今年の国際自動車映画祭のグランプリは、郷愁に浸る女性とジャガーE-TYPEのドラマ・・・寺田昌弘連載コラム
今年で3回目を迎える「INTERNATIONAL AUTO FILM FESTA」のアワードパーティーが六本木にある、クルマを偉大なオモチャと考える大人のガレージショップ「ル・ガラージュ」と共同で「アクシスギャラリー」にて開催されました。
昨年、作品がノミネートされた3DCG制作スタジオの「デジタルデザインスタジオ」がライブ配信協力をしてくれたりと、年々クルマの映像を通じてクルマ好きの輪が広がっています。世界中のクリエイターの発表の場として、またクルマを文化として広く浸透していく場として進んでいますが、自動車メーカーの多いイタリア、ドイツそしてポルトガルの大使館が後援してくれ、文化的側面が高まっています。
初回より実行委員、審査委員として参画していますが、今回は73か国から499作品の応募があり、夜な夜な作品を観続ける日々が続きましたが、ついにグランプリをはじめ、各賞を発表しました。
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今回もアクシスギャラリーで開催
人とのつながり、E-TYPEの造形美に引き込まれるドラマ
第2回までは日本人のみの審査委員でしたが、今回からモータージャーナリストのピーター・ライオンさんのおかげで海外のジャーナリストも審査委員に参画していただき、よりグローバルな感性で作品を選べるようになりました。
今回は高度なCG、アニメーションの作品が増えましたが、グランプリはイギリスのNick Skinnerさん(Bridge Classic Cars)の「Memory Lane – A Love Letter to the Jaguar E-Type」に決定しました。
イギリスの牧歌的な郊外。ある高齢の女性が若かりし頃、ジャガーE-TYPEと過ごした日々。静的な造形美を余すことなく映し出し、動的な美しさもゆったりと楽しめます。何よりクリエイターのジャガーE-TYPEへの温かい愛が伝わってくる作品です。私も上位に投票しました。
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【Grand Prix】
タイトル:Memory Lane – A Love Letter to the Jaguar E-Type
作者:Nick Skinner – Bridge Classic Cars(イギリス)
作品を見る> https://youtu.be/ICD5ouJj78w
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作者はビデオメッセージで受賞の喜びを語る
私が一番に選んだのは「コペコペコペン」
傾向的に私はドキュメンタリーが好きで、前回グランプリの往年のパリダカールラリーのルートを走りたいと願う仲間がキャラバンを組み、愛車とともに旅をしていくドキュメンタリーはまさしくどストライクでした。
ただ年々、CGやアニメーション作品のクオリティーが上がり、興味を惹かれていたときに、クリエイターのさかしたのぶよしさんの「コペコペコペン」の作品に惹きつけられました。
2分に満たない作品ですが、ダイハツ・コペンに乗って走っている光景を追いながら、悩んだり縛られている大きな人間像の横を抜け、大空を泳ぐクジラのような雲と同じように開放されているコペンと主人公の雰囲気がなんともよくて何度も観返しました。
さかしたさんの愛車がコペンなのですが、顕示することなく、ふだんご自身がコペンに乗って感じる世界をアニメーションで表現したのではと思います。このままコペンのCMになってもよいのではと思うほどの秀作です。
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今回、私が一番に推したのはこちら。PRONEWS Awardを受賞。
タイトル:コペコペコペン
作者:さかしたのぶよし(日本)
作品を見る> https://youtu.be/zXj0dsXDz8k
やはりメイキング映像のような臨場感も好き
ドキュメンタリーのなかでは、スウェーデンのOskar Albert Joakimsonさんによる「VRIDEN – Snow Drifting In Sweden」が気に入りました。ボルボで雪道をドリフトしながら疾走しているのを撮影しているというとてもシンプルな作品なのですが、撮影クルーたちの緊迫感やドライバーの息遣いまで伝わってきます。漆黒の闇夜、路面や針葉樹に付いた白い雪。モノトーンの世界だから、なおさら関わる人たちの熱意がわかります。
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とにかく雪道を疾走するのがかっこいい。Best Cars Of The Year Award受賞
タイトル:VRIDEN – Snow Drifting In Sweden
作者:Oskar Albert Joakimson(スウェーデン)
作品を見る> https://youtu.be/Ul3Ol4Md4Wc
片山右京さんも審査委員となり特別賞を設定
今回から片山右京さんも審査委員に加わってくれ、F1、ル・マン24時間、ダカールラリーなど世界最高峰のモータースポーツで活躍した右京さんの感性が何に引き寄せられるか楽しみでした。
審査中に右京さんがTeamUKYO賞をあげたいということで新設され、日本のクリエイター890さんの「SUBARU BRZ STI sport PURPLE EDITION」が選ばれました。表彰式当日には890さんも来場していて、プレゼンターである右京さん直々にTeamUKYOからのプレゼントを受け取り、喜ばれていました。
作品は躍動感溢れるもので、いったいどれだけカットを撮ったのかと驚きましたが、それを惜しげもなく短くつなぎスピード感とアグレッシブさを引き立たせています。
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片山右京さんがプレゼンターで驚く890さん
学生もプロと対等に作品で競うのがいい
表彰式も終わりアフターパーティーで出席しているクリエイターの方々と話していましたが、今回特に印象的だったのが2組の学生チーム。
まず11名のチームで参加してくれたのは学校で映像を学んでいる生徒たち。
映像制作を楽しみながら挑んでいるのがわかるほどキラキラしていて、仲間とひとつの作品を作り上げるおもしろさを熱く語ってくれました。
彼らの作品は「D(R)IVE」クルマ好きなことを隠していても同じクルマ好きには伝わっているという以心伝心。初々しさとともに続きが観たくなる作品です。
「学生部門とかあるともっとエントリー作品がふえるのでは?」と言ってくれましたが、今はプロフェッショナルにアマチュアが挑む感じが、この映画祭に合っているので、来年もぜひこの無差別級の映画祭に挑んでくれることを望みます。
もう1組は女子高生の2人組。このパーティーのために上京してくれました。
作品は「Partner」後部座席から定点撮影で運転席、助手席に乗る二人の関係を映し出す手法がとてもユニークです。彼女たちは「クルマと共に歩む人生のストーリーを描きました。セリフを使わずに、登場人物の表情や仕草から感情や状況を読み取ってもらえるように工夫しました。窓越しに見える風景の変化とともに、時間の流れを表現することで、クルマが人生の相棒になっていることを伝えたいです。」と10代の女性の思いに感動しました。この学生たちのクルマと映像作品への思い、視点がすばらしい。
10代にとってクルマはスマホや家電のようにコモディティー化していくととらわれがちですが、いやいや、クルマ好きの男子、女子いますよ、ここに。
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アフターパーティーでクリエイターと交流を深める
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映像を学ぶ学生チームの作品「D(R)IVE」
作品を見る> https://youtu.be/cdV3ZGsiCnA
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アワードパーティーのために三重県から来た女子高生の2人。「学生のうちに形になるものを作ってみたかった」右の方は15歳からCGで作品を作るクリエイター
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定点撮影で人の育みを見せた彼女たちのユニークな作品「Partner」
作品を見る> https://youtu.be/F8QmFxX7xWA
写真:INTERNATIONAL AUTO FILM FESTA/文:寺田昌弘

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。