漫画「逮捕しちゃうぞ」の作者 “藤島康介” に聞いたクルマの魅力

毎回マニアックなバイクやクルマが数多く登場する『逮捕しちゃうぞ』の作者、藤島康介先生。プラモデル、水槽、クラシックカメラなど、数多くの趣味を持つ藤島先生に、クルマへのこだわりをたっぷりとうかがいました!

漫画家・イラストレーター 藤島康介(ふじしま こうすけ)
PROFILE/
1964年7月7日生まれ。東京都出身。漫画雑誌『ぱふ』の編集者を経て22歳で漫画家デビューし、雑誌『モーニングパーティー増刊』に『逮捕しちゃうぞ』を連載開始。1988年、24歳の時に雑誌月刊『アフタヌーン』にて『ああっ女神さまっ』を連載開始。いずれも大ヒットを記録し、アニメ化・映画化された。また、『サクラ大戦』『テイルズ オブ シリーズ』などゲーム・アニメ作品のキャラクターデザインやイラストも担当。2008年連載開始の『パラダイスレジデンス』を経て、2016年5月より『アフタヌーン』で新作漫画の連載スタート予定。

漫画家を目指した理由

藤島先生の愛車は、6年前に購入したフィアットのアバルト1000TCR。フィアット600をベースに、レース用にチューンナップされたモデルだ。「60年代後半~70年代に流行ったクルマです。当時は結構なスピードがでてたんじゃないかな。今はそんなに出せないし、私も出したくないですね。高速で100km出しただけで怖いです」

―子供の頃はどんな少年でしたか?


両親が共働きで家にいなかったので「これでお昼を買いなさい」って、お金をちょっと置いて出て行っちゃう。そのお金でよく漫画を買ってたんです。影響を受けたのは松本零士先生。『銀河鉄道999』を読んで、メーテルの表紙があまりにも可愛くて衝撃を受けました。もちろんメカニック的な部分も好きでしたが。


―非常に多趣味で知られますが、そのキャラクターは子供の頃に形成されたのでしょうか?


おもちゃはあんまり買ってもらえなかったので、任天堂のN&Bブロックとかで遊んでました。LEGOは高かったので。任天堂は割と雑なブロックなので、工夫しまくってました。プラモデルも粉々になるまで遊びまくりました。改造したり、部品取りにしたり。「もっとカッコよくしたい」っていつも思っていました。クルマのプラモデルに色を塗ろうと思って車用の塗装スプレーを塗ったら、溶けたこともあります(笑)。

プラモデルは今でも大好きで、クルマ系、ミリタリー系、フィギア系、お城系とか、手を出していないジャンルはないです。スーパーカー世代だったのでクルマも大好きでしたが、小学校3年から高校まで千葉にいたんで、見られなかったんですよ。友達がどこかで撮ってきたランチア・ストラトスの写真を大事に持っていましたね。


―漫画家になったきっかけとは?


高校を卒業して、漫画家のアシスタントを受けたんですが受からなくて。漫画雑誌の『ぱふ』(雑草社)のインターンに応募して、18歳で編集者になりました。漫画業界自体も景気がよかったし、身の回りに漫画家さんがいっぱいいたのでいい環境でした。でも漫画が描きたかったので、扉絵とかを勝手に描いていました(笑)。


―その後、江川達也先生のアシスタントになられたんですね?


もの凄くタメになりましたね。江川先生は教員免許持っているので、教えるのが上手いし。『BE FREE!』の最初の時期にアシスタントで入っているんです。当時はリアルなタッチで可愛い女の子を描く人がいなかったので、先生がデビューしたときは衝撃でしたね。そのタッチでギャグもやるし、シリアスもやるし。

あの時代で自分の作風も相当変わりました。背景の描き方とかも全部論理的に教えてくれたので、逆に人にも教えられるんですよ。

レース仕様のため、バンパーが取り外され、フロントグリルがラジエーターになっている
ボンネットの下はトランクと、ガソリンタンク。むき出し状態のままだ
風圧でバタつかないように、ワイパーは折りたためない仕様になっている

バイクと漫画の素敵な関係

美人婦人警官のコンビが主人公の、コメディー作品。バイクやミニパトなど、メカやエンジンのリアルな描写に評価が高い。作中に登場したモトコンポは、本作の影響で中古市場で高値になった

―24歳で連載を開始した『逮捕しちゃうぞ』ではバイクがたくさん出てきますが、初めて乗ったバイクは?


ホンダのMB50でした。その後はヤマハのRZ250。主人公の夏美が乗ってたバイクです。自分が乗っているバイクが一番描きやすいので。特にオートバイやクルマは機能パーツの集まりなので、細かい部分がよくわからないとイヤなんですよ。その後は、スズキのGSX-R1100。『逮捕しちゃうぞ』の印税が出たときに、現金で買いました。

実は限定解除の試験(※現在は大型二輪免許)を受けた時、免停中だったんです。免停中にオートバイに乗れるのは限定解除の試験だ、と思って2ヶ月くらい教習場に通いました。でも、免停があけないと試験が受けられない(笑)。で、免許を取ったタイミングで、印税が出たんです。


―『逮捕しちゃうぞ』でモトコンポが登場しますが、なぜホンダ・シティではなく、トゥデイに載せたんでしょうか?


