ランドクルーザー 悪路走破性の進歩を辿る 寺田昌弘連載コラム

  • 新型ランドクルーザー300

今年8月1日で誕生から70周年を迎えるランドクルーザー。そのアニバーサリーを目前に、フラッグシップとなる新型ランドクルーザー300が発表されました。

「KING of SUV」のランドクルーザー200の誕生から14年。ついに王位継承する、その戴冠式というべきワールドプレミアが6月10日(日本時間)に開催され、インターネットを通じて登場した新たな王に世界中が湧きたちました。

ライブ配信以降、ワールドプレミアの動画をはじめ、技術解説そして各国自動車メディアの発信のPV総数は、ざっと観ても数百万PVを超え、その注目度の高さを証明しています。

では、新たなランドクルーザー300はどのように進化、そして深化したのか、ランドクルーザー100、200で国際クロスカントリーラリーに参戦した寺田目線で解説します。

ランクルステーションワゴンの系譜を辿る

  • ランドクルーザー200系、ランドクルーザー80系

    200系(左)80系(右)

ランクルの礎というべき、BJ JEEPから20系、40系そして現在の70系となる「ヘビーデューティー」、70ワゴンからプラド(90系、120系、150系)に通ずる「ライトデューティー」、そして40系のロングボディーから派生し、55系、60系、80系、100系、200系そして今回の300系に引き継がれているのが「ステーションワゴン」。
ムース(ヘラジカ)の愛称で北米で大人気だったFJ55Vは、ランクルの武骨なワークホースに車内での静粛性、居住性のよさを加え、信頼性、耐久性、悪路走破性の高さはそのままに新たなストリームとして1967年に誕生しました。
そして1980年に60系へ。車幅が65mm拡大され、車内が広くなり、国内では商用車でしたが、海外ではステーションワゴンとしてランクルに乗る方々が増えていきます。そしてこのストリームを決定づける80系が1989年に誕生。

グローバルスタンダードを見据え、ボディサイズが一回り大きく、車重も2トンを超えましたが、なによりリジッドアクスルはそのままにサスペンションのスプリングが今までのリーフスプリングからコイルスプリングになったことで乗り心地が格段によくなりました。

国内でもワゴンがラインナップされ、アウトドアブームと相まって今まで4駆に興味がなかったかたまで乗るようになり、一気に広まります。

  • ランドクルーザーBJ45

    2003年からアジアや南米など約27万km、延べ6,000日以上、このBJ45と世界中を旅している

  • ランドクルーザー55系

    今見ても完成度の高いスタイリングの55系

  • ランドクルーザー60系

    60系

  • ランドクルーザー80系

    80系

80系から続く黄金比のホイールベース

車内の上質感、乗り心地のよさが注目されがちですが、この80系が生み出した最高のものはホイールベースです。フラットダートからモーグル、渡河など不整地路まで悪路走破性を総合的によくする黄金比ともいうべき2,850mmは、以来100系、200系と引き継がれていきます。

現在ダカールラリーに市販車部門で参戦し続けているチームランドクルーザー トヨタオートボデー(TLC)の前身であるチームアラコは、この80系で参戦し始め、市販車部門でランクルの強さを証明してきました。

ちょうど80系のラストランとなる1998年のパリダカールラリーに私も70系で参戦していましたが、完走率30%台という過酷ななか、2台の80は見事クラスワンツーフィニッシュを決め、およそ53万7000台生産された80系に花を添えました。

私も市販車改造部門ディーゼルクラスで優勝し、帰国後ちょうど100系が発売され、全国縦断イベントがあり、全国行脚しながらパリダカで体験したランクルのすごさを話していった思い出があります。

ダカールラリーが南米に舞台を移し、取材でボリビアに行ったとき、ウユニ塩湖の観光ツアー車の90%以上が80系でした。

発売終了から23年経っても塩まみれになって走る強さに驚きました。また80系をベースにLEXUS LX450が誕生したことも大きなトピックです。

100系はフロントサスペンションがトーションバー式独立懸架となり、さらに舗装路やフラットダートで乗り心地がよくなったものの、豪州ではコイルスプリング&リジッドアクスルに絶大なる信頼を置くオーナーも多く、一部フロントリジッドアクスルの105が誕生することになりました。

