【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#17

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

3rd ミキ、合コンでイケメンに出会う。
#17

わたしが居酒屋に入ると、加納淳子が手をあげているのが目に飛び込んできた。吉田尚美もいる。進みかけた足がブレーキをかけ、躓きそうになった。
なんと、2人と一緒に見知らぬ男性が3人いる。みんなイケメンだし、絶対にうちの会社にはいないタイプだ。1人茶髪だし、ちょっといかつい感じがする。いったいどんなつながりなのだろう。
「ちょっと、ミキちゃん、遅いよ!」
加納に促され、とりあえず席に着く。
「ご、ごめんなさい。こんにちは」
男性が3人で、女性が2人だったから、こちら側の頭数が足りていない。そういうことだったのか。わたしが呼ばれたのは、人数的な穴埋めだ。
「この子がミキちゃん。わたしの大好きな後輩なの。こんなにかわいいし、素直でいい子なのに彼氏がいないんだよ。信じられないでしょ?」
なんか持ち上げられすぎて、こっちが恥ずかしくなってくる。
「マジで? もったいない」
相手側のひとりがのってきてくれたけど、明らかに社交辞令だろう。
「ミキちゃんはどんな仕事をしているの?」
「彼女は保険調査員をしています」
わたしが答える前に、加納が答えてしまう。苦笑いだ。
「へえ。珍しい仕事だよね。どんなことをするの?」
「損害保険会社や弁護士事務所から依頼を受けて、公平中立の視点で事件や事故を調べて報告するんです」
やはり、加納がすべて先回りして答える。まあ、自分で説明するのも面倒だし、任せてしまえばいい。
「すげー大変そうだな……」
男性がちゃんと反応してくれているのがせめてもの救いだ。
わたしが頼んだビールが運ばれてきた。
「じゃあ、ミキちゃん、おつかれ。カンパーイ!」
とりあえず、飲もう。ジョッキを傾けると、アルコールが喉にしみこんでいく。
「ミキちゃん、よろしく。俺、タカヒロ」
隣の男性から声をかけられた。3人の中でも1番モテそうな正統派のイケメンだ。
「あ、どうも。お待たせしてすいません」
「いつもこんなに遅くまで働いているの?」
「そうですね、けっこう忙しい仕事だと思います」
「じゃあ、忙しくて、恋愛したくても時間がないんだ?」
ビールを吹き出しそうになった。
「いえ、わたしは転職してまだ間もないので、慣れるのに苦労しているって感じですね。それに、わたし、全然モテないですから……仕事のせいというより、わたし自身の問題です」
「そんなわけないよね。めっちゃかわいいし。身長何センチ?」と、聞いてきた。
「あ、やっぱり気になりますか。153センチです」

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]