【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第1話#21

第1話「セルシオ盗難事件を調査せよ!」

4th ミキ、調査する。
#21

​慌ててパチンコ店を出ると、すぐに笠松由佳の背中を見つけられた。危なかった……。
彼女はショッピングセンターに入っていった。夕食の材料でも買うのだろうか。
パチンコをしている写真は無事に撮影することができた。でも、彼女が自動車盗難に関与していたことを証明するものではない。どうすればいいのだろうか。
そんなことを考えながらふと前を見ると、彼女がいない。また見失った!
慌てて駆け出していた。ぺたんこ靴を履いていて良かった、と思う。階段を駆け降りる。次のフロアに出たところで、仁王立ちの由佳と鉢合わせた。焦って踵を返そうとする。
「ちょっと、ちょっと、あんた」
激しい口調で呼び止められ、つい動揺してしまう。
「な、なんですか」
「あんたでしょ。わたしたちのことをこそこそ嗅ぎまわっているのは」
睨みつけられる。とてもこのまま解放してくれるような雰囲気ではない。
「なんなの、いったい。ストーカー?」
「ち、違います。わたしは怪しいものじゃありません」
「なに言ってんのよ、めちゃくちゃ怪しいわよ!」
彼女の激しい口調に気が付いて、若い男性警備員がやってきた。
「どうかされましたか」
「この人、わたしのストーカーをしていたんです。警察を呼んでください」
「いえ、違うんです、わたしはストーカーじゃありません」
警備員は少し戸惑っている様子だ。
「はやく警察を呼んで。逃げられるわよ」
「とりあえず、こちらに来てください」
事務所に向かう途中で、由佳が携帯電話から110番した。やがて、警察官が2人やってきた。
「この人、わたしのストーカーなんです!」
またストーカー呼ばわりされるが、警察官ならわかってくれるはずだ。ストーカー行為とは、恋愛感情などの好意感情によるつきまとい等を繰り返すこと、または好意感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情から行われるつきまとい等を繰り返すことを指す。わたしはとりあえず、由佳のストーカーではない。
結局、一緒に近くの交番に行くことになった。
身分証を提示して事情を説明する。
「わたしたちは、車を盗まれた被害者なんですよ!」
「奥さん、少し落ち着いてくださいね」と、若い警察官がたしなめる。
「わたしはただ、保険金の請求に不正がないか調べていただけなんです。誤解を招いて申し訳ありません」
「ちょっと、あんた。いったい何が不正だって言うのよ」
由佳はひたすら激高し続けていた。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]