【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#10

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

2nd ミキ、単独調査に乗り出す。
#10

デミオの傷は自損ではなく、他の車に擦ってついていたことがわかった。
「電柱やガードレールに接触したわけではないんですね?」
ここは重要なところだ。寺田が頷く。
「そうだ。おそらく、同系色のグレー系の車に擦ったようだな」
グレーやシルバーは、傷や汚れが目立ちにくいとされる人気の色だ。グレー系の車同士の接触は、ほかの色の車に比べれば確率は高いのかもしれない。
しかし、相手がいるとは。なんとも、やっかいなことになってきたようだ。
寺田が腰を落とし、修理したところに手を置く。
「もともとちょっと擦っただけだし、相手は同系色の車だから、擦ってついた塗料も見た目にはわからない。それで、同じ色でスプレーをかけているんだから、わかりづらいよな。でも、俺に言わせれば素人の仕事だ」
依頼人が気付くくらいだ。わかりにくいとはいえ、もちろん素人仕事だろう。
「最近は量販店に行けば、スプレーなんて簡単に手に入るからな」
寺田が続けた。
「まあ、俺だったらさっと直すけど、うちの嫁ならしれっと放っておくレベルの傷だな。シェアカーだったら、そんなわけにはいかないのか」
そう言って笑っているけど、わたしは笑うに笑えない。
「そうなんです。放っておくことはできないんです」
寺田が胸ポケットからマルボロを取り出して火を点けた。
「ところでさ、ちょっとうわさを聞いたんだけど」
寺田が声を潜めた。
「え、なんでしょうか」
「今回のデミオが擦った車の色がさ、同系色のグレー系だと思うと言っただろ」
「はい、それがどうかしたんですか」
寺田の声は不穏なトーンで続いていく。
「実はさ、グレー系の車を擦って修理に出されている車体を探しているやつがいるらしいんだ」
「まさか、今回のが……」
寺田が顔をしかめている。
「しかも、どうやら、怖いやつらなんじゃないかってうわさが流れている。まだうちには問い合わせはきていないけど、正直、関わりたくない」
そりゃあ、誰だってできれば関わりたくないだろう。
「まあ、たまにあるんだよ。当て逃げされて、警察はほぼ動かないから、普通は泣き寝入りするんだけど、なんとか自力で捕まえようとするやつがさ」
そんな話は聞かなかったことにしておきたかった……。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]