【国道の云われ(国道5号/北海道)】北海道の開拓を象徴する「赤松街道」とは!?

開削工事の様子(函館市中央図書館 所蔵)
開削工事の様子(函館市中央図書館 所蔵)

普段何気なく通っている道。会話の中で「〇〇通り」「〇〇道路」とその名を呼ぶ事はあっても、その由来や意味を深く考えたことはあるだろうか?
その意味を知ったとき、おそらくあなたは、その道を、その街を、より好きになるだろう。

北海道函館市と札幌市を繋ぐ国道5号。世界中からスキー客が訪れるニセコ町、運河や石造りの倉庫など古き良き街並みが残る小樽市などを経由する道だ。総延長は301.2km。
函館~森間の約45kmは日本初の本格的な西洋式馬車道として建設された「札幌本道」に相当する。その「札幌本道」だった道の途中に、壮大なアカマツが立ち並ぶ区間があり、「赤松街道」という名で親しまれている。

国道5号線

A)函館市桔梗町 ~ B)七飯町  「赤松街道」

江戸時代末期に北海道で育てられたアカマツが立ち並ぶ「赤松街道」

国道5号の函館市桔梗町~七飯町の14.3kmに及ぶ道沿いに、1300本を超えるアカマツが植えられている。この赤松並木の道は昭和61年(1986)に「日本の道100選」に選ばれ、平成2年(1990)の道の日(8月10日)の愛称募集で「赤松街道」と名付けられた。その後、「新・日本街路樹100景」、「歴史国道」、「土木学会選奨土木遺産」に選定されている。

単に美しいアカマツの並木が続いているだけでは、「歴史国道」や「土木遺産」には選定されないだろう。選ばれた理由には、この道が北海道の開拓史と深く関係している道であることが挙げられる。

もともとこのアカマツは安政5年(1858)に栗本鋤雲(くりもとじょうん)という人物が佐渡からアカマツの種子を取り寄せたことから始まる。
医者の家系に生まれ、幕府の専門医としてエリートコースを歩んでいった鋤雲だが、些細な出来事から医師を解任され、事実上の左遷として、蝦夷地への勤務を命じられた。開港したばかりの箱館(現在の函館)に移った鋤雲は、江戸では見られない薬草が豊富にあることに気づき、七重町(現在の七飯町)に薬園を開設。
園丁長(園丁とは庭師のこと)に任命された吉野鐵太郎(てつたろう)とともに、薬草のほか、当時北海道では自生していなかったマツやスギの種子や苗を取り寄せ、育てはじめたのだ。
その後鋤雲は江戸に戻るが、薬園を任された鐵太郎は、育ったアカマツを当時完成したばかりだった五稜郭や街路に植樹していったという。

時代は江戸から明治に移り変わる混乱期。大政奉還を経て、旧幕府脱走軍と新政府軍の最後の戦い(戊辰戦争・箱館戦争)が箱館で行われた。
新政府軍が勝利を収めると、明治新政府は蝦夷地の開拓に力を入れるため、蝦夷地を北海道と改称し、札幌に本庁舎を設置する。そこで北海道の玄関口である函館と札幌をつなぐ道路の整備が急務となったため、アメリカ人技術者の協力を得て造られたのが前述の「札幌本道」だ。
函館と札幌の間には内浦湾(噴火湾)があり、大きく迂回することになる。そこで、函館から森までは陸路、森から室蘭は定期便による水路、室蘭から札幌は再び陸路という道が考案された。

札幌本道

A)函館 ~ B)森 陸路
B)森 ~ C)室蘭 水路
C)室蘭 ~  D)札幌 陸路

札幌本道の開削工事は北海道開拓史上における一大事業だった。70万人以上の労働者が工事に携わり、着工からわずか1年3カ月後の明治6年(1873)に完成。これまでは充分な人道さえ少なかった北海道に、日本の他の地域にも類を見ない画期的な西洋式馬車道が誕生したのだ。

開削工事の様子(函館市中央図書館 所蔵)
開削工事の様子(函館市中央図書館 所蔵)

明治9年(1876)、明治天皇が北海道に行幸されたのを記念して、鐵太郎が中心となって、五稜郭に植えられていたアカマツの相当数を札幌本道沿いに移植した。その並木道が、現在の赤松街道である。

常緑針葉樹であるアカマツは寒さや乾燥に強く、厳しい自然環境の北海道に適していた。また、並木は防雪、防風、日除けになるほか、深い雪に覆われる北海道では、雪で道が分からなくなったときに道標の役割もする。この並木が多くの人を助けてきたことが想像できる。

鋤雲がアカマツの種子を育て始めてから160年以上。函館、および七飯町を長い間見守り続けてきた赤松街道のアカマツは、その美しさはもちろん、北海道開拓史、そして日本の近代道路史を象徴する街路樹として、地域住民に愛され、保存活動が行われている。

国道5号線にまつわるスポット

箱館戦争の舞台「五稜郭」

日本初の西洋式星形要塞で、慶応2年(1866)に箱館奉行所防衛のために建造された。箱館戦争の舞台となった場所である。大正3年(1914)から公園として一般開放されている。中央にある箱館奉行所は明治に解体されたが、2010年に復元された。当時の写真や文献資料をもとに、忠実に再現されている。赤松街道に植えられているアカマツはもともと五稜郭に植えられていたものが移植された。

雪に覆われた冬の五稜郭も幻想的だ。

五稜郭
住所:北海道函館市五稜郭町44
TEL:0138-31-5505(管理事務所)
営業時間:5~19時(11~3月は~18時)
定休日:なし
アクセス:道央自動車道大沼公園ICから車で約40分
駐車場:なし(函館市五稜郭観光駐車場(有料)を使用)
URL:https://www.hakodate-jts-kosya.jp/park/goryokaku/

※記事内のデータは2019年3月現在のものです。掲載後に料金、営業時間、定休日、メニュー等の内容が変更になることや、臨時休業等で利用できない場合があります。また、各種データを含めた掲載内容の正確性には万全を期しておりますが、おでかけの際には電話等で事前に確認・予約されることをお勧めいたします。

[ガズー編集部]

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