ダカールクラシックで走るパリダカの歴代のマシン -ワークス編 -寺田昌弘連載コラム
ダカールラリーに併催されるダカールクラシック。前回大会から始まり、24台が参加しましたが、今大会はなんと141台(4輪130台・トラック11台)と4輪で最も台数が多いイベントとなりました。前回もお知らせし、次回はもっと往年のワークスマシンなど観たいと言っていたら、やはり歴史を作ったマシンを含め、たった1年でこんなにも多くの参戦台数になりました。盛り上がりをみせるダカールクラシック。今回はレギュレーションの変更点と歴代のワークスマシンを紹介します。
1999年までの生産車両が参戦できるアベレージ&ナビゲーションラリー
現在のダカールラリーは、マシンの進化とともに過酷さを増し、往年のパリダカールラリー(以降パリダカ)に憧れている人にとってはまったく異次元。経験がなければ完走を目指すのさえ難しいレベルです。
そこで砂丘や岩石路なども少し走りながら、パリダカを楽しめるのがダカールクラシックです。参加できるのは1999年生産までの4輪から8輪までの車両で4WDはもちろん、2WDでも可能です。生産年によって3つに分けられ、ピリオドA:1986年以前、ピリオドB:1986年~1996年、ピリオドC:1997年~1999年となっています。
これは前回と同じですが、今回からアベレージスピードのグループが2つから3つに細分化されました。年式や駆動方式だけでなく市販車ベース、ワークスマシンによってオフロードでの性能差が格段に大きいので、グループH1(Low Average)を基準に10~15%速いグループH2(Intermediate) 、25~30%速いグループH3(High Average)となっています。
車両装備ですが、H1であればロールバーやFIA公認シート、シートベルト、消火器、キルスイッチこそ必要ですが、燃料タンクは純正でもOK(H2以上はFIA公認タンクの装備が必要)。あとはFIA公認のヘルメット、レーシングスーツ、インナースーツを用意すれば参戦できます。感覚的にはTGRラリーチャレンジの装備と同じです。そして主催者からTRIPY(電子ロードブック)、IRITRACK(自車位置確認装置)が貸し出され、あとは精度のいいストップウォッチとトリップメーターを用意します。
前回はアベレージラリーのみでしたが、今回競技は2種類あります。ひとつはRegularity tests(RT)。決められた区間を指定された平均速度でいかに正確に走れるかを競います。クラシックカーのアベレージラリーと同様です。指定速度は30~90km/hで区間ごとに変わります。舗装路を走るのであれば、計算しやすいですが、オフロードでしかも走ったことがないルートなので予測が難しく、万一パンクしてしまったら、遅れた時間を取り戻すのも大変です。
もうひとつはNavigation tests(NT)。決められた区間でナビゲーションツールを使わずに正しいルートをみつけ、途中Waypoint(通過することを指定された地点。スタンプラリーのスタンプポイントのようなもの)を通過しながらタイムを競います。これをダカールラリーとルートこそ違いますが並行して走り、1月1日から14日、途中休息日をはさみながら走ります。
総走行距離7,216kmでふたつのテストであるSSは2,261kmと、20年以上前の年式の古い車両で走るには大冒険になると思います。SNSやJ-SPORTSで走行シーンを動画で観ると、想像以上にペースも速く、砂丘でスタックするマシンもあって困難を乗り越える楽しさもしっかり体感できます。
これは走る博物館。往年のワークスマシンが駆ける
前回はポルシェ911と三菱パジェロのワークスマシンが目立っていましたが、今回はプジョー205が加わり、より華やかになりました。メーカーごとに解説します。
ポルシェ911はモータースポーツで鍛え上げられる
今回は3台のポルシェ911が参戦しました。ポルシェ911といえば、1978年のラリー・モンテカルロで優勝し、同年のサファリ・ラリーに車高を上げ、大型アニマルガードが特徴的なポルシェ911SCで参戦、総合2位を獲得しました。その後選んだフィールドがパリダカで、1984年に4WD化されたポルシェ911(953)で参戦し総合優勝、その後ポルシェ959まで進化していき、1986年はワンツーフィニッシュを飾ります。この写真のポルシェ911は当時サファリ・ラリーに参戦したマシンをオマージュしたレプリカモデルで、大型アニマルガードとマルティニカラーにしています。
