ヤマハ発動機 コミュニケーションプラザで四輪と名機エンジンを観る・・・寺田昌弘連載コラム
エンジンがついた乗り物に、私が初めて乗って走ったのは、1982年モデルのYAMAHA YZ80、競技仕様のモトクロッサーです。中学2年生の時、テレビでパリ・ダカールラリーを観て、サハラ砂漠へ行こうと決め、貯めていたお年玉をすべて自分の夢に賭けて、YZ80を手に入れ、オフロードを走る初めての楽しさをYAMAHAに教えてもらいました。
そんな思い入れのあるヤマハ発動機の本社エリアに、「過去・現在・未来」と「コミュニケーション」をキーワードにヤマハ発動機とその製品を紹介する企業ミュージアム「コミュニケーションプラザ」があります。
以前、東京のメガウェブでダカールラリーのイベントをプロデュースした際、過去パリ・ダカールラリーに参戦したマシンを借りに来たことがあるのですが、そのときバイクだけでなく四輪もあるのを知り、今回は四輪を観て回りました。
軽自動車ではなく、四輪でもスポーツを追求したYAMAHA
1949年に日本で軽自動車の規格ができ、軽三輪、軽四輪などに分類され、排気量が拡大するなか、1954年に軽四輪の排気量が360ccに統一されました。そして1955年に通商産業省(現・経済産業省)が日本の国民大衆車の産業振興のため「国民車育成要綱案」を発表。自動車メーカーだけでなく、当時200社を超える二輪メーカーをはじめ、異業種からも軽自動車製造を目指す企業がありました。
同年、トヨペット・クラウンが発売され、国産の憧れのクルマが登場しました。そしてこの年に日本楽器のオートバイ製造部門を分離独立し、ヤマハ発動機(以降ヤマハ)が設立。空冷2ストローク125ccの「YA1」、通称、赤とんぼと呼ばれたバイクを発売し始めます。
「国民車育成要綱案」に合致する軽自動車は誕生しませんでしたが、スバル360が誕生したことで、国民にも手の届くクルマ、いわゆる国民車が誕生し始め、スズキはスズライトTL、マツダはR360クーペ、三菱はミニカ、ダイハツはフェローと軽自動車のラインナップが多彩になっていきました。
ヤマハは、通商産業省が後援していた二輪レースに「YA1」で挑みます。1955年に行われた第3回 富士登山レースの市販車部門(125ccクラス)に参戦し、16メーカー49台中、見事優勝し、トップ10に7台も入る快挙を成し遂げます。
半年後に開催された第1回 浅間高原レースでも上位入賞を果たし、年間販売台数は、1955年の2,272台から1957年には15,811台に増加。レースでの活躍で技術の高さをアピールし、モータースポーツを走る実験室としてだけでなく、マーケティングに活かして成功しました。
1958年から軽四輪の開発も検討していましたが、欧米視察を機に高性能スポーツカーの研究を開始。そしてトヨタと共同開発・生産した「トヨタ2000GT」が1967年に発売されます。
扱いやすい4バルブエンジンを世に送り出したYAMAHA
私が高校生だった1985年、ヤマハFZ250 Phazerというバイクが登場。4ストロークで2ストロークの同排気量に匹敵するパワーと何よりレッドゾーンが17,000rpmnの超高回転エンジンに驚きました。当時から、ヤマハの先進的で独創的な技術力の高さに魅力を感じていましたが、バイクのエンジン技術が以前より四輪に活かされていたのを後で知りました。
1970年代からグローバルに排気ガス規制が広がり、エンジン出力やレスポンスが落ち、クルマでドライブするおもしろさが減退してきたとき、日本車のエンジン技術が飛躍的に進化し、世界で勝負できるようになりました。
ヤマハは、バイクや船外機を製造している技術から、軽量で高回転、高効率で燃費のよいエンジンを製造する技術があり、これが四輪に活かされます。
DOHCはもちろん、当時レース用エンジンとして4バルブはありましたが、高回転、高出力だけでなく、低回転でもトルクが出るようにして、扱いやすく高効率なDOHC・4バルブエンジンをどのメーカーより先に量産しました。現在の一般的なこの仕様も、ヤマハから始まっていることはあまり知られていません。
そして、四輪でもエンジンサプライヤーとしてモータースポーツに挑戦。全日本F2シリーズでは松本恵二選手とともに優勝。F3000では鈴木亜久里選手がシリーズチャンピオンになりました。さらにヤマハはF1にも挑戦し、1989年から1997年にかけ116戦を走り、ザクスピード、ブラバム、ジョーダンと組み、ティレル・ヤマハでは片山右京選手が乗り入賞を果たし、アロウズ・ヤマハではハンガリーGPで2位入賞するまでになりました。
ヤマハは四輪でもモータースポーツでエンジン開発に磨きをかけました。
コミュニケーションプラザに展示される四輪
バイクの展示が一番多いものの、四輪、ボート、スノーモービルなど多彩なモビリティも多数展示されています。
入館してすぐの目の前には3台の四輪があり、中央には「トヨタ2000GT」、左は「レクサス LFA」。レクサスと共同開発した4.8L V10エンジンは、V6エンジンと同等の重量、V8エンジンと同等のサイズで、軽くてコンパクトな1LR-GUE型エンジンの製造が実現しました。
右は、ヤマハがF1用エンジンをベースに発売を目指した「ヤマハ OX99-11」。CFRP製モノコックシャーシで運転席をセンターに、2列目も1座席と戦闘機のようなタンデムレイアウト。車両重量は1,000kgと軽量で、走りを想像しただけでもワクワクします。
2階に上がると、1992年にF1で活躍したJORDAN YAMAHA192のマシンがあり、エンジンが見える状態で展示されています。また、1997年にハンガリーGPで2位入賞したシーズンのエンジン(0X11A)も展示。速いものは美しいというその造形美に見惚れてしまいます。トヨタと共同開発したエンジンは、Toyota 3M(トヨタ2000GTに搭載)、2T-G(初代セリカなどに搭載)があります。
オフロード四輪バギーに注目
ゴルフカートもヤマハの四輪で有名ですが、やはり北米を中心にオフロードを楽しむ新たなカテゴリーを切り拓いた「オフロード四輪バギー」に注目です。
ヤマハでは、ROV(Recreational Off-Highway Vehicle)と呼びますが、砂丘やダートを楽しむモデルに、農場・山林で楽しんだり、移動したり、作業車となるモデルなどがラインナップされています。
今年のダカールラリーではSSV部門に参戦もしています。そのオフロードを楽しむベースとなっているATV(四輪バギー)もあり、ダカールラリーではクワッド部門に参戦できますが、今回は完走した10台すべてYAMAHA RAPTOR700で、この部門はヤマハでないと勝てないと言われるほどです。
このように、乗り物好きがワクワクするものばかりを展示しているコミュニケーションプラザ。入場料も駐車場も無料で、平日はヤマハ発動機本社稼働日に準じて、週末は隔週で開館しています(状況により予告なく変更する場合あり)。詳しくはホームページで確認していただき、ぜひ観に行っていただけたらと思います。
オフロードもマリンもヤマハのフィールド。それらのモビリティを観ながら、地平線や水平線の先を夢見ることのできるヤマハは“感動創造”の場所です。
【参考】ヤマハ発動機 コミュニケーションプラザ
https://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/cp/
写真・文/寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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