【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#12

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

2nd ミキ、単独調査に乗り出す。
#12

わたしの目の前に聳える建物は、依頼人の男性の前に車を利用した主婦、山田茜が住むマンション。20階以上ある立派な建物だ。
オートロックになっている。1階のエントランスで、部屋の番号を押した。
〈はい、どちらさまでしょうか〉
丁寧で落ち着いた女性の声が聞こえてきた。
〈お電話差し上げました、インスペクションの上山です〉
カメラに向かって頭を下げる。
〈はい、どうぞ。18階です〉
自動ドアが開いた。エレベーターで18階まで上がる。
部屋の前で呼び鈴を鳴らす。足音が聞こえてドアが開いた。
30代前半だろうか。山田は、ロングヘアが似合う美しい女性だった。
「こんにちは、はじめまして。調査員の上山です」
「どうぞ」
最初の利用者の男性みたいに、わたしを敵対視している様子はない。安心した。
玄関に妖怪ウォッチのグッズがある。子供がいるのだろう。
リビングに案内された。掃除の行き届いた綺麗な部屋だ。外は寒かったけど、暖房が効いていて暖かい。
「忙しいところ、お時間いただいてすみません」
自然な笑顔が返ってきた。
「いいえ、わたしは自分の無実を証明するためでしたら、いくらでも協力しますよ。そちらに座って」
クッションの柄もかわいらしい。テーブルもおしゃれだ。
「お茶は何がいいかしら?」
「あの、本当にお構いなく」
しばらくして、ジャスミンの香りが近づいてきた。
「それでは、再度、利用時の状況を教えていただけますか」
「そうよね、今日は楽しいお茶会じゃなかったわ」
せっかく山田の口元に近づいたカップが、ソーサーに収まって音を立てた。
「あの、すみません。急いでいるわけではありませんから。わたしは時間があるので、ゆっくりで構いません」
山田がにっこりと笑った。
本当に美人だ。きっと、旦那さんも素敵な人で、お子さんもかわいらしいのだろうな。
「あの日はね、利用2時間だったかな」
わざわざ手帳を開いて確認してくれた。
「やっぱりね、短時間で借りるとレンタカーよりもずっとお得なの。前日に予約していて、14時半に借りて、子供を連れて実家に行ったの」
「乗車前に、自動車の状態は確認されましたか」
山田の表情が一気に曇った。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]