漫画「サーキットの狼」の作者 “池沢早人師” に聞いたクルマの魅力
スーパーカー漫画の代表作「サーキットの狼」の作者 池沢早人師(さとし)先生にインタビューをしてきました!クルマ漫画のパイオニアとも呼べる大先生です!
プロフィール
漫画家 池沢早人師(いけざわさとし)
高校時代に「怪童のひびき」で週刊少年ジャンプの新人佳作賞を受賞し、漫画家としてデビュー。代表作に「サーキットの狼」「サーキットの狼II モデナの剣」「あらし!三匹」など。10月4日に初となる小説「三流レーサー」を発表。
フェアレディZの衝撃が、池沢先生をクルマの世界へ!
―漫画家になろうと思ったキッカケは?
物心がついたときから漫画家になろうと決めていたから、あまり覚えていないよ。小学生の頃にはサインとペンネームも用意していたくらい(笑)。横山光輝さんや武内つなよしさんに憧れて、中学・高校生時代もずっと漫画漬け。雑誌で公募を見つけては送って、見つけては送って、その繰り返しだった。
―では、クルマに興味を持ったのはいつ頃でしたか?
クルマとの出会いは、忘れもしない漫画家として駈け出した20歳の頃。当時住んでいたアパートの隣に、改造した日産の「フェアレディZ」があって、ワイドタイヤを履き、車高を落として……、その姿が強烈にカッコよかった!それで「こういうクルマに俺も乗りたい」と思ったんだよね。
―初めて乗ったクルマは何でしたか?
免許を取って最初に買ったのはトヨタの「コロナ」。それから1年も経たないうちに「フェアレディZ」を買い、白と赤のツートーンにするなど「大改造」も行ったよ。3台目がトヨタの「2000GT」。4台目にロータスの「ヨーロッパ」を購入し、その時にちょうど「サーキットの狼」が連載スタート。当時24歳、忘れもしない青春の日々だった。
2009年に漫画家40周年を迎えた池沢早人師氏。代表作にスーパーカーブームを引き起こした「サーキットの狼」など。
1970年代後半スーパーカーブームに火をつけた「サーキットの狼」
―「サーキットの狼」の構想はどこから?
実は、漫画家になりたいという夢の他にもう一つ夢があって……、「レーサー」になりたかったんだ。クルマが好きになって、週末は公道を走りに出るようになって、当時「池沢は速い」とちょっとした噂になっていた。
―素朴な疑問ですが、「速い」というのは危険では……?
大声じゃ言えない日々だったかもね(笑)。「いつ死ぬかわからない」そんな覚悟だったから、走りに行く時は、必ず新品の下着を身に付けるようにしていたよ。
実際「サーキットの狼」は、前半から中盤くらいまではほとんど僕の経験がネタなんです。公道で「すごい速い奴がいる」と噂になっていた主人公が、腕を認められてレーサーになり、最後はF1で活躍するといったサクセスストーリーを描きたかった。「サーキットの狼」では、まさにその構想の通り、主人公の風吹裕矢(ふぶき ゆうや)が、日本人で初めてF1で優勝するまでを描いています。
―1975年に「サーキットの狼」連載スタート。1970年代後半のスーパーカーブームは実感しました?
率直に言えば実感しました。その頃3つほどグループに所属していて、週末はほぼ走っていた。すると、ギャラリーが増えていくのがわかるの。環八(環状八号線)、東名(東名高速道路)、青山通り、高速のSAなど、いたるところで増えていった。子どもたちまでカメラを構え始めて。マスコミに取り上げられて話題になる前から、現場レベルでは徐々にブームが来ていることを、走りながら感じていたね。そう思うと、漫画が持つパワーってすごいよね。
青春時代を振り返り、とても楽しそうに話す池沢先生。漫画を読むだけでは知ることができなかったエピソードを聞くことができました!
乗った実車は延べ70台以上!現在はポルシェ・カレラSなど!
―作品にはランボルギーニ・ミウラなど希少なクルマが多数登場しました。取材で全国、さらには海外も行ったのでは?
