哀川翔選手とTGRラリーチャレンジ富士すそのに挑む・・・寺田昌弘連載コラム

年間12戦で開催されるTOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge(以降TGRラリチャレ)。今シーズンは4戦が、残念ながら開催中止となりましたが、世相を鑑みながら8戦が開催され、7月のTGRラリチャレin 渋川伊香保にFLEX SHOW AIKAWA Racingから長野五輪男子スピードスケート500mの金メダリストの清水宏保さんとコンビを組んで参戦しました。そして10月24日に開催されたTGRラリチャレin 富士山すそのに、哀川翔さんとコンビを組んで参戦!今まで同じチームで別のマシンで参戦させていただいていましたが、同じマシンに乗るのは初めて。ラリーに果敢に挑む哀川翔さんの走りを、緊張の助手席からお届けします。

スポーツCVTのヤリスでエキスパート3クラスに挑む

  • 今回哀川翔さんと初コンビ。せっかくなので息を止めて撮影

ヤリスに搭載されているDirect Shift-CVTは、発進時は1stギヤでダイレクトに動力を伝え、車速が上がってきたらプーリーとベルト駆動に切り替わります。抵抗の強い発進時をギヤ駆動としたおかげでプーリーを小型化でき、かつベルト角度を狭角化することでレスポンスがよくなっています。ただ市販車では、レスポンスよく走るだけでなく燃費と静粛性を重視しますので、なるべく低回転で走ります。新開発の1.5Lダイナミックフォースエンジンは、最高出力が88kW(120ps)/6,600rpm、最大トルクが145N・m(14.8)/4,800~5,200rpmと回転の高いところでパワーが出ますので、モータースポーツではエンジン回転数を高いところでキープしたいところです。

そこで今回乗るヤリスCVTは、スポーツCVTユニットになっています。といってもハードは専用LSDにするだけで、あとはノーマル。制御プログラムをスポーツ走行に適したものにしています。以前、ヴィッツのスポーツCVTユニット搭載車に乗ったことがありますが、まったく新感覚のマシンでした。なによりどの速度域からもすぐ加速していくので、特にコーナーの立ち上がりで威力を発揮し、車重の軽いマシンにはベストマッチするユニットです。コドライバーとしては、走行時に絶えずエンジンが高回転をキープしているので、助手席でペースノートに集中して前を見ないときは、シートから伝わる振動やGから車速をとらえる必要があります。また前回、清水宏保選手と乗ったヴィッツと比較すると、TNGAプラットフォーム「GA-B」が採用されていてねじり剛性が30%以上強化されているので、サスペンションの動きがよくわかるのが印象的です。

  • サービスパークは裾野市運動公園駐車場。今回乗るスポーツCVTヤリス

  • 朝から富士山がきれいに見える

翔さんとの初コンビ。まずはレッキでペースノート作り

  • セレモニアルスタート直前

TGRラリチャレの朝は早い。5:30にレッキ受付の伊豆フルーツパークに行き、6:00からレッキ開始。今回SSは6本あり、長い林道を分割し、1.5km、6.15km、1.42kmのSSを短いリエゾンでつないでいます。ヘルメットを脱いでリフレッシュする時間がなく、そのぶんコドライバーは集中したまま行けるのでいいのですが、ドライバーは短いインターバルを入れながら約8kmのSSを一気にドライブする感じです。

翔さんとは初めてのコンビなので、ペースノートを作るときにコールを日本語ですることや、コーナーの大きさや長さ、出口の広さ、直線の長さ、勾配、凸凹、路面の状況など、どこまでコールするか相談しながらレッキを進めます。翔さんはラリージャパンまで参戦経験のあるベテランで、私も全日本ラリーでの経験こそありますが、まだまだ経験不足。それでもやさしくふたりで相談しあいながらノートを作っていきます。

  • セレモニアルスタート

  • 無観客なので静かなスタート

  • こうしてみるとヤリスもとてもレーシーにみえる

SSを走るごとに少しずつ息が合ってくる

  • 長めのリエゾンを走りSSへ向かう

出走台数が88台とエントラントは大賑わいですが、無観客大会なのでサービスパークは、少し寂しくも穏やかな雰囲気です。翔さんと私の乗るスポーツCVTヤリスは、E-3(エキスパート)クラスにエントリー。トヨタ車限定で気筒容積1,500cc以下のマシンが11台参戦し、そのなかにはヴィッツで走り込んでいて、地区戦で優勝するレベルの選手もいる激戦クラスです。

SS1は1.5km。短いですが直線が少なく、右に左に回り込んだコーナーが続く、スピードがのせにくいレイアウトです。スタートしてコールしていきながら、どのタイミングでコールするのがいいのか、探りながら走ります。マシンが新しく、翔さんも感覚を掴みながらコーナー出口からの加速タイミングを少しずつ早めていきます。

SS2は6.15km。登り下りが多く、90あるコーナーはリズミカルに行けるところもあれば、大きく巻き込んでいるのが不規則に入ります。また途中コーナー出口に砂があったりと滑りやすい箇所もあって注意が必要です。ただ直線がいくつもあり、踏むところは踏む、抑えるところは抑えるといったメリハリが重要です。コーナー出口から直線があるところは少し強調してコールしていきますが、やはり初コンビなので信頼を得るにはまだまだで、翔さんの有視界に頼ってしまいます。コースから飛び出ると谷になって危ない箇所があるので安全マージンを取りながら、確実にゴールします。

SS3は1.42km。短いながらもコーナーが多く、ボクシングで右フック、左フックを連打するように左右にロールしながらリズミカルに走るレイアウトです。SS2でタイヤが思ったよりホットになったようで空気圧が上がり、コーナーで向きを変えるレスポンスが鈍く、グリップ感も落ちているのが、助手席でもわかるほどです。それでも翔さんは果敢にドライブしてゴールし、サービスパークへ戻ります。

  • コーナーで行けるところはインを攻める翔さん

  • コーナーの進入はセンターから入る

  • 直線で一気に加速する

サービスパークでランチでお腹は膨らませ、タイヤは空気圧を落とし、後半は前半で走った3つのSSを再び走ります。前半でペースノートの確認ができたので、後半はより攻めていこうと決めました。SS4はSS1と同タイムでしたが、その後は息も少しずつ合ってきて、一度だけオーバースピードでアウト側の壁に引き寄せられそうになったときは、ふたりで思わず「あーっ!」って声が出てしまいましたが、SS5では約10秒、SS6では約3秒短縮することに成功しました。結果は11台中8位で、ヤリスだけでみると6台中4位。後半、アベレージ速度が上がってくると、サスペンションが柔らか過ぎたりしていることがわかったり、いくつか課題も見つかったので次回の翔さんとスポーツCVTヤリスは、もっと速くなると思います。
それにしても翔さんのコドライバーをしていると、助手席からラリーの映画を観ているような不思議な感じでとてもドラマティックでした。

  • BRIDEのシートはホールド性がよく疲れない

  • 富士山をバックに記念撮影

  • ラリーを盛り上げてくれる翔さん。来シーズンも熱い走りに期待

(写真:TGRラリーチャレンジ事務局・FLEX SHOW AIKAWA Racing/文:寺田昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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