新型ランドクルーザー300の注目ポイント 寺田昌弘連載コラム
ではランドクルーザー200と比べてどう進化したのか。アフリカや南米大陸で走ってきた体験をもとに解説します。
元ダカールラリードライバー目線のランクル200の運動性能
私は2011年、2012年とチームランドクルーザー トヨタオートボデー(TLC)の2号車ドライバーとしてダカールラリーに参戦しました。
初めて200のディーゼルエンジン(1VD-FTV)仕様ラリーマシンに乗ったのが2010年。長野のモーターランド野沢でしたが、第一印象は大きいことと海外モデルの左ハンドルでしたが、ドライバー位置が若干外側にあるなと思いました。
走らせてみると、回転数を上げるととてもパワフルで、今まで乗っていたランクルならではの低回転からの太いトルクはあまり感じられませんでした。そのぶん車速がのってからの運動性能がよく、ドライビングプレジャー溢れるマシンでした。
ただ旋回時にステアリングを切ってから旋回し始めるまでに一瞬ラグがあるので、自分が曲がり始めたいと思っているポイントより少し早めにステアリングを切ったりする必要がありました。
また、車速が上げられない小さめの砂丘が連なるステージでは、エンジン回転数を落としてしまうとトルクを再び上げるのが難しくスタックしてしまいます。
私のドライビングもまだまだですが、3トンを超える車重も重なり、ドライビングに慣れが必要なマシンでした。
今度の300は、TNGAの考えのもと「素性の刷新」をテーマに開発され誕生しているので、どのようにSUVとしての進化、ランクルとしての深化をしたのか。資料を元に推察してみます。
新型ランドクルーザー300の3つの注目ポイント
① 200kgもの大幅な軽量化とスペックの向上
技術解説の動画を観て一番注目したのはラダーフレーム。レンジローバーなどがモノコック化するなか、ランクルはラダーフレーム構造を継承しました。
TNGAの思想のもと生まれた新GA-Fプラットフォームは、3タイプの異なる高張力鋼を必要な箇所へ使用し、かつオーバーラップを減らした特殊溶接技術を駆使した匠の技で、軽量化しながらねじり剛性を120%にしています。
また、ボディも様々な鋼板を使用し、ドアやフロントフェンダーにはアルミパネルを採用。長年、世界の道なき道を走ってきたランクルでのデータを元に、適材適所に異なる高張力鋼を使うことで軽さと強さを両立させています。
さらに、エンジンも軽量化にとって重要です。200系は国内仕様は4,6リットルV8ガソリンと大排気量で、私がダカールラリーで乗っていたのは4.5リットルV8ディーゼルツインターボでともに重い。
300は、新開発の3.5リットルV6ガソリンツインターボと3.3リットルV6ディーゼルツインターボとダウンサイズされ、重量も軽くなっています。
しかしスペックは以下の表の通り、最高出力は97psアップ、最大トルクは190N-mアップしています。
待望のディーゼルエンジンは、国内仕様の200系ガソリンと比較して最高出力はほぼ変わらず、最大トルクは240N-mも大幅にアップしています。
最大トルクはグラフを見る限り低回転から出るようなので、これなら信号待ちからの加速や高速道路での追い越しなど、かなり心地よい加速で走りやすいと思います。
ドラム缶約1本分となる200kgの軽量化は、走りや燃費に好影響を与えているはずです。
燃料 | ガソリン | ディーゼル | ||
---|---|---|---|---|
シリーズ | ランクル200系 | ランクル300系 | ランクル200系(海外モデル) | ランクル300系 |
排気量L | 4.608 | 3.5 | 4.461 | 3.3 |
種類 | V8 | V6 | V8 | V6 |
吸気 | NA | ツインターボ | ||
最高出力 | 234kW(318ps) 5,600rpm |
305kW(415ps) | 195kW(265ps) 3,400rpm |
227kW(309ps) |
最大トルク | 460N-m(46.9kgf-m) 3,400rpm |
650N-m(66.3kgf-m) | 650N・m(66.3kgf-m) 1,600-2,800rpm |
700N-m(71.4lgf-m) |
② 重心配分の適正化とショックアブソーバーの理想的な配置
インテリアの写真を見て気づいたのは、ドアパネルの厚み。なぜここが気になったかというと、ドライバーの着座位置と関係するからです。
センターコンソールの幅と合わせて予想すると、ドライバーがよりセンターに寄って、200系よりドライビングしやすいと思います。
そして大事なのが重心。200系はフロントヘビーだったので、ダカールラリーでのコーナリング初期やギャップでのジャンプでも注意が必要でした。
300系はエンジンが軽くなっていること、そしてパワーユニットが下方に28mm、後方に70mm移動したことで重心がより低く中心に寄ってきているのでオンオフ問わずイメージ通りのドライビングができると思います。
200系ではフロント/55.1%対リヤ/44.9%が300系はフロント/53.5%対リヤ/46.5%となり、ちょうどドライバーのヒップポイントあたりに重心がきているのでクルマの動きをよりドライバーが感じやすくなると思います。
開発テストにも参画していたTLCの三浦選手も「スポーツカーのように思った通りにドライビングできる」と太鼓判を押していたので、間違いないと思います。
そして、革新的なのはリヤサスペンション。後方から見ると今までショックアブソーバーがハの字にレイアウトされていましたが、路面からの入力に対し、より直線的に減衰するために理想的な角度でレイアウトされています。
そのためにフレームに曲げを入れてまで対応しているのが革新的です。これで一気に路面追従性がよくなっていると思います。
高速道路でのレーンチェンジやフラットダートでのコーナリング時などリヤトラクションのかかり方も格段によくなり、イメージしている方向へリニアに向きを変え、スポーツカーのような走りが期待できます。
③ TNGA思想による素性の刷新
200系はラグビーで例えればフォワードの選手のように重厚感溢れ、パワーもトルクがある感じでした。
新しい300系はバックスの選手のように、激しいタックルにも対応しながら、軽快なステップでフィールドを縦横無尽に駆ける感じです。
国内でどういったラインナップになるかわかりませんが、私だったらとにかくディーゼルエンジン搭載車を選びます。
やはり低回転から700N-mという圧倒的なトルクが体感できるのが魅力です。
また、KDSSが世界初となるE-KDSSに進化したり、マルチテレインセレクトがH4でも使え、かつAUTOモードが増え、ATが6速から10速になっています。これはぜひ試してみたいです。
GRスポーツもラインナップされるようですので、発売されるのが待ち遠しいです。
写真:トヨタ自動車 文:寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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