ヤリス クロス4WDのオフロード性能にびっくり…寺田昌弘連載コラム
日本では2020年8月の発売から1年が経ち、欧州でもフランスで生産されるハイブリッドモデルが発売され、グローバルに人気が高まるヤリス クロス。2021年3月に欧州カーオブザイヤーを獲得したヤリスに続き、競合ひしめく欧州のBセグ・クロスオーバーのなか、今年の注目モデルです。
さらに注目されるのは、欧州でもFFだけでなくE-Fourモデルがラインナップされていること。
日本では同様にハイブリッドはFFとE-Fourですが、さらに1.5リッター直列3気筒直噴エンジンにCVTを組み合わせたモデルでFFとAWDがあります。クロスオーバーは乗用車のプラットフォームをベースとしたモノコックボディで、4WDといえどもあくまで補助的なものと思われがちです。
果たしてそうなのか、実際ヤリス クロスでオフロードを走って試してみました。
泥ねい路でびっくり。制御の賢さに脱帽
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トラクターで耕し、1時間以上散水して作った泥ねい路(ぬかるみ路)。この泥を見ると走るのも不安になる
今回試したのは1.5リッターガソリンの4WD(AWD)。純正タイヤで、見た目的にはおよそ悪路を走れるとは思えないパターン。
ヤリス クロスにはマルチテレインセレクト(MTS)が装備されています。この機構は新型ランドクルーザーでは、路面状況に合わせ6つのモード(AUTO/DIRT/SAND/MUD/DEEP SNOW/ROCK)から選択でき、エンジン、ブレーキ、サスペンションが統合制御され、的確な走行支援をしてくれます。
ヤリス クロスは、RAV4と同様に3つのモード(MUD&SAND/NORMAL/ROCK&DIRT)が選択でき、駆動力、4WD、ブレーキを統合制御して滑りやすい路面でも走破性を高めてくれます。
たとえばよくあるのが、駆動輪の1輪が空転して前進も後進もできなくなってしまうケース。どんなにアクセルを踏んでもデファレンシャルギアの仕組み上、抵抗の少ない(空転している)タイヤへ動力を振り分けてしまうため、路面にグリップしているタイヤに動力が伝わりません。そこで空転しているタイヤのみに抵抗を加える、つまりブレーキをかけることで動力をもう片輪に伝わるようにして、スタックから脱出できるようになります。
どんなにドライビングがうまい人でも、1輪だけブレーキをかけることは不可能。このMTSによってランドクルーザーでは何度もスタックからクルマに助けてもらったことがあります。しかしヤリス クロスではどこまで制御が支援してくれるのだろうと少し不安がありました。
まず試したのが土に散水した泥ねい路。細かい粒子が水を含むと粘土のようになり、長靴を履いて歩こうとすると滑って転びそうで、かつ泥が長靴にこびりついてくる感じです。MTSを「MUD&SAND」にして停止状態から泥ねい路に入ってみます。すると車外で横から観ているとよくわかるのですが、空転し始めたタイヤに制御がかかり、空転が収まってクルマが前進していきます。
イメージですがたとえば池の上を忍者が駆け抜けている感じです。右足が沈みそうになってきたら左足で水面を蹴って前進し、左足が沈みそうになったら右足で蹴って前進し、その瞬時の切り替えの繰り返しで忍者が池に沈まず対岸までたどり着ける。ありえないことですが、そんなミラクルな走りを支援してくれるのがMTSです。タイヤトレッドを見ると、泥で目詰まりしてドーナツにチョコレートがコーティングされているような状態です。こんなツルツルになったタイヤでもMTSで泥ねい路を走破できるのには驚きです。
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MTSのダイヤルを左に回せば「MUD&SAND」右に回せば「ROCK&DIRT」。押せばノーマルになる
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いい天気だったので散水栓から消防ホースをつないで放水して泥ねい路を造る
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ぐちゃぐちゃの表層の泥を掻き分けるとツルツルの路面がでてきてさらにグリップしなくなる
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フロントタイヤを見ればわかるように、トレッドは泥で目詰まりしチョコドーナツのように。これでも前進するのだからMTSはすごい
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前後輪が泥だらけになっても走る。これは滑りやすい雪道でも期待できる
またMTSの制御がもっとわかりやすいのがモーグルです。タイヤが対角線上(たとえば右前輪と左後輪)に路面から離れてしまった場合、これらのタイヤには抵抗がないので空転して前進できません。「NORMAL」モードだと脱出できませんでしたが、MTSを「ROCK&DIRT」にすると路面から離れているタイヤが一瞬回ってすぐ動力とブレーキ制御が入り、反対側の設置しているタイヤに動力が伝わり、前進していきます。
今回は泥ねい路やモーグルを走りましたが、さすがにヤリス クロスのオーナーでオフロードを走る人はいないでしょう。しかし河原にBBQをしにいくとか、これからのウインターシーズンにスキーやスノーボードに行く雪道などでMTSを知っておけば万一の時に大活躍します。
たとえば河原で片輪が深い凹みに入って反対側のタイヤが浮いてしまったり、砂地でスタックしてしまったとき。またスキー場の駐車場に駐車してから雪が降って、クルマの前に積もって障害物になり、タイヤが滑って乗り越えられなかったりしたときなど。せっかく装備されているから、オーナーにはぜひ一度安全な場所でMTSを使って、その機能体感をしておくことをおすすめします。
ハイブリッドのE-Fourには「TRAIL」モードがあり、空転するタイヤにブレーキ制御が入り、スタック脱出を可能にしてくれます。さらに雪道で滑りやすい路面でもスムーズな発進、走行ができる「SNOW」モードがあります。
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左後輪が路面から離れても接地しているタイヤにしっかり駆動が伝わり前進できる
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左前輪が穴に落ち、右後輪が浮かぶ。これでも走破できるのだからすごい
滑りやすい下り坂をより安全に下れるDAC
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泥ねい路の左奥に見えるのが「大坂」。壁のような斜度だ
MTSはアクセルを踏んでいるときに制御が働きますが、アクセルの踏めない滑りやすい下り坂では期待できません。そこでもうひとつの機能、ダウンヒルアシストコントロール(DAC)があります。これは滑りやすい下り坂で車速を低速でキープしながら横滑りしにくいように制御してくれる機能です。
試しにスポーツランドSUGO国際モトクロスコースの名物である大坂(斜度約30度、高低差35m、全長70m)をDACを作動して下ってみました。アクセルもブレーキも踏まず、強いエンジンブレーキがかかっているような感じで下っていき、ステアリングだけに集中できます。これはかなり過酷な条件でしたが見事クリアできて驚きです。
これであればちょっとしたすべりやすい下り坂ではかなり安全性を上げてくれる機構だと確信しました。今回、MTSとDACを使ってヤリス クロスでオフロードを走ってみましたが、4WDモデルはコンパクトSUVとしてルックスや居住性だけでなく、多少の悪路でもしっかり走れることを実感しました。
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スキーゲレンデで斜度30度といえば上級者コース。歩いて下れない坂をDACを使えばヤリス クロスで安全に下れた
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斜度30度近いバンクも危なげなく走る
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小排気量車なので登りのバンクは勢いをつけて走る
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オフロードでの走破性の高さを体感してあらためてヤリス クロスをみるとさらにたくましく見えた
(写真:トヨタ自動車・MTG・寺田昌弘 文:寺田昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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