【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第1話#10

第1話「セルシオ盗難事件を調査せよ!」

2nd マークX、千葉へ走る。
#10

周藤の運転するマークXが来た道を引き返していく。
「今日はこのまま帰るのですか」
「いや、ちょっと挨拶に寄るところがある」
どこに、なのかは教えてくれないようだ。
「今後は調査対象者に会う予定はあるのですか」
「それは、わからん……。調査次第で、会うことになるかもしれないな」
国道6号線の水戸街道に出てから、来た道を逆走していく。
いったいどこにいくのだろう。
16号線と交わる「呼塚」交差点を野田方向に進行する。信号のひとつ目「柏警察署入り口」交差点を左折すると到着したのは、千葉県警の柏警察署だった。
施設は大きく、駐車場のスペースもかなり広い。このへんが都心の警察署とは大きく異なっているところだ。
「大きい警察署ですね」
思わず声を上げてしまった。
「ここは千葉県警第三方面の代表警察署だ。署員は300人以上いる」
車を降りると、周藤の背中を追いかける。施設に入ると、階段を上っていき、交通課に辿り着いた。
会社の座学研修で、周藤から警察組織に関する講義があった。嫌々そうに始めたけれど、ホワイトボードも使って、けっこうわかりやすく説明してくれ
警視庁及び道府県警察本部には「交通部」が設置され、その下に警察各署に設置される「交通課」が位置する。交通課は総務、規制、執行、捜査の4つの係りにわかれる。総務係は交通安全意識の普及、浸透を目的にし、規制係は各種交通規制などを扱う。執行係は危険運転者に対する取り締まりなどを行い、捜査係は交通事故、事件の捜査を担当する。
柏警察署は建物がけっこう新しくて開放感があるということもあって、「普段接しない別世界」という印象は受けなかった。制服を身にまとう職員は、みんなどこにでもいる優しそうな人ばかりに見える。
周藤が受付の若い事務員の婦警に声をかける。誠実で真面目そうなこの女性は、きっと自分と歳が近いはずだ。やはり、警察の制服は格好がいいし、よく似合っている。話しかけたいし、友達になりたい。
彼女がどこかに内線をかけた。
周藤がベンチに腰掛けたので、わたしもその隣に移動した。
「こちらの警察署に、お知り合いがいるんですか」
「ああ、行儀よくしておけよ」
警察官と友達になりたいとか思っている場合じゃないか……。今の気持ちを周藤に見透かされたような気がした。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]