WRCのモンスターマシン、プジョーがやってきた
WRCのレギュレーション変更によって、行き場のなくなったジャン・トッド監督(前FIA会長)率いるプジョーのグループBカーが、1987年のパリダカにやってきました。膨大なスペアパーツを持ち込み、一晩で新車に戻してしまうWRCのシステムでその後のパリダカのトップチームの運営方法まで変えてしまうほど強烈なインパクトを与えました。
その後1990年まで勝ち続け、1991年からシトロエンに引き継がれ、1996年まで三菱パジェロと総合優勝争いを展開し、4勝しました。この写真のマシンは、プジョー自動車博物館に展示されていたオリジナルマシンの1台。このマシンでパリダカに憧れたフランス人は多く、現在、プジョー205の市販車でモロッコやチュニジアを走る「205AFRICA RAID」というイベントが開催され、人気があります。
パジェロはパリダカで世界的に知られた
1982年5月に日本で発売されたパジェロが、1983年のパリダカの市販車無改造部門に参戦し、市販車部門ワンツーフィニッシュし、総合でも11位、14位、アシスタントカーも30位と好成績を上げたところからパジェロの伝説が始まります。当時、フランスで三菱のディストリビューターがヤマハも扱うソノート。
ヤマハチームを運営しパリダカに参戦していたので、4台のパジェロ(2台はアシスタントカー)で市販車無改造部門に参戦しました。そして1985年に総合優勝と市販車無改造部門、マラソンクラスの優勝と多くのタイトルを獲ったことで一気に知られました。当時のプライベーターはメルセデスGクラスやレンジローバー、ランドクルーザー40での参戦が多かったですが、その後パジェロで参戦するチームも増えました。
写真のワークスパジェロは1996年大会に参戦し、総合3位入賞したJ-P.フォントネ/ブルーノ・ムスマラ組が乗っていたオリジナルマシンです。こういったプロトタイプは翌年から廃止となるため、最後の走りとなりました。
北米のオフロードマシン、プロトラック参戦
ヨーロッパからアフリカを舞台に走るパリダカの参戦者の多くは、ヨーロッパ諸国からがほとんどで、主催者はかねてより北米のBAJA1000に代表されるデザートレースに参戦しているマシンも参戦できないかを画策していました。そして2000年大会にこれらのマシンも参戦できるようになりやってきたのが、フォード・レンジャーのプロトラックです。5.7リッターV8エンジンの2WDです。フラットダートは速いのですが、スピードが出せない連続した砂丘ではスタックを喫したりと苦しい走りをしていました。この写真のマシンは当時のマシンやパーツを集め、組み上げられたマシンです。
ジャッキー・イクスはシトロエンワークスマシンで挑んだ
1974年から1989年まで販売されたシトロエンCX。シトロエンのフラッグシップモデルですが、FFで砂丘を走ることなど想像できません。しかし1981年大会ではル・マンの帝王、ジャッキー・イクス選手がワークスマシンのシトロエンCXに乗って参戦しました。上位を走っていましたが残念ながらリタイヤします。ただ翌年の1982年大会でジャッキー・イクス選手はメルセデス280GEで5位、1983年大会で総合優勝し、以降、ポルシェ、プジョーのワークスマシンに乗って、ル・マンだけでなくパリダカの中心的ドライバーとなっていきます。
シトロエンは撤退しますが、1991年に復活し、常勝チームとなっていきます。創始者のアンドレ・シトロエンは、自動車メーカーとして初めて、サハラ砂漠縦断の探検隊を編成し、成功しているので、シトロエンのプライドとしてサハラ砂漠に挑んだのだと思います。
次回は、パリダカに参戦するプライベーターの相棒として選ばれた市販車編をお届けします。お楽しみに
(文:寺田 昌弘 メイン写真:Viniclus_Juan_Branca/Fotop)
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
[GAZOO編集部]
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