モビリティカンパニーが水素社会を牽引する・・・寺田昌弘連載コラム
水素利活用の今とこれからを知るために、今年も「H2 & FC EXPO 【春】(水素・燃料電池展)」(以降FC EXPO)に行ってきました。
2022年から初代トヨタ・ミライに乗り始め、2025年に現行モデルに乗り換え、FCEVオーナーの立場から水素利活用の進捗を体感しています。私は東京都江東区をベースにしているので、水素ステーションが比較的近くにあり、仕事では北は宮城、西は愛知にミライで行くことがありますが、それぞれ仕事先近くに水素ステーションがあるので営業時間だけチェックしておけば、静かでCO2を出さずにドライブを楽しめます。
ただ行く先々の水素ステーションでスタッフにインタビューしても、コマーシャルベースではまだまだ及ばないのが現状です。水素製造から充填までのコストを下げることやモビリティ、工場などでの発電、燃焼で水素を消費する量を増やすことが大切です。
今まで水素バリューチェーンとして各企業が独自の技術、活用方法などを発展させながら協力しあうことをしていますが、利用者のひとりから見ていると、水素利活用を「作る」「運ぶ」「使う」を強力に推し進める指揮者がいなかったように思えます。
経済産業省の水素・燃料電池ロードマップでは、2030年ごろに1Nm3あたり30円を目指すとあり、水素1kg=約11Nm3なので、1kgあたり330円の水素原価になります。これであれば予想上代が700-800円ぐらいで、現在の二分の一から三分の一の価格で済みます。
今回FC EXPOで注目すべきは、トヨタとヒョンデがFCEVを作るだけでなく、水素製造から充填まで協力会社とともに指揮者も兼ね、社会に水素利活用の実装を目指す発表をしたことです。
トヨタは水素を「作る」と「使う」を加速する
トヨタはプラント建設大手の千代田化工と共同開発した「5MW水電解システム」を発表しました。元々2023年に共同開発しデンソー福島で使用している水電解システムは、1時間当たり8kgの水素製造量でしたが、今回は同じ敷地面積で12倍となる96kg/hを製造でき(ミライで4~5kg/台充填すると1時間あたり約20台充填可能)、今後はさらに192kg/hを製造できるよう計画中とのことです。トヨタ本社工場で今月から稼働し、部品製造や運搬車、おそらくFCフォークリフトなどに使用される予定です。
この装置はAIを活用し、経済性を考慮した最適な運転制御を可能にしたり、セルスタックをカートリッジ化することで、仮に不具合が出てもすぐ交換して復旧できるようにしたり、アップデートした部品にすぐ交換できる「成長していく水素製造機」となっています。
また「使う」では、昨年発表された乗用車向け、汎用向け、商用車向けの第3世代FCシステムが展示されていましたが、小型トラックカテゴリーで国内OEMと共同で検討していることが発表されました。
今までFCトラックは、大型は日野、小型はいすゞのシャシーをベースに生産していましたが、日野と三菱ふそうが2026年4月1日より新持株会社「ARCHION(アーチオン)株式会社」のもと経営統合され、それぞれ事業会社として共通プラットフォームで効率を高めるとともに、トヨタ、ダイムラートラックから支援を受け、その中にFCシステムもあるので、FCトラック開発もより加速すると思われます。
ヒョンデはFCEV「ネッソ」を日本発売予定
ヒョンデはグループ企業とともに有機性廃棄物を水素へと転換する技術「W2H(Waste to Hydrogen)」を開発し、水素製造と廃棄物処理を組み合わせたユニークな活動をしています。今回は2026年上期に日本で販売するFCEV「ネッソ」とともに、水素自動充填ロボットの展示と水素充填インフラにもユニークな技術を公開しました。
ネッソはSUVタイプのFCEVでFF駆動。タンクレイアウトがセカンドシート以降となるため車内の床がフラットで広いのがとてもよいです。タンクも6kg以上入り、航続距離は最長1,014km(WLTCモード/自社測定値)とミライを凌ぎます。ネッソはすでに海外で販売されており、日本で販売してもらえるのは水素ステーションの利用車が増えるので大歓迎です。
水素自動充填ロボットは、現在の日本の法規では難しいそうですが、センシングAIを活用したロボットで、24時間自動で充填できるようになればFCEVオーナーにとってとてもうれしいので、ぜひ日本でも可能になるよう頑張ってもらいたいです。
また、トヨタがまずモビリティ分野から水素利活用を拡げ、そこから産業分野に展開を拡げることに対し、ヒョンデは都市インフラ拡大に向けた「パッケージ型水素充填所」や自社工場の塗装工程の約5000基のバーナーを段階的にLNGから水素ベース設備へ切り替えていく計画を発表し広く展開していく予定です。
ホンダは独自技術で挑む
今までホンダのFCシステムはGMと共同開発したものを展示していましたが、今回世界初公開されたFCシステムのモックアップは、ホンダ独自のものとなります。FCシステム開発はとても費用の掛かるものなので、四輪電動化戦略を見直したホンダが、ここからどのように進めていくか、頑張ってもらいたい。ただ北米では中古FCEVから取り出したFCシステムを活用した定置電源の実証実験を北米で実施していて、その結果から何か光明を見出してもらいたい。
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ホンダ独自開発となるFCシステム
愛三工業の小型FCモビリティがおもしろい
主に吸排気系のパワーユニットやFCEV部品など自動車部品の製造、販売をする愛三工業は、ヤマハ発動機と共同で空冷小型FCシステムを乗せた小型モビリティを展示。ヤマハ発動機が電動カートをベースに、観光や地域の交通システムとして進めているグリーンスローモビリティ(通称:グリスロ)をベースにFCEV化。
私は地方の交通手段のひとつとしてグリスロはとても有効と思っていて、それがFCEVになる可能性があるとしたら、水素ステーションがある地域であれば新たな魅力のひとつになると思います。
このコンセプトカーの魅力はFCシステムを小型化するために空冷を取り入れ部品点数を減らしながら軽量化を実現しているところ。また水素貯蔵を吸蔵合金ではなく、ミライなどに使用されているCFRPタンクを搭載しているところも航続距離が長くできるのでより現実的です。
水素利活用は、UCCが水素焙煎コーヒーを展開したり、サントリーが白州工場で水素製造、使用の地産地消モデルを展開したり、さまざまな業種で進んでいます。
モビリティ分野もさらに盛り上がっていただき、北米、欧州では鈍化しているように見える水素利活用を日本、韓国、中国といったアジアから水素社会を先導し、世界に拡げてもらいたいなと、日本でミライオーナーであるひとりとして切に願っています。
写真:文/寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。







