲げていきますが、それだけだとコーナー出口でアクセルを踏み込むタイミングが遅くなってしまいます。

コーナー進入時にフロントが少しインに向きかけたところでリヤタイヤを滑らせてマシンの向きを変えながら、そのままアクセルオンで加速していくスタイルに石井選手が変えて走ったところ、1本目のSS2より約28秒も短縮でき、トップから約19秒遅れの3位と
うまくまとめ、ほかの選手たちから、どうやったらRC Fでこのいいタイムが出るのか聞かれるほどでした。

石井選手のコーナリング技術、マシンを曲げる技術は横に乗っていて芸術だと思いました。まさに「曲芸」!?いやっ「極芸」ドライビングです。ただSSゴール後にオフィシャルから「マフラーが落ちているから直していってください」と。慌ててマシンを降りて見にいくと、吊っているゴムのブラケットからステーが抜けていました。マシンが大きくバウンドした時にマフラーがブラケットから外れただけだったので安心しましたが、熱くて作業も難儀でしたが、無事に吊り下げることができて一安心です。

SS6は再び「鬼久保」。途中、霧があるとの情報をもらい、少し不安がありながらもLEG1で1本はクラストップを獲ってみたいと欲がありました。
さらに1本目の鬼久保のライブ配信でRC Fの走りとサウンドがかっこいいと大評判。石井選手は「カメラ位置はわかっていますから、さらに喜んでもらえる走りを見せます」と。公園脇の左コーナーをドリフトしながら進入し、そのまま駆け抜け「1本目よりいい映像になったはず」と余裕。

そして2車線道路へ出ると霧が。100m先どころか途中50mも見えないくらいでしたが、次のコーナーのコールのタイミングなどを工夫して、アタックをかけました。
そして2位に3.2秒引き離してクラストップでゴール。ここまですべてトップだったTGRワークスになんとか爪痕ならぬ猫パンチくらいはできたかなと大満足でした。

LEG1終了時点でクラストップのTGR Vitz GRMN Rallyの眞貝/安藤組とは1分差との2位。しかし約20秒差以内に、ほか3台のマシンがひしめく状態で、翌日のSSのレイアウトを考えると厳しい状態です。

JN2の王者、TGR Vitz GRMN Rally
JN2の王者、TGR Vitz GRMN Rally
雨もやみ鬼久保ふれあい広場脇を走る
雨もやみ鬼久保ふれあい広場脇を走る

LEG2は晴れ。果たしてタイヤは持つのか

昨日夕方には雨も止み、この日は朝から晴れ。しかし16.26kmと今大会最長のSSが2本と、昨日クラストップを獲った中高速ステージの鬼久保が2本あります。

SS7は「雁峰西」(16.26km)。今回、このSSが勝負を決める重要なSSだと思っていました。距離もそうですがターンの数が多く、また砂や土、水溜まりがあるターンとそうでないターン、木陰でウェットな路面、陽が当たってドライな路面、さらに低速で越えなければならない深いギャップが急に現れたりと、ドライバーもコドライバーもやること盛りだくさん。

石井選手はリヤをうまく滑らせながらコンパクトにターンを決めながら短距離でも確実に加速とハードブレーキングを繰り返してくれました。ブレーキにかなり負荷がかかりましたが、ゴールまで問題なし。気づいたらトップから28秒遅れで済み、さらに3位以降とは1分近く差をつけることに成功。このまま上位を維持できると期待が膨らみました。

LEG2はいい天気のなか走る。
LEG2はいい天気のなか走る。
4WD車やFF車はイン側を走っている跡が残っているが、RC Fはアウト側から入り早めに加速態勢に入る。
4WD車やFF車はイン側を走っている跡が残っているが、RC Fはアウト側から入り早めに加速態勢に入る。
グレーチングを踏んでも乗り心地がいい。さすがLEXUS。
グレーチングを踏んでも乗り心地がいい。さすがLEXUS。

SS8は「鬼久保」。路面も乾いてきてRC Fには絶好のコンディションになってきました。ただここでアタックしすぎると、ウェットタイヤなので一気に摩耗が進み、その後の「雁峰西」が走りにくくなるため、石井選手はタイヤマネージメントをしっかりしながら走ります。私たちが出したLEG1のクラストップタイムよりさらに約20秒短縮しましたが、TGR Vitz眞貝/安藤組がさらに0.7秒その上を行くタイムでトップを奪取。王者としての意地の走りに惜敗です。

SS9は再び「雁峰西」。SSスタート前に、オフィシャルから「コースクリアになっていますが、表示板が5ヶ所出ていますので、注意して走ってください」と。5台を飲み込んだ恐るべき雁峰西のSSに、気合いを入れ直してアタック開始。

陽が当たっていたり、風通しのいい場所はドライになっているものの、インカットしたマシンが掻き出した土が路面に広がったり、1本目にコーションを入れた泥や砂、水は進行方向に引き伸ばされ、一度コントロールを失ったら、そのまま私たちも餌食になってしまう、さらに光と影、セーフとリスクのコントラストがはっきりしたSSになっていました。
それでも1本目より19秒短縮してゴール。

最終SS10は再び「鬼久保」。ここでクラス2位をキープし、トップとの差は約2分。3位とは1分38秒ありました。タイヤも十分残っていて、路面コンディションもよくなってきたのでミスだけはしないように最後までアタック。クラス総合トップの眞貝/安藤組に3秒差をつけクラストップでゴールしました。総合でも5位のタイムで有終の美を飾れました。

鬼久保を果敢にアタック。最高速は170km/hを超えた。
鬼久保を果敢にアタック。最高速は170km/hを超えた。

観客のいないセレモニアルフィニッシュでは、たくさんのメディアの方々が撮影してくださりとてもうれしかったです。新城ラリーはJN2クラス2位入賞でき、上出来でした。RC Fも前期モデルから現行にアップデートし、石井選手も「格段に扱いやすくなった」とマシンの進化に満足していました。

JN2 クラス2位でゴール
JN2 クラス2位でゴール
全日本ラリー参戦2年目となるコンビ。応援よろしくお願いします
全日本ラリー参戦2年目となるコンビ。応援よろしくお願いします

次戦は4月10~12日に佐賀県で開催される「ツール・ド・九州2020 in 唐津」。私は初めて参加する大会でとても楽しみです。新型コロナウイルスの早期鎮静を祈りながら、次戦も着実に成長しながら結果を残したいと思っています。

(写真:山口貴利・石井宏尚・保井隆宏・CUSCO・寺田昌弘 テキスト:寺田 昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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