【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第1話#12

第1話「セルシオ盗難事件を調査せよ!」

2nd マークX、千葉へ走る。
#12

「実はいま調査をしているのが、こういう案件なんです」
周藤がファイルを見せると、秋本は興味深そうに見入った。
「ああ、このセルシオの盗難事件ね」
何かを思い出したような秋本に周藤が切り込んだ。
「どの程度、調べられたんですか」
秋本が渋い顔をした。恐らく、徹底的には調べ切れていないのだろう。
「盗難は、今回で2回目らしいですね」
周藤が冷たい口調で続け、秋本の表情がさらに険しくなった。沈黙が流れる。
「うちももちろん、怪しいとは思っていたわけさ。でも、ごっそり持っていかれて、監視カメラの記録もないんじゃ、調べようにも証拠がなくてね」
「ご近所の監視カメラのデータは調べたのですか」
秋本の語気が強まる。
「そりゃもちろん調べたさ。でも、あの家の駐車場は死角になっていてね。手がかりはさっぱり出てこなかった。さぼっていると思われたら困るよ。うちは駐車監視員制度も使って頑張っているんだから」
温厚だった秋本が不機嫌になった。
「ええ、それはもちろん存じ上げています」
心配になって、つい、わたしも口を挟んでしまった。
確かに柏警察署では、駐車監視員を採用している。警察署長の委託を受けた法人の下で、地域を巡回し、放置車両の確認や確認標章の取り付けなどを行う人のことだ。
柏駅や北柏駅、南柏駅、柏の葉キャンパス駅、増尾駅などで監視を行い、その結果、被害は着実に減ってきているという。
それでも、周藤は突き放すように鋭く質問を投げかけた。
「今回も前回も、イモビライザーもオートアラームもついていたのに、車が1台夜中に消えてしまったんです。怪しいとは思いませんでしたか」
秋本は重い口を開いた。
「我々もね、一件一件、念入りに調査したいところだけど……。正直、こういった微妙な案件は動きにくいのが実情でね」
もちろん、優先順位があるのだろう。この案件は殺人事件や傷害事件に発展した訳でもないし、ほとんど手がかりがないのだ。
「忙しいところすみませんが、念のため、この2人の犯罪歴を調べて教えていただけますか」
「わかったよ。周藤さんの頼みじゃ断りきれないからな」
ゆっくりと警察署を出る周藤の背中を見ながら、「うちの社長がこの男をほしがった理由がよくわかったな」と思った。
松井社長は、相当な額の報酬をぶら下げて周藤を口説き落としたそうだ。確かに、この男にはそれだけの価値があるのかもしれない。でも、お金だけで動くような人間なのだろうか。なぜ、警察を辞めたのだろう。ほかになにか、別の理由があったのかもしれない。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]