【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#09

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

2nd ミキ、単独調査に乗り出す。
#09

翌朝、マークXを運転して、デミオを修理している三鷹市の板金工場に向かった。
もともとデミオが停めてあったのは杉並区の方南町駅の近くだ。
ただ、杉並区は板金工場が少ないらしい。ちなみに、東京23区内で板金工場が多いのは、江東区や江戸川区のようだ。
それほど時間に迫られていたわけではなかったので、下道で行くことにした。コストも意識しなければいけない。
まずは山手通りを北上すると、玉川通りで左折した。
社用車のマークXの乗り心地はなめらかだ。愛車のヨタハチとは違う乗り味に新鮮さを感じる。
運転は楽しいが、車体はヨタハチよりもずっと大きい。
​擦った車の調査をしていて、自分が社用車を擦ったなんてことがあったら、それこそ、周藤になんて言われるかわかったもんじゃない。そう思って、気を引き締めた。
環状八号線を走り、カーナビの指示通りに道を進む。
さまざまな車種が停まっている敷地が見えた。外にいた若い整備士が担当者のところまで案内してくれる。
「はじめまして。インスペクションの上山ミキです」
「どうも」
40代後半だろうか。年季の入ったつなぎを着た寺田という整備士だった。
「なんだよ、若い姉ちゃんがひとりで調査しているのか」
「はい、よろしくお願いします」
すでに修理は済んでいて、綺麗に塗装されている。どうにかなるわけではないけれど、手でさすっていた。
「どうだ? もう傷の跡は分からないだろ」
「はい、完璧な修理ですね」
寺田は嬉しそうに腕を組んだ。
「それにしても微妙なひっかき傷と、微妙な塗装だったな」
「微妙ですか」
苦笑いしてしまう。
「いや、あれは素人なら、気づかないのも無理はない」
「そうですか」
そう、かなりわかりにくい傷だった。
「車に擦って、逃げたんだろうな」
「なんですって?」
電柱やガードレールに擦ったのではなく、別の車に擦ってできた傷ということ?

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]