2023年SUPER GTに挑む、実績豊富な期待の若手新人ドライバー3人をご紹介…寺田昌弘連載コラム

2023年SUPER GT、50号車「ANEST IWATA Racing」は新体制となりました。ドライバーは3人ともSUPER GT初参戦ですが、フォーミュラでの実績、経験は豊富です。先日SUPER GTのテスト走行会があったので、イゴール・大村・フラガ選手、古谷悠河選手、小山美姫選手にSUPER GTに参戦する意気込みを聞いてきました。

  • カーデザインについては、「グランツーリスモ」シリーズの開発元:株式会社ポリフォニー・デジタルがデザイン/Gran Turismo 7:TM/©️2022 Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.

4月に開幕する2023 AUTOBACS SUPER GT。2月7~8日にGTエントラント協会が主催した専有走行が富士スピードウェイ(FSW)で開催され、ちょうど近くにいたのでカメラ片手に行ってみました。

今シーズン、GT300クラスに参戦予定の15台のマシンがテストをしていて、なかでも大注目は新体制となった50号車「ANEST IWATA Racing」。マシンは昨年のTOYOTA86 MCからLEXUS RC F GT3に替わり、今年で創業96年を迎える産業機械メーカーのアネスト岩田のチームとして参戦します。参戦パートナーには、グランツーリスモが新たに加わります。

さらにドライバーがすべてSUPER GT初参戦となる20代の若手ドライバーの3選手。3選手とも幼少の頃からレーシングカートで勝ち上がり、海外レース経験も豊富、そしてフォーミュラ選手権でシリーズタイトルを獲ってきた実績で、GT300クラスに新たな風を吹き込む期待のチームです。

  • Gran Turismo 7:TM/©️2022 Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.

リアルとバーチャル、ダイバーシティに富んだドライバー

●イゴール・大村・フラガ選手

ドライバーは、イゴール・大村・フラガ選手(24歳)、古谷悠河選手(22歳)、小山美姫選手(25歳)とみな20代の若手ドライバーですが、すでに数々の実績があります。

  • イゴール・大村・フラガ選手(左)

イゴール・大村・フラガ選手は、日本生まれブラジル育ちの日系ブラジル人レーシングドライバー。3歳からレーシングカートに乗り、国内、アジアでチャンピオンを獲得し、2017年はブラジルF3でチャンピオンに。2020年はレッドブル・ジュニア・チームに加入し、FIA-F3にも参戦。ニュージーラーンドのトヨタ・レーシング・シリーズでは、現在F1に参戦する角田裕毅選手に勝利し、シリーズタイトルを獲得しています。

またe-Motorsportでは2018年にFIAグランツーリスモ選手権ネイションズカップ(個人戦)で初代世界チャンピオンに輝き、翌年からTeam TOYOTAとして2年連続でマニュファクチャラーシリーズの世界チャンピオンになっています。今シーズンはスーパーフォーミュラを運営する日本レースプロモーション(JRP)のe-Motorsportアンバサダーに就任し、リアルとバーチャルの架け橋となる役割を担っています。

また、プライベートで何度か食事をしましたが、日本語、ポルトガル語だけでなく英語、スペイン語も話せて、コミュニケーション能力に長けており、ブラジルのラテン気質の情熱と日本の繊細さを併せ持つすばらしい選手です。e-Motorsportではバーチャル画面の映像を緻密に脳で解析して、コントローラーの繊細なタッチで世界一になっているだけに、リアルでも繊細なマシンコントロールに定評があります。

フォーミュラとGTマシンの違いを聞いてみると、「フォーミュラはダウンフォースが効いて自分専用にシートなどセットできますが、GTマシンはシートのホールドがそこまでないのでドライビングスタイルも少し変わります。マシンのセットの出し方も手段が変わってきます。新しいレースなので楽しいです」とGT300マシンのドライビングを楽しんでいます。

●古谷悠河選手

  • 古谷悠河選手(左)

古谷悠河選手は、大学に通いながらレーシングドライバーとして活躍しています。カートの世界大会ROTAX MAX CHALLENGE GRAND FINALSへ日本代表として招集され、その後、SUPER GTのトップチームのひとつであるTOM’Sの若手育成プログラム「TOM’S YOUTH」のドライバーとしてFormula Regional Japanese Championshipに参戦し、2021年シリーズチャンピオンを獲得しました。

2022年はSuper Formula Lightsにも参戦。またスーパー耐久シリーズにもHIROSHIMA TOYOPET RacingからVitzで1シーズン、GR Supra GT4で2シーズン参戦し、フォーミュラとGTマシンと実績を積んでいます。

