音もなく街を走る燃料電池塵芥車(FCパッカー車)を観て水素利活用社会を考える・・・寺田昌弘連載コラム
FCEVのトヨタ・ミライに乗るようになって、高速道路を走って東京から宮城や愛知に行く際、ランドクルーザー70(パリダカールラリー参戦時に、防音材やカーペットをすべて剥がしてしまった)では長年あきらめていた音楽を楽しめるようになりました。
また、渋滞時はエアコンさえ入れていなければ水素の消費をかなり抑えられるため、新たな長距離移動の足としてとても快適です。
新東名高速の制限速度120km/h区間も楽に走ることができ、そしてなにより静か。
都内で乗っているときは、ストップアンドゴーを繰り返すので、高速道路を100km/hで走っているときと比べると、水素消費量は若干悪くなりますが、意外と助かるのは駐車場。
ランクルで行くとハイルーフなので、駐車料金が1日3,000円。一方、同じ駐車場にミライで行くとタワーパーキングに入るので1,600円で済み、1,400円の差は大きいです。
さらに地下駐車場だと、係員に「排気ガスが出ないから助かる。どんどん来てください」と言ってもらえてうれしかったりします。
それでも最近気になるのは、水素価格が上がっていること。
ENEOSはすでに1kgあたり2,200円で、イワタニ産業も6月1日より1,210円から1,650円に上がり、FCEVに乗る身としてはCO2を出さない心地よさはありますが、移動コストが上がってしまうのは悩みの種です。
そろそろホンダからプラグインFCEVが発売されるようですが、これからさらに水素を使うモビリティが増え、水素生産量が増え、コストが下がることを祈るばかりです。
そのなか期待しているのは商用車です。
すでに東京を中心にFCバスは少しずつ増えてきていますが、同様に毎日同じルートを走る小型のデリバリートラックやごみ収集のためのトラックやパッカー車などが、FCEVになってくれたら、水素を使う仲間が増え、使用量もほぼ一定なので水素生産計画も立てやすくなると常々思っていました。
そしてついに福岡市でFCパッカー車の導入が始まったということで、これは現場を観ておかなければと行ってきました。
トヨタイムズが取材するということで同行させていただく。この模様はトヨタイムズ 日本初!水素の「はたらくクルマ」たち!福岡市☓トヨタで目指す社会(https://toyotatimes.jp/newscast/066.html)で観られる
BEV(バッテリ式電動自動車)ではなくFCEV(燃料電池自動車)が小型トラックに適している理由
CASEの社会実装・普及に向けたスピードを加速し、輸送業が抱える課題の解決やカーボンニュートラル社会の実現への貢献を目指して立ち上げられ、現在いすゞ自動車、日野自動車、トヨタ自動車、スズキが力を合わせるCJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)がすすめるFCパッカー車。
3トンワイドロングのトラックシャシーベース車にトヨタ・ミライで培ったFCシステムと、パッカー車の特装で高い実績を持つ新明和工業のごみ収集装置が組み合わされたものです。
水素タンクはキャブの後ろに2本、荷台下左右にそれぞれ1本ずつ装備されています。
BEVでも同じことができるのでは?と思うかたもおられるかもしれませんが、構造上、車重が重くなり、かつ電気でごみ収集装置を動かしたりするのでこれをバッテリーだけで賄うことは不可能で、個人的にBEV商用車は、郵便配達車や宅配業者のラスト数マイルを受け持つ軽自動車のバンタイプが向いていると思います。
闇夜にほぼ音もなくごみを収集するFCパッカー車
深夜0時になり、ステーションからFCパッカー車が住宅地へ向かいます。
追いかけて到着したのが閑静な住宅街。
家の電気もほぼ消えていて、街灯が照らす道に約30m間隔ぐらいでごみが置いてあります。そのなかをかすかなモーター音とタイヤパターンノイズくらいでゆっくり走り、次々とごみを回収していきます。
ちょうど犬の散歩をしていたかたがおられたのでお話しを伺うと「とても静かになって、ここで暮らしている私たちもありがたいですし、愛犬も吠えることなく平然と散歩しています」とここに暮らす方々に大好評です。
もうひとつ気づいたのが、作業者の声があまり聞こえないことです。
従来のディーゼルエンジンのパッカー車だと、「オーライ、オーライ、ストップ!」「オッケー!」など運転手にエンジン音を超える大声で掛け声をかけ、バックミラーに向けて手で合図をしていましたが、
FCパッカー車は静かなので、その必要がありません。
また作業者のいる後部と運転席をつなぐ通信装置があるので、そこで普通の声量で話せば会話ができるようになっています。
暮らす住民はもちろん、作業者にとってもやさしいFCパッカー車は、福岡市を皮切りに東京都千代田区や約10区市で実証稼働していく予定とのことです。このFCパッカー車がまずは住民が多く、水素ステーションがある都市を中心に普及し、水素を安定的に使用するモビリティが街に増えていってくれれば、水素の価格についても上昇を防げるのではと期待しています。
これからカーボンニュートラル社会をモビリティが牽引していくためには
東京都ではFC大型トラックの購入や燃料にかかる費用を事業者向けに補助を開始しました。FC大型トラックとFC小型トラックともに、国などから出る補助金を合算したうえで同等仕様のディーゼルトラックの価格よりも上回る部分を補助します。
車両導入費の補助について、上限額はFC大型で5600万円、FC小型で1300万円。
燃料費については、水素と軽油の価格差をもとに算出した補助単価に、年間の走行距離の乗じた金額から、他の補助金等の金額を差し引いた額が補助され、上限額はFC大型で900万円、FC小型で200万円です。
ただFC大型トラックは、車格はもちろん水素タンクが大きく、充填可能な水素ステーションが福島と東京にしかないため、現状生産計画を立てるのが困難です。条例的にも2ヶ所同時に充填することが不可など、これからの時代に合わせ、社会の慣例を変えていく必要があります。
FC小型トラックであれば、需要さえ見えてくればインフラも生産もより着実に広げて行けると思います。FCトラックは、荷物を運ぶだけでなく、社会全体がカーボンニュートラルへ向かう道を切り拓いてくれると期待しています。
受益者負担の原則で、元々道路特定財源として、クルマを所有し、走行している私たちが払っているガソリン税や自動車重量税などの税金が、2009年以降一般財源化されていますが、2010年には揮発油税だけで2.75兆円もあり、以降はHEVをはじめ燃費のいいクルマが普及したこともあり2023年は揮発油税約2兆円、自動車重量税6,644億円あります。
地方に入る自動車税、軽自動車税、軽油取引税、地方揮発油税、一部自動車重量税はまずはそのままでいいので、少なくとも2兆円を超えるクルマに関わる国税のなかから、水素生産・貯蔵技術開発、計画的な水素ステーション建設、FCEVの開発から利用といったことに、予算を割り当てる。このようなカーボンニュートラル社会へ向けたモビリティ社会全体が、日本の高い技術力を活かして世界に見本を示せるくらいになっていくべきだと思います。
公共性を考えれば、郵便やガス、電気通信などを所管する総務省が、郵便事業でHonda Mobile Power Pack e:を共用して、バイクメーカー各社が製造するEVバイクを増やし、軽バン配達車のBEV化を加速させ、さらに経済産業省と組んで、小型、大型トラックのFCEV化を加速すれば、CASE、MaaSも合わせて国家としてのロードマップが示しやすく、民間企業も計画を立てやすく現実的なものになると思います。
これからの日本のモビリティ社会の発展が、日本の技術力をさらに高め、よい国になっていくと信じています。
写真・文:寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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