【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#08

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

2nd ミキ、単独調査に乗り出す。
#08

前向きにいこう。たとえ無茶振りだとしても、この調査はわたしがなんとかしなければならないのだ。
受話器を持つ手がどことなく嫌な重さを感じる。でも、逃げるわけにはいかない。
〈わたくし、総合保険調査会社インスペクションの上山ともうします。カーシェアリングのご利用の件で、ご連絡差し上げました〉
〈インスペクション? 知らないけど、勝手に電話してきて、いったいなんなの?〉
敵愾心が剥き出しだ。
〈大変恐縮ですが、カーシェアリング会社様よりご連絡先を伺いました。当社で、車両についた傷の件の調査を担当しています。どうかご協力ください〉
〈電話番号を聞いた? ふざけんなよ、個人情報だろ〉
〈お客様の無実を証明するためにも、ご協力いただけないでしょうか〉
溜息が聞こえた。
〈利用する前の確認時、傷はついていませんでしたか〉
〈だからさ、この前も電話で説明したけど、乗る前にざっと確認したけど傷なんか、なかったんだって。絶対に俺じゃないからな〉
〈あなたがもしかしたら、どこかで擦ってしまったという可能性は考えられませんか?〉
〈いや、絶対に俺じゃない。俺が自分で傷をつけたのなら報告するに決まってるだろ。それくらいの常識はあるんだよ〉
〈お客様のことを疑っているわけではありません。わたしたちは客観的な事実を積み重ねていって、真実を掴みたいだけなんです〉
〈だから、調べる相手が間違ってるんだよ。俺の次の次に使ったやつが傷を見つけたんなら、俺の次のやつが犯人だろうが。そっちを徹底的に調べろよ。バカやろう。二度とかけてくるな〉
切られた……。聞こえるのは電子音だけだ。
いまかけなおしたところで、どうにもならないだろう。
「俺が自分で傷をつけたのなら報告するに決まってるだろ。それくらいの常識はあるんだよ」と言われた。
確かに、もしすぐに事故を警察に報告して保険が適用されていれば、利用者の負担はノンオペレーションチャージの2万円のみだったはず。相手がいたとしても、対人補償も対物補償も無制限だ。
「たかだか2万円」というつもりはない。節約を意図してシェアカーを利用した場合、2万円の出費は大きいだろう。
ただ、日本のカーシェアリングサービスにおいては、事故が起きても自己申告をする利用者がほとんどで、こういうケースはあまり起こらないという。
何か、報告できない理由がほかにあったのだろうか?

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]