【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#11

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

2nd ミキ、単独調査に乗り出す。
#11

寺田に礼を言って、三鷹市の板金工場を後にした。 
その足で、シェアカーが停まっていた駐車場に向かう。また下道を使って、目指すのは杉並区の方南町駅の方面だ。 
マークXを運転しながら、さきほど寺田から聞いた話が気になっていた。 
もし慣れないシェアカーで、あまり柄のよくなさそうな超高級車を擦ってしまったとしたら。気が動転して、怖くなってそのまま逃げ出す人がいるかもしれない。 
保険が適用されることが頭からすっとんでしまうことは考えられる。 
まだあくまでも想像の範疇だけど、この事件はものすごくやっかいなものを抱えているのかもしれない。 
それほど時間はかからずに方南町駅が近づいてきた。この近くの駐車場に、もし利用中でなければ、同型の車種が置いてあるのだという。 
あった! 
マークXを停めて、場内のデミオに近づいた。 
別のマツダ・デミオが停まっていた。一周してみる。 
いろいろな角度から撮影してみる。 
おじいさんがじろじろとこっちを見ていた。 
「お嬢ちゃん、どうしたの? なんかあったの?」 
不審者と思われているのだろうか。 
「いいえ、ちょっとした調査です」 
「あ、そう。がんばってね」 
「はい、がんばります」 
……ん? 
背後に視線を感じて振り向いた。 
でも、誰もいない。気のせいだろうか。 
わたしは演技をしてみることにした。 
何事もなかったようにコンビニに入る。雑誌を選ぶ素振りをしながら、様子を伺う。見知らぬ男性が近づいてきた。わたしと同い年くらいだろうか。 
わたしのことを見ている気がする。 
緊張が走る。心臓が大きな音を立て始めた。 
なにかあれば大声を出す。 
男性は店内に入ってくると、そのままわたしの背中を通り過ぎて、ドリンクのコーナーに行ってしまった。 
そして、会計を済ませて、何事もなかったように出て行く。 
ホッと胸をなでおろす。わたしが自意識過剰だっただけかもしれない……。しかし、寺田に聞いた話のこともある。用心に越したことはない。 
腕時計に目をやった。 
このあと、14時からは依頼人の男性の前の利用者である主婦、山田茜に話を聞くことになっていた。 
彼女が住むマンションは、すぐそこだ。 

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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