86を超えるAE86(ハチロク)を作れ!! 第4回 パーツ組み上げ編
スポーツカーの面白さ、楽しさを追及するためにカスタマイズ専門店と共同で「楽しい1台」をつくるというのがこの企画。
ベースとなるのは80年代FRスポーツを代表するトヨタのAE86(ハチロク)。発売から30年以上経っても今も愛されている理由を探しながら、「もっといいクルマ」を目指していく。
進化を止めないKMSサス2020バージョン
サスペンションはKMSのオリジナル品。むか~しむかしからオリジナルサスを開発し、販売しているKMSだが、ロット数を売り切ると、また違う仕様をテストして、進化した製品を販売することが日常。輿水代表が自分で乗っているともうちょっといろいろやりたくなってしまうらしい。
ということで、その最新バージョンであるのがこちら。バネレートはフロント8kg/mm リア5.5kg/mmで、減衰力は18段調整式である。
たしかにこの20年のチューニングカーの進化の中で、もっとも顕著なのがタイヤである。現在のハイグリップラジアルは普通に使えて雨でも不安なく走れ、なんの問題もないのに、ひと昔前のSタイヤ並みのグリップ力がある。20年前のレーシングタイヤに匹敵するグリップを持つモデルもあるだろう。それほどまでにタイヤが進化し続けているだけに、オリジナル仕様のサスも進化させていかなければ、マッチしなくなってしまうのである。
そして、足まわりではロアアームやスタビなどもリフレッシュ済み。サスペンションを支える部分こそ、しっかりしていなくてはダメ。人間で言うと、足首や膝、腰などを鍛えておかないと、太ももだけ鍛えても早く走れないようなイメージだ。
そんなサスペンションにもこだわりを持つ輿水さん。
輿水「サスペンションはかなりいい評価をいただいていて結構売れます」
加茂「手の掛かるレストアと違って経営的にはありがたいですね」
輿水「それが溶接から自分でやってるからそんなにつくれないです」
加茂「え、サスペンションってこのカタチでメーカーから来て、納品するだけじゃないんですか?」
輿水「全部ブラケットから作ってますよ、自分で…」
仕様を作り込んだダンパーはメーカーにて専用に組み上げたものが納品される。AE86のフロントサスはスピンドル方式で、いまどきのクルマとは異なる。円錐状に伸びた部分を専用に製作し、それとブラケットを溶接。その溶接したケースをダンパーにねじ込んでいく。このブラケットの溶接なども輿水代表が自ら行っている。パーツひとつでも自ら手で仕上げていくのが輿水さんのこだわりなのである。
ブレーキはシビック流用。他メーカーを使う理由は!?
ブレーキはAE86用の純正キャリパーの供給が終わってしまっている。加えてサーキットを楽しむとなると少し役不足な感もある。そこでビッグキャリパーキットを投入するのはいいが、バネ下が重くなるのは輿水さん的に理想とするAE86の走りとは異なってきてしまう。
また、強烈なストッピングパワーの6ポットなどを入れても、フロントブレーキばかりが効いてしまい、決して走りやすくはならない。
そこで選んだのが、HONDA EKシビック用キャリパーだ。他メーカーのブレーキというと違和感があるが、AE86ノーマルのような片押し1ポットで軽量ながらノーマルよりは若干大きなローターに対応でき、ジャストフィットなのだ。
リアブレーキもそれに合わせてチューニング。S13用を流用した大径ローターに、純正キャリパーをオフセットして使用。前後ブレーキバランスの最適化を図るとともに、リアブレーキは純正キャリパーを使うので、サイドブレーキもそのまま使用でき、車検の心配もない。
AE86はサイドブレーキがインナードラムではないので、アフター品のリアキャリパーにするとサイドブレーキがなくなったり、改造申請が必要になってしまったりするのだ。数多くの組み合わせを行ってきたからこそ見えた正解がEKという他社の流用キャリパーなのだ。
外装パーツは大人のドライカーボン化
パフォーマンスの向上にもっとも効果的なのは軽量化。軽さは加速にも減速にもコーナリングにも効く。そこで今回はルーフのドライカーボン化はこれまでにもお伝えした。さらにフロントフェンダーもドライカーボンにて製作。複雑な内部のツメなどの形状もノーマルフェンダー同様に再現し、極めて軽量な仕上がりとなる。形状はさりげないオーバーフェンダーとすることで、195/50/15サイズのタイヤを簡単に収め、ワイドトレッド化によるコーナリング性能のアップも期待できる。
純正パーツ新品をここぞと奮発!!
ドアの内張りには新品を使う。いつも触れる部分だけに一気に質感がアップ。また、注目しておきたいのがドア内部のビニール。
輿水「ノーマルのドアはこんな感じになってます。AE86の年式だとほぼ間違いなくこのビニールはボロボロ。そこでうちではビニールを買ってきて、純正のようなブチルで貼っています。見えない部分ですが、これをやっていないと冬場にドアノブのあたりから風が入ってきて寒いですよ~」
とオーナーならではのこだわりを持つ輿水さん。
クルマの要は電気パーツ
見えないうちに劣化しているのがモーター類やハーネス類。レポーター加茂のAE86も製造から25年を超えたころからセルモーター、オルタネーター、ワイパーモーターなどが順番に壊れた経験がある。
KMSでは今回AE92用セルモーターリビルド品と、同じくAE92寒冷地用オルタネーターのリビルド品を採用。
クルマの大動脈とも言えるメインハーネスは今回フルコンピューター制御に合わせて作り直した。ECUは「フリーダム」を採用。キャブレターで燃料は制御するので、ECUの役割は点火の制御のみ。シンプルかつトラブルが少ない「フリーダム」は近年生産終了してしまったが、AE86乗りから愛されるコンピュータでもある。
今回の取材で、クルマのカタチとしてはほぼ完成した。このあとは実際に走り出すためのシェイクダウンを行う予定だ。次回の連載ではエンジンの慣らしと徐々にエンジンを回してキャブレターのセッティングをしていく様子がお届けできると思う(最初にそこそこのセッティングは出せるが、やはり実走しながら詰めていく作業は必須!)。
最終的には「スポーツ性能のチェック」としてサーキットでのテストを予定しているという。ただ個人的にはただのテストだけではなく、「86を超えるAE86を作る」プロジェクトの集大成として、筑波サーキットコース2000にて現行86とタイムアタックを行ってほしい!と強く思っている。
30年前のクルマをベースに、サーキット専用車では無い街乗り仕様のクルマでも『現役』のクルマに勝てる!…そんなストーリーが実現できないだろうか?…と、今は夢見ている。
執筆:加茂 新
[ガズー編集部]
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