【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#02

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

1st 車を擦ったのは誰なのか?
#02

資料に目を通す周藤に少し身を寄せたが、一緒に見ようというつもりは一切ないようだ。仕方なく、周藤が読み終わるのをじっと待つことにする。
ここ最近、首都圏を中心に進むカーシェアリングの普及とともに、それに関する案件が増えてきている。
カーシェアリングとは、「1台の車を複数の人数で使う」という自動車の利用方法のことだ。
発祥の地はスイス。1987年に「車を利用したいが、使用頻度が低いので自分1人で車を所有するつもりはない」と考えた27人が、共同で2台の車を購入したのが始まりだという。
その後、この画期的なシステムは世界中に広まっていった。ユーザーにとって便利なだけでなく、環境問題や駐車場問題の解決にもなると注目を集め続けている。
現在、日本国内で会員数ナンバー1を誇るカーシェアリングサービスは、全国主要都市に約5600カ所のステーションを持ち、約9400台の車を配備している。
よく比較されるレンタカーとの違いで言えば、対面での手続きを必要としない。さらに、24時間貸し出し可能だったり、10分単位で利用できたりする場合もある。
公共交通機関が発達した地域に住んでいて、日常的に車を使用しない人でも、たまに大型スーパーや家具店へ買い物するときなどに利用するのだという。
「都心に住んでいる若者とかに、この手のサービスを利用する人は増えているみたいだね。ところで、ミキちゃんは相変わらずヨタハチに乗っているの?」
「はい、もう愛着がわいて手放せないんです」
わたしの愛車は、赤のトヨタスポーツ800、通称「ヨタハチ」だ。
視線を感じて周藤の方を見たが、すぐに目を逸らされる。
「確かに、よほどの思い入れがないと、あんなに古い車に乗り続けるのは大変だろうな」
「でも、燃費は悪くないし、メンテナンスもそんなに大変じゃないんですよ。まぁ、旧車かどうかに関わらず、個人で車を所有するのはなにかとお金がかかりますからね」
一般的に、カーシェアリングサービスの料金は、駐車場代やガソリン代、各種税金、車検代などがすべて込みになっている。そのため、「短時間しか車を利用しない」「駐車場代が高い都心に住んでいる」などのユーザーにとって、車を所有するより圧倒的に安くすむことがメリットだ。
そして、カーシェアリングサービスの利用料には、自動車保険料も含まれている。
しかし、もしも事故を起こしてしまったり、巻き込まれたりしたときには、事故証明がないと保険を利用することができない。つまり、どんなに小さな事故でも警察に届け出る必要があるのだ。
このことをしっかり理解しているユーザーが、はたしてどれだけいるだろうか。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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