トヨタ、ホンダは今もFCEVの開発を行っている・・・寺田昌弘連載コラム

中学校の理科の授業で、水を電気分解すれば、水素と酸素に分けられることを知り、この水の惑星である地球であれば、水素を燃やしてクルマや飛行機も動かせると思いました。また、その逆の原理で、水素と酸素を反応させると電気が生まれることも学び、水素を貯めておけば、いつでも電気が作れるとも考えていました。

すでに、ジェミニ宇宙船やアポロ宇宙船に燃料電池(以下FC)が搭載され、ちょうどスペースシャトルにも搭載され宇宙へ飛び立っていた頃です。

そのときから約30年経った2014年、FCEVのトヨタ・ミライ、2016年にホンダ・クラリティ フューエル セルが発売されました。合わせて7,591台(2022年11月末現在/リース車は除く)と、数はまだ少ないながらも少しずつ増えてきています。

また現在は、東京を中心にFCバスのトヨタSORAが約120台走っています。さらに、スーパー耐久シリーズでは、水素を燃料に走るGR Corolla H2 Conceptが今シーズンから液体水素を搭載して走る予定です。

これからの水素社会に向けて「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」とそれぞれの分野で実証試験が進められているなか、すでに量産化されているFCVの開発はどのようになっているのでしょうか?

先日、「FC EXPO」国際-水素&燃料電池展が開催され、トヨタとホンダの開発者による専門技術セミナーに参加し、その動向を聴いてきました。
(※2023年シーズンからは「H2 & FC EXPO」に名称変更。)

マルチパスウェイでカーボンニュートラルに挑むトヨタ

  • トヨタ自動車CVカンパニー水素事業領域 水素製品開発部 折橋信行さん

IEAの報告によれば、2001年から2019年にかけ、自動車のCO2排出量はアメリカが+9%、ドイツが+3%と増えているなか、日本は-23%と大きく減少しています。これは国産メーカーのICEの燃費向上はもちろん、コンパクトカーからSUV、商用車に至るまでHEV、PHEVのラインナップが増え、クルマの買い替えが進んでいることに起因すると考えます。

トヨタ自動車CVカンパニー水素事業領域 水素製品開発部の折橋信行さんは、

「主要国の発電電力の構成を見ると、カナダは水力58.5%、再生可能エネルギー7.2%など、全体でCO2を抑えていますが、中国では68.6%も石炭に依存して発電しています。そのため自動車分野のみ切り取ってBEVでCO2削減を考えるのではなく、地域ごとのエネルギー事情に合わせた複数の選択肢、マルチパスウェイでカーボンニュートラルの実現を目指すことが重要だと考えます」

と話します。確かに、前述のカナダであればさらに再生可能エネルギーを増やしながらBEVを推進していくのは理にかなっていますが、中国でBEVが増えてもその電力を賄うために石炭火力でCO2を出すのでは、本末転倒になってしまいます。

私は50ヶ国をクルマで旅しながら、その国々の交通事情を現場で見てきました。ボリビアやモーリタニアのように電力供給が脆弱なところは停電になると、村にある大きなディーゼル発電機で電力を賄っています。サハラ砂漠やオーストラリアのアウトバックなど、砂塵が舞うところを走るには、個人的にはまだBEVは相棒とは呼べません。

トヨタでは1992年からFC開発を開始し、22年に渡って開発を進め、ミライを発売し、私も愛車の1台として普段から乗っています。東京オリンピック・パラリンピックの試合会場が、私の住む江東区に多かったおかげで、現在も水素ステーションがいくつもあり、まったく不便は感じません。

しかし地方に行くには、水素ステーションの場所や営業時間など下調べしてから出発する必要があります。また、今年から値上げとなった水素ステーションもあります。やはり、乗用車より、物流を支える大型トラックのFC化で水素需要を伸ばしながら、大型水素ステーションを配備していただけたらと思います。

