BEVのイメージを吹き飛ばすヒョンデのBEV「IONIQ 5 N」、リアをきれいに流すこともできる・・・寺田昌弘連載コラム

ラリージャパンが終わり、まだ興奮冷めやらぬ2日後。ティエリー・ヌービル選手がドライブするHyundai i20 N Rally1 Hybridの助手席で同乗体験ができるという貴重な機会をいただき、スパ西浦モーターパークに向かいました。

そこではラリーカーはもちろんTCRマシン、ドリフト体験など、ヒョンデが様々なモータースポーツで活躍しながら磨いてきた「N」ブランドのフィロソフィーを体感。さらに「IONIQ 5 N」をドライビングして、BEVの印象が一気に変わりました。

ヒョンデの情熱が「N」ブランドを高みへ誘う

  • 今回試乗したヒョンデの競技車、コンセプトカーそしてIONIQ5 N

2022年2月に日本再上陸したヒョンデは、すでにBEVやFCEVをローンチし、11月に小型SUV、KONAのEVモデルを発売開始しました。

2022年のグループ世界販売台数では、すでにトヨタ、フォルクスワーゲンに次ぐ世界3位となり、ルノー・日産・三菱アライアンスやフィアット、フェラーリ、アルファロメオ、Jeep、プジョーなどのステランティスを超えるモビリティカンパニーです。

ヒョンデといえばWRCやTCRなどモータースポーツで活躍するブランドですが、そのモータースポーツ部門は2012年にドイツで設立されており、欧州のモータースポーツ界で鍛え上げてきました。

そしてモータースポーツで得た技術を市販車へフィードバック。コーナリングを果敢に攻め、サーキットでも活き活きと走り、いつでもスポーツカーとして楽しめる「N」ブランドを2015年から立ち上げました。

今回試乗させてもらったのは、「IONIQ 5 N」。IONIQ5は2022年にワールド・カー・オブ・ザ・イヤーや日本でもインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したクルマです。

これをNブランドのハイパフォーマンスモデルに仕立てた「IONIQ 5 N」は、フロントに166kW、リアに282kWのモーターを搭載した4WDのBEVとなっています。

これまで私が試乗したBEVは、移動の快適性と先進性を取り入れたテスラModel3、質感の高さと加速感を楽しめるメルセデスEQB、スムーズなハンドリングが楽しいトヨタbZ4Xなど。しかし、今回の「IONIQ 5 N」は、今まで乗ってきたBEVとは一線を画するエモーショナルなものでした。

おもしろいのが「ICEサウンド」。ガソリンエンジン車に乗っているようなエキゾーストノートが聴こえ、走り出すとBEVではなくガソリンエンジン車に乗っている感覚です。

コーナー手前で減速していくとブリッピング音もして、レーシーな雰囲気を醸し出します。コーナリングはイメージ通りにラインをトレースするので、下りのコーナー出口でアクセルを多めに踏むとリアがきれいに流れ出してワクワクします。

トルクベクタリングの効果とフロントのトラクションのかかり方がよく、きれいにスライドしながらコーナーを立ち上がることもできます。サスペンションもアウト側がしっかりタイヤをグリップさせるように踏ん張り、姿勢変化が少ないのでスムーズに走らせられます。

さらにおもしろかったのがステアリング右側にある「NGB(N Grin Boost)」ボタン。

押すと、10秒間ブーストがかかり、416mと短いストレートエンドで180km/hまで行くのには驚かされました。アクセルを踏めば一気にトルクが発生し、シームレスに加速していくのでどこまで加速し続けるのだろうと大興奮。ブースト時の478kW(650ps)、最大トルク740Nm、0-100km/h加速3.4秒を簡単に体感できるのがすごいです。

またブレーキもフロントが400mmローターに4ポットキャリパー、リアが360mmローターに1ポット+回生ブレーキでブレーキの効きもいい。全長約1.5kmのコースを4周しましたが、クルマに慣れてくるにつれ、アベレージスピードも上げられ、どこまで攻めていいんだろうかと懐の深さがとても気に入りました。

「IONIQ 5 N」のドライビングは、今までのBEVとの違いが明確で、それでいてガソリンエンジンのスポーツカーに乗っているような楽しさもあり、「N」ブランドの独創性を一瞬で体感できるいいクルマでした。

ティエリー・ヌービル選手のドライビングに感激

  • ティエリー・ヌービル選手のコドライバーシートへ

同乗試乗では、ティエリー・ヌービル選手がドライブするi20 N Rally 1 Hybridに乗れる貴重な機会をいただきました。数日前にラリージャパンの豊田スタジアムでの走りを目の当たりにしていたので、それを体感できるのが楽しみでした。

ティエリー選手はベルギー人なのでここは敢えて英語ではなく、フランス語で挨拶したところ、一気に笑顔になってつかみはOKでした。試乗は最後の回で、タイヤもブレーキも温まっているので、ピットロードから1コーナーまで一気に加速していきます。

コンパクトなボディに1,260kgと乾燥重量が軽く、パワーユニットは1,600cc直列4気筒ターボ+ハイブリッドシステムで出力は公称380hp+134hp(ハイブリッドシステム)、トルクは450Nm+180Nm(ハイブリッドシステム)。

ブレーキングも想像以上に短い距離で減速し、フロントを少し沈めたままきれいにコーナーに進入。少しロールしつつ、タイヤのグリップが抜けないところをキープしながらきれいに曲がって一気に加速していきます。

次のコーナーまでの直線が、私が「IONIQ 5 N」で走ったときよりも短く感じるほどです。すぐコーナーが迫ってくるのですが、助手席に乗っていてとても安心して乗っていられました。

これもi20 N Rally 1 Hybridを操るティエリー選手の繊細なドライビングによって視線がぶれないからだと思い、これならコドライバーがペースノートを読み上げやすいと実感しました。

後半のコーナーで意図的に滑らせ、コーナー出口までアクセルワークだけで姿勢を一定にしたまま駆け抜けたのにも感動しました。

私は乗車中にペースノートをフランス語で読み上げるコドライバーの真似をして親睦を深めようとしましたが、爆音にかき消され、ネタはダダ滑りでした(笑)。

ヒョンデのWRC、TCR参戦マシンに同乗し、その性能や世界観に触れ、「IONIQ 5 N」をドライビングして実感したこと。それは、この「N」ブランドは大衆に迎合するマーケットイン的な要素がなく、エンジニアによる“これこそ乗ってもらいたいクルマだ!“という熱い思いが伝わるプロダクトアウトで誕生したクルマだということです。

クルマ好きなら、誰でもその魅力に惹かれると思います。試乗できる機会ができたらぜひドライブしていただきたいです。BEVの概念がきっと変わるはずです。

写真:Hyundai Mobility Japan、寺田昌弘/文:寺田昌弘

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


[GAZOO編集部]

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