そう思うでしょ?ところが、仲間や知り合いが自然と集まって来て、自分の生活圏に希少なスポーツカーが大集合(笑)。まさに日常が「サーキットの狼」そのもので、「遊び=取材」にもなっていた。だからクルマを描くのに苦労はなかったね。あと、周りから「自分のクルマを漫画に出してくれ」というリクエストも多かった。端役で登場させて、ナンバーを書いてあげたり、池に落としてクラッシュさせてあげたり(笑)。
―ずばり、スポーツカーの魅力は?
見た目がカッコいいのは当然だけど、それ以上の魅力が「自然と仲間が集まってくる」こと。普段の生活では知り合えない人同士がつながりあえる。きっと通じ合えるものがあるんだよね。スーパーカーの最大のオプションは「出会い」です。
―これまでに何台のクルマに乗ってきたんでしょう?
たしか、70台以上だったと思う。多い時は同時に5台を所有。欲しいクルマが登場するのがいけない(笑)。2輪も持っていたから乗り切れないよね。1週間は7日あるから7台までいけると思ったんだけど(笑)。
―本当にクルマがお好きなんですね。
クルマの持つ性能を引き出すのが僕の楽しみ。だから、70年代後半からサーキットでもデビューしていたし、クルマとの付き合いは長いなぁ。
過去に全損事故を起こしたことがあったのだけど、奇跡的にかすり傷すらつかなかった。このとき「まだ自分にはやるべきことがあるんだな」と、生かされている気分になった。鈴鹿の130R(鈴鹿サーキットにある超高速コーナ)でスピンして、クルマが宙を飛んで、屋根から落ちたこともあった。あの時は半日くらい意識がなかった。それでもクルマへの気持ちは冷めなかったな。それぐらい、クルマが好き。僕とクルマは切っても切れない関係です。
現在の愛車はポルシェの「カレラS」。来年にはBMWの「アルピナ」を購入予定。基本的に、趣味や移動用など目的に合わせてクルマを使い分けているそう。
次の情熱は小説へ。「書くことが楽しくてたまらない!」
―これから乗ってみたいクルマはありますか?
日産のスカイラインGT-R、ホンダのNSXなど。気になったクルマは買うタイプ。だけど、さすがに買えなかったのは「レクサス・LFA」。これもいいよね。僕はポルシェ・カレラGTのエンジン音がすべてのクルマの中で一番だと思っているけど、レクサス・LFAは、カレラGTと同じV10エンジンを搭載している。「さすがトヨタさん、よくわかってる」と思った(笑)。
―今後の目標を教えてください。
実は、2年前から小説が書きたくなり、執筆活動をスタートしました。今は朝起きて暗くなるまで十時間以上も小説を書き続ける、それが楽しくてたまらない。寝る時に「明日起きて続きを書くのが楽しみ」と思えるなんて幸せでしょ?これって漫画家を目指して夢中になって四六時中描いていた頃と全く同じ。作品作りの情熱が今の僕の原動力だね。
今月10月上旬に、集英社から「三流レーサー」という小説が出版されました。ぜひ読んでみてほしい作品です。
―最後に読者へメッセージをお願いします。
20歳まではクルマにまったく興味がなかった僕が、クルマと運命的に出会って、人生が変わった。クルマって不思議なエネルギーを持っていて、一人で走ると気持ちがリセットできるし、悩みだって忘れさせてくれることもあると思います。
だから「もっとクルマと付き合ってみれば?」と言いたい。クルマは良き相談相手であり仲間。それでいて最高なのは「裏切らない」ということ。クルマはアナタを裏切りません。それは僕が誰よりも知っていますから。
―池沢先生、貴重なお話ありがとうございました!
2013年10月4日に集英社から出版された「三流レーサー」。池沢早人師先生の小説家としてのデビュー作です。イラストはシヒラ竜也さんが担当。
(ライター:初野正和)
(取材協力:アニメディア・ドット・コム)
[ガズー編集部]
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