シティはミニパトじゃないんで。ちゃんとミニパトでやりたかったんです。厳密にいうと2cmくらい入らないんですけど、そこは漫画ってことで。モトコンポも乗ってみると、「あーダメだ」って思いますよ。40kmしか出ないけど、猛烈におっかないんですよ。クルマにバンバン抜かれるんで、怖いんです。

ただ、クルマにオートバイを積もうと思って、商品化しちゃった当時のホンダは凄い。よくそんなバカなことを思いついて実行したな、と。その姿勢は大好きですね。


―『ああっ女神さまっ』に登場したクラウザー・ドマニは、この漫画でその存在を知ったという読者も多かったようですね。


まず見た目がおかしい(笑)。後ろから見ると凄く変なんですよね。雑誌かなんかで知って、高円寺まで見に行って、その場で購入しました。今も持っていますよ。実は、サイドカーに乗った人ならわかるけど、すごく乗りやすいんです。普通のサイドカーは常に反対側にカウンター入力をかけなきゃ運転できないんですけど、あれはそもそもサイドカーとして作られているので、非常にバランスがいいんです。


―そういえば、主人公はBMWのサイドカーに乗ってましたね。


あれは、女神様をどこかに連れて行くとき、サイドカーだったら正面から2人の顔が見えるという理由でサイドカーにしたんです。「爺ちゃんが譲ってくれた」という設定で。ただ、実際に乗ってみるとBMWは改造することを一切許さないというか、何か手を加えると、必ず問題が起こるんです。昔のは色々出来たんですが現代のBMWはウィンカー変えただけでも調子がおかしくなっちゃう。


―漫画家として、女の子と乗り物を描いているとき、どっちが楽しいですか?


どっちもどっちかな。柔らかいのと硬いの、みたいな。そのコントラストでバランスを取るのがいいんだと思います。

エンジンも潔くむき出し。「納車されたときはレーサー仕様のままだったので、スターター用のプラグをつけてエンジンが温まったら、エンジンを一回止めて、走る用のプラグに変えないと走れなかったんです。今はプラグを変えたけど、2分に1回くらいフカさないとカブっちゃう」とのこと
フロントとリアのフェンダーは後付け。塗装もやり直されている
目をキラキラさせてクルマを語る藤島先生。生粋の「クルマ好き」らしさが印象的でした

愛車遍歴と、これから欲しいクルマ

―ついバイクの話を聞き過ぎてしまいました(笑)。先生が、今まで乗ったクルマを教えて下さい。


最初に買ったのは日産シルビアのS13型。当時25歳くらいでした。都内は駐車場が高いから『ああっ女神さまっ』の連載が始まってからですね。その後はポルシェ964かなあ。ポルシェのターボも乗ったけど、強烈でしたね。めっちゃ楽しかった。でもクラッチレスシステムがあんまりにもトラブるんで、イヤになっちゃいました。


一時期、フィアットのムルティプラって変なクルマも乗っていました。ターボもない1600だけど、楽しかったですよ。鏡餅みたいなデザインで、マニュアルなのに前に3人乗れるんです。

一番好きだったクルマはアルファロメオの147GTAかな。3.2リッターでNAのクルマはそうそう無いですからね。


―現在乗っているクルマは?


(今日乗ってきた)フィアットのアバルト1000TCRと、ルノーのRSターボです。フェラーリの308を買ったんですけど、買った途端に上手く動かなくなって、もう3年。お金は払ったのに、納車もされない(笑)。「部品が足りないけど、仕上げるから買ってくれる?」って買ったけど納車されず、8年位待っているクルマもあります。アメ車は乗ったことがなくて、ヨーロッパ車が多いです。わりと外車ばっかりですね。


―これから欲しいクルマはありますか?


あるんだけど、もう置けないので。諸条件を考えないなら、マツダのロードスターに乗りたいかな。今回のロードスターはかなりカッコイイ。US版だと排気量が2000ccあるみたいなので。でも入ってこないんですよね。

そういえばこの間、パトレイバーにも登場した、フェレットって装甲車が800〜900万くらいでヤフオクに出てました。欲しかったんですけど、ウチの角が曲がれなさそうなのでやめました。軍用車は1回乗ってみたいです。


―藤島先生が、クルマに求めることとは?


楽しいこと。操作感というか、ダイレクトさがあるのが一番好き。「そのクルマにそんなエンジン積んじゃダメ!」っていう、無茶していてバランスの悪いクルマが好きですね。ある程度馬力が出ないとイヤなので、どこにいっちゃうかわからないくらいのパワーが欲しい。今のクルマの快適さも嫌いじゃないし、古いクルマに乗っていると、今のクルマってよくできてるな、って思いますね。壊れる気がしない(笑)。


―藤島先生、貴重なお話ありがとうございました!


(写真:梶山真人 テキスト:渡邊智昭)
(取材協力:藤島康介)


[ガズー編集部]

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