金メダリスト清水宏保選手のラリー初参戦記…寺田昌弘連載コラム
長野五輪男子スピードスケート500mの金メダリストでW杯34勝を誇る氷上のスピードスター清水宏保さんが、哀川翔さん率いるFLEX SHOW AIKAWA RacingからTOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge in 渋川伊香保(以降TGRラリチャレ)に初参戦。
そのコ・ドライバーとしてコンビを組み、私も久しぶりに参戦しました。あいにくの雨でしたが、87台がエントリーとサービスパークは大賑わい。
Vitz Raceや86/BRZ Raceでサーキットを走ってきた清水選手がどのようにラリーを走ったのか。助手席からお届けします。
翔さんとアジアを走り、清水さんとトークショーで盛り上がる
哀川翔さんは映画「SS -エスエス-」の主人公のラリードライバーを演じ、翌年にはラリージャパンに参戦したり、ドキュメンタリー撮影でパイクスピーク・インターナショナルヒルクライムに出場したりと俳優であり、ラリードライバー。
2012年にタイ・カンボジアを走破するアジアクロスカントリーラリーに翔さんが1号車、私は2号車ドライバーとして起用していただき、一緒に泥にまみれながら走りました。
ラリーに真剣に挑む翔さんの横顔を見ながら、これは映画のワンシーンなのか、いや、現実にラリーを走っているといつも感動していました。
清水宏保さんとは、トヨタモビリティ東京のGR TOKYO Racingでチームメイトでしたが、清水さんはVitz Raceなどサーキットが舞台で、私はラリーに。
チーム体制発表会や販売店イベントでご一緒しましたが、氷上で1/100秒を競ってきた瞬発力はそのままに、とてもゆったりお話しされるのが印象的でした。
翔さんも清水さんも、極めた男だけが持つ、懐の深さに惹かれます。
清水さん思い出の地、渋川を走る
「高校性のとき、スケートの合宿で渋川にもよく来ていたんです」と清水さん。オフィシャルの年配のかたに「よく帰ってきてくれたね。何十年ぶり?会えてうれしいよ」と声掛けられるほど、渋川の方々にも愛されています。
渋川入りする前に、清水さんは北海道で、翔さんの盟友であり全日本ラリーで毎シーズントップ争いを繰り広げる奴田原文雄選手のスクールを受講。トップドライバーからラリーの基本を学んできました。
TGRラリチャレの朝は早く、6:00からレキが始まります。今回は、翔さんが今まで乗っていたVitz RSに清水/寺田組で乗り、翔さんはベテランの中谷篤さんとコンビを組み、スポーツCVT搭載のヤリスで参戦です。
以前、VitzのスポーツCVTに乗ったことがありますが、エンジンがパワーバンドに入ったままコントロールでき、CVTの概念が変わるスポーツ走行には画期的な制御です。
清水/寺田組は、清水さんが初参戦なのでC-2クラスにエントリー。ゼッケンは175。レキを早めに行ってしまうとペースの早いベテラン勢に合わせなければならないので、それを避けて後半にレキをスタート。
清水さんよりコールは日本語で行こうと指示をもらい、ターンの角度や長さ、出口の角度、直線の長さ、上り下り、ギャップと、あとはクレスト(先の見えない起伏)後の状況や滑りやすいところなど、特に危なそうな箇所を重点的にふたりでチェックしながらペースノートを作成します。
2ループ目に飛躍的にタイムアップで無事完走
今回のSSは4本。SS1、3は1.433kmと短く、緩やかなターンと直線が組み合わさった走りやすいSS。SS2、4は5.884kmで鋭角に曲がるターンがいくつも続き、リズミカルに走らせる。
中盤には上り下りがあり、終盤には長いターンがあり、我慢しながらも加速するタイミングを計る必要があります。
清水さんにとって初めてのSS1。スタートのタイミングはさすがオリンピアン。
フライングしないようにぴたりと合わせてスタートしましたが、コールをしていっても少し反応が遅い感じで、「なかなか頭に入ってこない」と清水さんから言われ、右、左と数字は読み上げその先に長い直線があるところでは手前で(アクセルを)踏んで!とコールしました。
クラス10位/14台。
「走りに集中しようとすると言葉が入りにくくて、慣れが必要ですね」と。
確かに初めて公道を思いっきり走っていいと言われても躊躇してしまうのは当然です。でもSSゴールしてすぐ自己分析して、どこを修正していけばいいかを見つけていくのは、さすがアスリートです。
SS2はギヤの選択に悩みながらも9位/14台と1つ順位を上げてきます。「コールに反応できるようになってきました」と、早くも上達してきます。
そしてSS1と同じルートを走るSS3。コールに合わせてうまくコーナーに進入し加速できるようになり、SS1より5.5秒短縮して8位/14台とさらに1つ順位を上げてきます。
さらに最終SS4では、明らかに走りが変わり、鋭角なターンも小気味よく曲がり、加速できるようになってきました。順位は8位/14台でしたが、SS2より16.6秒と飛躍的にタイム短縮し、クラス総合7位で完走しました。
清水さんの素晴らしかったのは、SSごとに問題点を改善し、走るたびに速く、より安定した走りになってきたことです。また自身の今の実力を冷静に判断し、リスクマネジメントがすばらしくまったく危なげない走りでタイム短縮してきました。
新たなスポーツとしてラリーを選び、少しずつナイフを研ぐように、着実に走りの切れ味がよくなってきました。やはり一流のアスリートは、この繰り返しで極めていくんだなと、横に座っていてすごく勉強になりました。
初ラリーはどうでしたかと伺うと「ものすごく楽しい!このままVitzを北海道に持っていって、もっと練習したい!」と満面の笑みでおっしゃられて、あと1つ順位を上げて6位入賞できなかったのは、私のアシストが足らなかったからと反省しています。
私も清水さんとコンビで練習して、今度はもう1つ2つ3つと順位を上げて、清水さんにもっとラリーの楽しさを体感してもらえたらと思いました。
サービスパークに戻り、翔さんからも「楽しかったと言えるのが一番。ここから慣れてくると行き過ぎて危ないこともあるけど、まずはラリーの楽しさを知ってもらえてよかった」と言ってもらえました。
FLEX SHOW AIKAWA Racingの次回のTGRラリチャレ参戦は、10月23・24日の第11戦富士山すそのを予定しています。
翔さんがエキスパートクラス(E-3)、清水さんがチャレンジクラス(C-2)でともに入賞することを期待しています。
写真:FLEX SHOW AIKAWA Racing・馬場 泰彦 文:寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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