【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#04

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

1st 車を擦ったのは誰なのか?
#04

河口綜合法律事務所の代表弁護士、河口仁から周藤へ指名の案件。
弁護士事務所から、調査員を指名して依頼がくることはそうあることではない。それだけ難易度の高い案件だということなのだろう。
周藤はニヤリと笑いながらこう言った。
「わかりました。では、うちのルーキー、上山ミキが必ずや事件を解決しますので」
え、わたし!? 冗談で言っているのか、なんなのか、よくわからない。いや、きっと冗談だろう。
「えっと……では、引き受けてくださるのですか」
仁の息子の純も反応に困っている様子だ。
「まあ、とりあえずやってみましょうか。な、上山」
わたしもつい、純を見て頷いてしまった。
意図がよくわからないが、きっと、周藤ならなんとかしてくれるはずだ。
「それは大変助かります。ありがとうございます」
純がホッとした表情を見せた。
「礼を言うなら、事件が解決できたときに」
周藤が立ち上がったので、わたしも腰を上げる。すると、純がわたしを呼び止めた。
「ところで、ミキちゃんはこの後、予定ある?」
「えっと……」
今日は、この案件で動かないのであれば、特に切羽詰った予定はないはずだ。
「もしよかったら、一緒にランチでもどう?」
周藤を横目で見る。
「せっかくのお誘いなんだ、行ってこいよ。じゃあ、わたしはこれで」
周藤が足早に応接室を後にした。
「カーシェアリングの件、よろしくお願いします」
純の声がその背中を追いかける。
「2人でランチなんて、久しぶりだよね」
確かにそうだった。何年ぶりだろうか。
「すぐ出られるの?」
「あ、ちょっとここで待っていてください。5分で戻ります」
急いで、自分の席に戻った。
準備をしている様子を周藤がジロジロ見ている気がして振り向いた。
「名刺を持っていってやれよ」
言われなくてもわかっている。
「はい、もちろんです」
フロアを飛び出て応接室に向かった。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]