【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第1話#22

第1話「セルシオ盗難事件を調査せよ!」

4th ミキ、調査する。
#22

​わたしが勤務する総合保険調査会社「インスペクション」は、公安委員会から探偵業届出証明書を交付されている。探偵業を営むには、警察署を通じて公安委員会への届出が必須となっているのだ。
聞き込みや尾行、張り込みなどは、探偵業務の範囲内だと規定されている。
もちろん、調査対象者の自宅に不法侵入するなどの違法行為は許されない。
しかし、わたしはあくまでも業務の範囲内で今日まで調査を行ってきたのだ。なにもやましいことはない。
ただ、法的に問題あるなしというより、調査対象者にバレてしまっては探偵失格と言わざるを得ない……。
対象者と、依頼主である保険会社の信頼関係に悪影響を及ぼしてしまう可能性が高いからだ。
わたしの行為の正当性については、警察官がしっかり説明してくれたようだ。おそらく、彼女はもうだいぶ前に、自宅に帰ったはず。
わたしは警察官から咎められることもなく、ただただ同情された。きっと新米の探偵はよくこういう事態に陥るのだろう。
なんとも情けない……。
そのまま椅子に座っていた。
入口に馴染みの顔を見つけてホッとする。
周藤が迎えにきたのだ。すぐに立ち上がって頭を下げる。
「申し訳ありませんでした」
「お前、遠くから見たら本当に小さいな。頭を下げたら見つけるのが大変だぞ」
こんなときでも、嫌味なことを言う。
「よし、行くぞ」
マークXの助手席に乗り込む。
「無理はするなと言っただろ」と、怒鳴って欲しかった。
でも、周藤はなにも言わない。
見捨てられたのだろうか。
もしかしたら、この車の助手席に乗るのも最後かもしれない。そうだとしたら、1カ月も持たなかったことになる。
「俺は明日ちょっと用事あるから、会社には出ない。お前は、のんびり今日の報告でもまとめておけ」
「はい、わかりました……」
力なく返事をすると、やりとりは終了した。
周藤のタバコの煙と、会話のない空間の心地悪さ。
いつものことなのに、今日のわたしにとってはダメージの追い打ちをかけるようだった。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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