すでに岩谷産業とコスモ石油が設立した合同会社、「岩谷コスモ水素ステーション合同会社」は、東京・平和島のトラックターミナル内に。「日本エア・リキード」は福島・本宮の地で両社ともに、2024年に“大型トラックまで水素充填可能な大型水素ステーション”を稼働し始める予定です。

トヨタにはFCバスが公道を走り続けている実績があるので、大型商用車にも活かし、日野から大型トラックが販売されることに期待しています。

ミライによって鍛えられているFCEVとしてのコアテクノロジーは、FCモジュール、水素貯蔵モジュールとして販売し、北米や欧州の大型FCトラックや定置式FCなどに活用されることで、今後、建機や港湾重機など、さまざまな分野で活躍することが見込まれています。

他メーカーと組み、新たなFCEVとともに挑むホンダ

  • 本田技術研究所 先進パワーユニット・エネルギー研究所 チーフエンジニア 斗ヶ沢秀一さん

2021年にホンダ・クラリティ フューエルが販売終了し、ソニーと提携してBEVの新ブランドを公表したことで、FCEVの開発には消極的になったのでは…と思われていましたが、実際は開発が進んでおり、CR-Vをベースとした使い勝手のいいFCEVを2024年に北米で発売予定です。

今までのFCEVと異なるのは、PHEVのようにプラグインでバッテリーに充電できる機能が加わることです。どれくらいの容量のバッテリーが搭載されるかについては、まだわかりませんが、近所に買い物に行くくらいであればBEVとして走ったり、サービスエリアやショッピングモールで充電器が使えたりすると便利ですね。

2013年より、GMとFCシステムの共同開発に合意し、進めてきた次世代FCシステムは、コストは1/3以下にし、2倍以上の耐久性を目指して開発しています。これはFCEVだけでなく、バッテリーだけでは難しいモビリティや発電機の電動化に貢献するために、定置式FC、建機、商用車など、最初から用途を広く考えて開発しています。

大型トラックでは、2020年からいすゞと共同研究を開始したり、2023年から中国の東風汽車集団と走行実証実験を開始したり、互いの得意技術を組み合わせることで、スピード感もありながら、コストを抑え、技術を高め合えるというメリットがあります。

本田技術研究所 先進パワーユニット・エネルギー研究所の斗ヶ沢秀一さんは、

「2030年にEV生産台数、200万台以上を目標に掲げていますが、当社はバイクもあり2025年までに10モデル以上をEVで展開予定です。充電時間を気にしなくて済む交換式バッテリーのホンダ・モバイルパワーパックの活用拡大などで利便性を上げていきます。FCはコストを下げ、FCEVだけでなく使っていただける分野を拡げ、生産台数を増やしてさらにコストメリットが出るように考えています」

と話します。日米市場で販売されたクラリティ フューエル セルの走行累計は9,100万kmを超え、信頼性を確固たるものにしながら、次世代FCシステムを2024年市販化に向け検証を進めています。

  • ホンダの次世代FCシステム

「つかう」の心臓部、FC(燃料電池)はトヨタ・ホンダが強くする

水素サプライチェーンの「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」のなかで、FCや水素エンジンは「つかう」のキーテクノロジーです。信頼性、耐久性、コスト、エネルギー効率の向上がさらなる普及へのカギになってきます。

それをモビリティで鍛え上げ、さらに、人にも地球にもやさしいものになって、その心臓部となるFCが、さまざまな産業分野で活用されるようになり、「つくる」はこぶ」「ためる」もさまざまな技術が生まれながら拡がっていく。

目標はいかにCO2を減らしながら、社会での利便性を高めていくか。さまざまなメーカーが技術を競い合い、よりよい環境を作り上げていくことが大切です。敵は炭素。立ち向かっていくその原動力の心臓部となるのはFCですし、私たちのハート、地球への思いでもあります。環境負荷を抑え、次の世代の人たちが自然とともに共存するためにとても大切なことを、このセミナーに参加して学びました。

(写真・文/寺田昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。