86を超えるAE86(ハチロク)を作れ!! 第5回 シェイクダウン編

スポーツカーの面白さ、楽しさを追及するためにカスタマイズ専門店と共同で「楽しい1台」をつくるというのがこの企画。
ベースとなるのは80年代FRスポーツを代表するトヨタのAE86(ハチロク)。発売から30年以上経っても今も愛されている理由を探しながら、「もっといいクルマ」を目指していく。

いよいよ完成!86を超えるハチロクに向けた最終仕上げ!!

これまでこだわりのボディメイクやエンジン製作をお届けしてきたが、ついに今回シェイクダウンを迎える事ができた。
ハチロクを専門にカスタマイズし、時にはレースカーの製作や自身でレースにも参戦するコシミズモータースポーツ(KMS)輿水好則代表が作り上げた珠玉の1台。もちろん代表自らステアリングを握り、理想とするスポーツカーを目指した最終調整=セッティングに取り掛かる。場所はKMSのホームコース、筑波サーキット2000。ハチロクは「自分で操っている」感が高いのが魅力、と輿水さんは語る。今回のクルマ作りを通してどんな乗り味を得たのか?

シェイクダウンに先駆けて車検を取得したハチロク。陸運局にて車重を計測することに。その結果は860kg!!
通常ナンバー付きのハチロクは970~1,000kgくらいが標準的な重量。今回のハチロクはエアコンまで装備して860kgということはその軽さが際立つ。約100kgもの軽さに効いた最大の要因はやはりカーボンパーツだろう。

KMSにて今後市販予定のドライカーボン製ルーフ、ボンネット、リアゲート。その3点だけでも約30kgは軽量に仕上げられる。加えてフロントフェンダーもドライカーボンで製作し、これらで約5kg。カーボンパーツでおよそ35kgもの軽量化が可能になったと思われる。
その他、地道なアンダーコートの除去、2名乗車への定員の変更に伴う、リアシートまわりの撤去、さらにクルマはさまざまな信号をハーネス(電気配線)で車両各部に伝えているが、このハーネスを最小限必要な分だけの配線にして新規製作。わずかではあるがここでも数kgの軽量化。こうした細かな積み重ねも加えて、全体で100kgもの軽さを生み出したのだ。

「僕が主催している『グループAプラス』というハチロクの草レースではレギュレーションで830kgに統一しています。でも、それはナンバーなしの車両でもちろんエアコンもなし。それと遜色ないレベルの軽さを街乗りできるナンバー付き車両でつくったことは僕もありません。これはハンドリングが相当楽しみです」と、ワクワクした様子で語る輿水さん。

  • 今回のために開発したドライカーボン製パーツの数々。リアリアゲートリッドごとカーボン化して軽量化。あまりの軽さに純正ダンパーで開けると「バンッ」と跳ね上がってしまうほど軽い。
    今回のために開発したドライカーボン製パーツの数々。リアリアゲートリッドごとカーボン化して軽量化。あまりの軽さに純正ダンパーで開けると「バンッ」と跳ね上がってしまうほど軽い。
  • 室内は基本的にいわゆるドンガラ状態。シートは両脚ともにレカロのカーボン製フルバケットシートであるRMS 2600Aを装着。
    室内は基本的にいわゆるドンガラ状態。シートは両脚ともにレカロのカーボン製フルバケットシートであるRMS 2600Aを装着。

まずはエンジンの慣らし運転とキャブセッティングから

12月某日、筑波サーキットでついにシェイクダウンの日がやってきた。
エンジンの慣らし運転と、キャブレターのセッティングを調整しつつ、ハンドリングを確認する。

通常エンジンの慣らし運転はKMSでは1500kmほど最高回転数を抑えつつ走行。オイル交換は500kmと1500km時に行うようなイメージで、1500km超えてからコンピュータのセッティングなどをしていく。
今回はサーキットスペックのエンジンということで、慣らし運転もレースカー同様にサーキットで行うという。