TOM’S YOUTHではTOM’Sのマシンセッティングの方法やレース運びなど国内トップチームで鍛えられているので、SUPER GTでもその経験が活きてくると思います。とにかく冷静で謙虚で、エンジニアに的確にフィーリングを伝え、情報をしっかり聞く姿勢が彼をさらに成長させていきます。

今までのレース経験との違いを聞くと「確かにフォーミュラとは異なりますが、スーパー耐久シリーズでGR Supra GT4に乗ってきたので、それよりパワーがあってとにかく走っていて楽しいです」とワクワクしているのが伝わってきます。

●小山美姫選手

  • 小山美姫選手(左)

小山美姫選手は、男性ドライバーばかりのSUPER GTに多様性をもたらす期待のドライバー。5歳からレーシングカートでレース活動を開始し、2015年からFIA-F4選手権に参戦。国内ではKYOJO CUPの初代チャンピオンとなり、翌年も連覇。

さらに海外で女性ドライバーによるフォーミュラレース「Wシリーズ」とFIA-F4選手権にダブルエントリーし、2020年からレッドブルのサポートを受けてWシリーズに参戦する予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で残念ながら開催中止。2022年にFormula Regional Japanese Championshipに参戦し、シリーズチャンピオンを獲得しています。

緻密な計算より、天性の感覚で走れば走るほど速くなるドライバー。陽気なかわいらしさもマシンに乗れば走りの美しさに変わる魅力あふれる選手です。昨年、スポーツランドSUGOで開催された宮城トヨタグループのイベントに一緒に参加したのですが、市販車でサーキットを走る機会がなかったにも関わらずGRヤリスに乗り、スーパー耐久シリーズに参戦する他ドライバーたちも舌を巻くほどの速さを披露。来場者を乗せた同乗走行では、ヘルメットを脱いだら「こんなかわいい子があんなに速く走るんですか!」と来場者もびっくりしながら一瞬でファンになるほど。

●松浦佑亮監督

監督は、50号車を昨年から務める松浦佑亮さん。2021年まで35号車のarto Team Thailandのチーフディレクターで、LEXUS RC F GT3を知り尽くしているだけに、今シーズンは同じマシンで走ることでレース采配も優位にはたらきます。

また佑亮さんは世界に通用するレーシングドライバー育成を考え、今年から開催されるAUTOBACS GPR KARTING SERIESのプロモーターとして活躍するなど、若手ドライバー育成に並々ならぬ熱意があるので、3人のドライバーを育てていく最高の先生でもあります。

車両メンテナンスはArnage Racing。2013年からGT3マシンで参戦し続けているチームでアストンマーティンV12バンテージGT3、メルセデスベンツSLS AMG GT3、フェラーリ488 GT3、メルセデスAMG GT3と様々なGT3マシンを知るスペシャリスト集団です。ライバル勢の分析も今までの経験が活かされます。

ドライバーのコミュニケーションも真剣そのもの。開幕が楽しみだ

テスト走行が始まり、ピットにいるのも邪魔になってしまうかと思い、友達のSUPER GTファンに案内してもらいながら、観客目線でのサーキットでの撮影ポイント巡りをしてきました。FSWはコースと観客がいる場所の高低差があるので、フェンスに邪魔されず、少し俯瞰にはなりますが、撮影できてこれも楽しいです。

ANEST IWATA Racing RC F GT3

ANEST IWATA Racing RC F GT3は、まだボディがカーボンブラックですが、やはりLEXUSがサーキットを走っている光景はかっこいいです。今シーズンはK-tunes RC F GT3 とaprからLC500h GTも参戦するのでLEXUSがより華やかになります。

9:00~11:00までの2時間、3選手がマシンに慣れながら交代でラップを重ね、この走行では15台中3位のラップでした。テストも順調にメニューをこなしているとのこと。走行後、選手控室に行ってみると、3選手がマシンに乗った感覚を楽しそうに闊達に議論していました。3人でそれぞれ得たマシンの情報を共有しながら、マシンを速く乗りやすくするためにみんなで協力し合っています。とにかくGT300クラスに参戦することにワクワクしていることが伝わってきます。

GT300クラスは速く走るのはもちろん、GT500クラスに車速を落とさないようにしながらうまく抜かれる技術も必要です。フォーミュラでトップ争いをしてきた3人にとってオーバーテイクするのは慣れていますが、意図的にしてもらう経験はこれから。新生ANEST IWATA Racingと新星イゴール選手、古谷選手、小山選手が1戦ごとに経験を積み、チームとともに成長していくのがこれからとても楽しみです。

  • 3人で協力し合いながらこれからさらに成長していく

写真/イゴール・大村・フラガ、寺田昌弘 文/寺田昌弘 編集/ GAZOO編集部

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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