ただ私はエジプトのファラオラリーにTLCから100で参戦しましたが、回頭性のよさが気に入っていましたし、ギャップで大ジャンプしてもまったく問題なく、100系の耐久性の高さは身をもって知っています。

  • ウユニ湖、ランドクルーザー80系

    ウユニ塩湖で小さなクルマが連なって見えるのはすべて80系

  • ランドクルーザー100系

    エジプトの砂漠を走る100系

200系は、電子制御で悪路走破性をさらに高める

  • ランドクルーザー200系

    白い砂丘に200系

そして200系。フロントはコイルオーバーショックの独立懸架、リヤリジッドアクスルで、何より電子制御で悪路走破性を高める先進技術がいくつも装備されました。

ロックやモーグル、マッドなど路面状況に合わせて4WD性能を高めるマルチテレインセレクトや、極悪路を低速で走る世界初のクロールコントロールなど、オフロードをより多くのオーナーが走破できるようになりました。

これまではドライバーのスキルが重要でしたが、200系はドライバーが走らせるというより、電子デバイスをうまく活用し、ランクルに走ってもらうようにドライブするととてもスムーズに走破できます。

以前、トヨタのあるオフロードスペシャリストとオフロードを走っていたとき、「アクセル踏み過ぎです。ダカールドライバーは勢いで走っちゃいますね。タイヤをグリップさせながら、ロックもモーグルもゆっくり走れば、このランクルのよさがもっと体感できますよ」と教えていただき、ゆっくりアクセルを一定に保ちながら走ると、まるで四足歩行の動物が、1脚ごとに路面を確認しながら歩くように、着実に走破でき、ボディアンダーをヒットする心配もなく感動しました。

確かにドライバーがどんなにスキルがあっても、4輪個々に的確にブレーキをかけたり、動力を振り分けたりすることは不可能ですので、これには驚きました。

 

ランクルはどこへでも行き、生きて帰ってこられる唯一無二の存在

  • ランクル仲間で集い、走る

考えてみれば、「クルマとはいつでもどこでもだれでもが、移動に対して共通の利便性を享受できる乗り物」で、ランクルは市街地から砂漠まで地球上のあらゆる道、そして道なき道を走れ、高い利便性を備え正常進化していることがわかります。


ワールドプレミアのなかであった、豊田章男社長からのメッセージ「ランクルは世界の人々の命を守っているクルマです」。
まさにランクルは世界の人々の命を守り、生活を支え、行動範囲を広げてくれるクルマです。

私は20代の頃、NPO医療支援活動でサハラ砂漠を70系で走り、毎年1ヶ月間、サハラに暮らしていました。
3年かけて村々の病院にソーラー発電で生み出した電気で短波無線機を動かし、首都の厚生省やユニセフと砂漠のなかにある村々の病院とをつなぐ医療通信インフラを構築する担当をしていました。

砂漠の奥にある村々で伝染病の流布や急患が出たら、首都とさえ連絡が取れれば首都からランクルの救急車が患者を迎えに行ったり、薬を持ち込み、村人の命をランクルが支えてくれます。

首都にはいろんなクルマが走っていますが、砂漠の奥のドラム缶で燃料を保管している村には、ランクルしかありませんでした。
村人に聞くと「荷物や人を運ぶのは、ランクルとラクダだけ。とても信頼している」と言っていました。


またクロスカントリーラリーでは1997年、セネガルを70系で走り穴に落ちたり、2010年、エジプトを100系で走り大ジャンプしたり、2012年、アルゼンチンを200系で走り崖から飛び出したことがあります。
それでもいつもランクルがその日、仲間が待つビバークまで走ってくれました。私にとって最高の相棒であり命の恩人です。


それだけに今回フルモデルチェンジしたランクル300は、とても興味があります。

次回はワールドプレミアやディーラーの300系の情報をもとにどう進化&深化したのかを解説します。
  • サハラ砂漠でのNPO医療支援活動

  • ランドクルーザー200系

    2011年エジプトのファラオラリーを200系で走る

写真:トヨタ自動車・寺田昌弘 文:寺田昌弘

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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