まずはお店でアイドリングしてエンジン内部を慣らしていく。これは慣らしというよりも「ラッピング」と言われる動作確認であり、本当の初期のアタリ付けを行う。そのあとはサーキット内で負荷を抑えながら30分の走行を2回ほど繰り返しオイルを交換。エンジン内部に発生した金属粉などを取り除いて、徐々に回していく。

今回は燃料供給装置にはキャブレターを使用する。古いクルマはキャブレターというイメージがあるが、当時の最新メカニズムが満載だったハチロク。ノーマルでインジェクション制御、当時で言うEFI(電子制御燃料噴射)を採用していたのだ。しかし、今回はあえてキャブレターを採用。ドライバーがダイレクトにワイヤーでスロットルを開け、エンジンが空気を吸い込み、その負圧でガソリンも吸い込む。極めてシンプルで原始的なシステムであるからこそ、インジェクションにはないダイレクトなフィーリングが魅力なのだ。

使用するのはケーヒン・FCRキャブ。レーシングキャブレターとしては後発で、有名なソレックスやウェーバーなどのキャブレターに比べれば新しいモデルだ。
「バルブがバタフライ式ではなく、スライド式なのがポイントです。バタフライ式は全開でもその中心にバルブが残りますが、スライド式は完全に邪魔をしなくなります。その流速の高さから生まれるレスポンスとパワーにはたまらないものがあります。しっかりとセッティングすれば通年で普通に乗れますし、その右足とエンジンがシンクロするダイレクトなフィーリングはインジェクションにはない魅力があります」
輿水さんはキャブレター推奨派というわけではないが、キャブにはキャブなりの魅力と楽しみ方があり、それを追求するのもひとつの楽しみ方だという。

  • バイクの世界ではメジャーなFCRキャブレター。某バイクメーカーのワークスマシンがmotoGP参戦時にFCRのボディをベースにインジェクション化して使っていたというほどドライバビリティの高さが魅力。
    バイクの世界ではメジャーなFCRキャブレター。某バイクメーカーのワークスマシンがmotoGP参戦時にFCRのボディをベースにインジェクション化して使っていたというほどドライバビリティの高さが魅力。
  • インジェクションと異なり燃料に圧力を掛ける必要がない。しかし、ある程度のガソリンをフロート室に供給し続ける必要はあるため、ごくごく低い燃圧にコントロールされる。
    インジェクションと異なり燃料に圧力を掛ける必要がない。しかし、ある程度のガソリンをフロート室に供給し続ける必要はあるため、ごくごく低い燃圧にコントロールされる。

エンジンが空気を吸い込む負圧でガソリンを吸い出して霧化させ、その混合気を燃焼させるのがキャブレター。エンジン始動ひとつにもコツがいる。冷間時の始動にはガソリン混合気を濃くするのが一般的だが、FCRキャブレターの場合、そういった制御がない。そこでエンジン始動前には3~4回ほどアクセルを開閉する。すると加速時にガソリン不足を補うための「加速ポンプ」から燃焼室に向けて水鉄砲のようにガソリンが噴射される。その噴射したガソリンによって濃い目の混合気を自ら作り出し、それでエンジンを始動させる。その独特の「儀式」だが、エンジンが温まっていれば不要。逆にプラグを湿らせてしまい始動を邪魔することもある。

すなわち、出先でエンジンを掛けるときは「今はまだエンジン温まってる? いや、もう冷えてるから儀式必要?」なんて思いを巡らせながらエンジンを始動させることになる。そんなひとつひとつのやり取りさえ、クルマと心を通わせる必要があるのだ。

