水素社会に向けホンダとトヨタが挑戦している今を観た・・・寺田昌弘連載コラム

  • 第18回 FC EXPO 水素・燃料電池展

3月2回目の東京ビッグサイト。今度は3月16日~18日に開催された「第18回 FC EXPO 水素・燃料電池展」です。2014年にトヨタ・MIRAIが誕生し、2016年にはホンダ・CLARITY FUEL CELL(2021年9月終了)が誕生し、年数が経っていますが、まだ街で見かけることも稀なほど少ないです。クルマを運転する方からすれば、水素スタンドが少ないと言い、水素事業を展開したい企業からすれば、まだ水素の需要が少なく、高い建築コストと相まって事業化できないと言います。これでは水素社会へ向けた歩みは遅くなってしまいます。水素の用途をモビリティだけに留まらず、広く考え、水素を「作る」「貯める」「運ぶ」「使う」のそれぞれの立場をつなぎ、供給体制をチーム化して需要を喚起することが重要だと思います。今回もホンダ、トヨタのブースに行って聞いてみました。

GM、いすゞと組んで挑むホンダ

  • 第18回 FC EXPO 水素・燃料電池展 GMと共同開発するFCパワーユニットプロトタイプ

    GMと共同開発するFCパワーユニットプロトタイプ

ホンダがブースの中央に展示したのは「FCパワーユニットプロトタイプ」。水素社会実現に向けFCの本格普及を目指すため、GMと組んで低コスト化と生産効率を高め、モビリティだけでなく発電ユニットとしての開発が進んでいます。
またCLARITY FUEL CELLは終売となりましたが、そのHondaハートは、水素タンクとともに新たな価値を見出しました。可搬型電源として今後、まずアメリカン・ホンダモーターのデータセンター向け非常用電源として実用性を実証していく予定です。使われるFCスタックはアメリカでリース販売されたCLARITY FUEL CELLのリースアップ車両から再利用。サイコロ型のユニットに4つのFCスタックを入れ、今回は4ユニットをつないで使用予定です。
FC大型トラックでは、いすゞとタッグを組みます。2020年より共同研究し2022年度中にモニター開始を目指しています。

MIRAIで生んだ技術を拡げるトヨタ

  • 第18回 FC EXPO 水素・燃料電池展 トヨタ

    トヨタはMIRAIによる水素1回充填走行距離チャレンジなど実績を掲示していましたが、動画に私がドライブする姿が映っていました

MIRAIに搭載される自動車用に開発した70MPaの樹脂製高圧水素タンクを、鉄道や船舶、・定置式発電機など、広く社会から活用したいとの要望も多く、今回その水素タンクに水素センサーや自動遮断弁などの安全装置を統合した水素貯蔵モジュールが展示されていました。
定置型はもちろん、このモジュールをカートリッジ感覚で交換することでFC大型トラックの水素充填時間をモジュール載せ替え時間のように短縮し、ガスカートリッジや乾電池のように扱えれば、社会で広く利活用できるようになります。
FC大型トラックでは、トヨタはロサンゼルス市港湾局が中心となって進める貨物輸送の「ゼロ・エミッション化」プロジェクトにケンワースの大型トラックをベースにしたFC大型トラックですでに実証試験をし、さらに日野と共同開発を進めています。

水素社会に向けて必要なこととは

ホンダ、トヨタの水素社会へ向けての挑戦は、観ていて未来を期待させてくれます。しかし疑問も出てきます。MIRAIに搭載している樹脂製高圧水素タンクは70MPaまで充填できますが、上記モジュールなどに同じものを使っても45 MPaまでしか充填することが許されません。どうやら取付方法なども含めて充填量の上限を決めているようです。圧力は水素タンク自体の強度、安全性で決まるのに不思議なことです。
また水素ステーションの建設費が高かったり、水素ガスディスペンサー(ガソリン、軽油でいう給油機)のホースや充填ノズルの使用回数の制限が、本来200回近く使えるのに100回に制限されていたりと、コスト高の要因はいろいろあります。日本では水素社会に向けた取り組みは経済産業省ですが、国土交通省も水素利活用の取り組みをしていて、ガソリンスタンドなどは総務省管轄と行政が分かれ、法整備も遅れているのが実情です。
経済産業省は水素やアンモニアの供給網構築に向け、支援策の検討に入っています。海外からの輸入や需要が見込める地域に貯蔵インフラを集約することを目指しています。

アメリカではすでに2022年から2026年までに80億ドル(約1兆円)の予算を確保し、水素の製造から貯蔵、供給拠点を最低4カ所整備することを目指しています。ドイツは水素を輸入する際、10年間の固定価格で買い取って安定供給を支え、使用する会社に年契約で安く再販する制度を2021年に設けています。
9億ユーロ(約1200億円)を経済対策の予算の中から引き当てて価格差を補填しています。日本ではまだこうした具体的な政策がみえてきていないのが現状です。民間企業の技術革新への挑戦を、しっかりサポートすることが重要です。
以前書きましたが温室効果ガス排出量の比率(2020年度)は、自動車など運輸部門は17.7%、発電所などのエネルギー転換部門が40,4%、工場など産業部門24.1%。発電分野は輸入水素による発電はもちろん、国内で再生可能エネルギーによる水素製造が大事で、山梨県で進行している大規模P2G(PowerToGas)システムが他府県でも広がる必要があると思います。再生可能エネルギーは、太陽光、風力はもちろん環境アセスメントを実施したうえで地熱発電を拡げていく。
CO2削減のために産業分野での定置型水素貯蔵・発電設備の実証が重要ですが、モビリティ分野では、トラックなど物流分野での転換が重要だと思います。2020年のトラックのグローバルシェアでみると、中国の東風汽車、ドイツのダイムラー、インドのタタが上位を占めますが、日野といすずを足すとトップになる台数をそれぞれ販売しています。今後はFC大型トラックで日野とトヨタ、いすゞとホンダのコンビが物流業界のCO2排出削減に貢献するジャパンブランドとして活躍してくれることを望んでいます。これら開発やインフラ整備の予算であれば、ぜひ私たちが給油しているときに払っている年間5兆円の石油諸税を活かしていただきたいと思います。

(文・写真/寺田昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


[GAZOO編集部]