際立つ軽さと鋭いハンドリングに輿水代表でさえ微笑む

輿水さんが主催するレースでは、今回製作したハチロクとほぼ同じ重量・仕様の車両に「Sタイヤ」を使用するという。しかしSタイヤは基本的にサーキット専用品で、街乗りもできるがそのライフの短さ=グリップの高さは比例していて、普段から使うのは現実的ではない。というわけで今回のハチロクにはハイグリップラジアルであるDUNLOP DIREZZA ZⅢ(195/50R15)をチョイス。
「ここまで軽いナンバー付きのハチロクはほとんど経験がない」という輿水さん。同時に、軽量・ハイパワーのハチロクをハイグリップラジアルで走らせたこともほとんどないという。

自身もレース活動をしていて、現在もサーキットを走り込む輿水代表。シェイクダウンはKMSの目の前の筑波サーキットで行われた
自身もレース活動をしていて、現在もサーキットを走り込む輿水代表。シェイクダウンはKMSの目の前の筑波サーキットで行われた

サーキット走行を終えた直後の輿水さんは「相当刺激的です。いやぁ~ほんとハチロクっていいよね。これこそハチロクだよね!」と興奮気味に語る。

「車重の軽さに対して、元気なエンジン。そこにSタイヤに比べてローグリップなタイヤの組み合わせで、いたるところでオーバーステアに持ち込める。これこそFR車の醍醐味で、リア駆動だからこそ味わえるハンドリングを満喫できます。ルーフの軽さからくる運動性能の高さも感じられる。あまりに運動性能に高く、筑波の最終コーナーは慣性でテールスライドが起きるほどの速度で旋回できます。これこそハチロクの醍醐味を味わえると思います。やはり軽さからくるドライブフィールは格別です。これだけは現代のクルマになし得ないことだと思います。」
輿水さん自身も興奮に包まれたまま、シェイクダウンとセッティングは無事終了した。

軽量な車体にパンチがあるエンジンを、感性とリンクするキャブレターで制御。ハチロクの持つ『操っている感』がより際立つ一台として完成した。現代の86が持つ速さや快適さももちろん魅力だが、今回製作したハチロクは、そのダイレクトさや、ドライバーとの一体感など、スポーツカーとしての魅力は全く負けていないと思う。そしてスポーツカーの楽しさとは根源的なものであり、時代に左右されないものなのだ。

そして、なんと今週末に開催される『東京オートサロン2020』にGAZOO編集部が追いかけたハチロクが展示されることが決定した!!場所はTOYOTA GAZOO Racingブース!
その模様は追ってレポートとなるが、ぜひ1月10~12日は幕張メッセの会場で完成したハチロクを見てもらいたい!!

執筆:加茂 新

スペック:AE86 3Dr LEVIN S61年式 GT-APEX

車重 860kg
エンジン AE92後期ベース 吸排気ポート加工、高圧縮比化
カム TODA IN288°/EX288°
ピストン TODA鍛造
クランク AE92ノーマル ダイナミックバランス加工済み
コンロッド AE92ノーマル
コンロッドボルト ARP
ECU FREEDUM
燃料供給装置 KEIHIN FCR
冷却ファン 電動化
ラジエーター KOYO
オイルクーラー KMSオリジナル
エキマニ KMSオリジナル
キャタライザー ノーマル
マフラー KMSオリジナル
エアクリーナー RAM AIR
プラグコード TRD
タイヤ DUNLOP DIREZZA ZⅢ F&R195/50R15
ホイール WATANABE F&R 15✕8.0J 0
ブレーキ F EK4キャリパー&ローター R ノーマル(S13ローター流用)
ブレーキマスター EP82流用
サスペンション KMSオリジナル
バネレート F 8kg/mm R 5.5kg/mm
ボンネット KMSオリジナルドライカーボン
リアゲート KMSオリジナルドライカーボン
ルーフ KMSオリジナルドライカーボン
フロントフェンダー KMSオリジナルドライカーボン
ロールバー KMSオリジナル
ボディ補強 KMSスポット補強
エアコン R134aレトロフィット済み
シート RECARO 2600A

※上記はシェイクダウン時のスペックとなります

[ガズー編集部]

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