【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#19

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

3rd ミキ、合コンでイケメンに出会う。
#19

朝の電車に揺られながら、昨夜のことを何度も反芻してしまう。
突然、会社の先輩から飲み会に誘われて、イケメンにぐいぐい誘われたところまでは良かったのだけど、駅についたところで、一番見られたくない上司に鉢合わせしたのだ。
顔を合わせるのが、なんとも気まずい。
でも、大人の男だったら、たぶん、何事もなかったように振る舞ってくれるはずだ。
会社に到着して、メールチェックをしていると、内線が入った。
〈上山さん、カーシェアリング会社の方からお電話ですよ〉
〈はい、つないでください〉
いったいなんの用だろうか。
〈はい、お電話代わりました。インスペクションの上山です〉
〈上山さま、朝早くから恐縮です。実は折り入ってご相談がございまして、もし可能であれば本日か明日、お時間いただけないでしょうか――〉
〈は、はい、お急ぎのようですが、どのようなご用件で〉
とにかく会って直接話をしたいということで、用件は教えてくれない。早速、先方の会社に伺う約束をして電話を切った。
間もなく周藤が現れて、軽蔑するような視線を投げてきた。
「お前、ずいぶんと余裕かましているみたいだが、調査の方は順調なのか?」
出た、嫌味な発言。順調とはいえないし、言葉がでない。
でも、状況を報告しなければいけないだろう。
「現状報告をしてもよろしいですか。実は、さきほど――」
周藤は面倒くさそうにしながら、険しい表情を見せた。
「言っただろ。この案件は、お前に任せているんだ。よっぽど困った状況なら、話を聞くが、もうすでに行き詰ったのか?」
そう言われると、やっぱり言葉が出てこない。
「いえ、そういうわけじゃありませんが……」
カーシェアリングの会社には、周藤に同行してもらうべきかとも考えていた。だが、やはり、頼りたくはない。1人で行こうと決めた。
「で、解決できそうなのか?」
「なんとか、解決したいと思っています」
周藤は鋭い視線を浴びせてくる。
「解決したいじゃなくて、できそうなのかどうかを聞いているんだ」
「はい、解決します」
周藤の顔つきが意地悪なものに変わった。
「ほお、大見得切ったな。調査の最終報告が楽しみだ」
ああ、どうしよう。つい、言ってしまった。周藤が立ち上がる。
「車の鍵を返せ」と言われ、差し出すと奪い取られた。
「ところで、ああいう男が趣味なのか」
それはセクハラ発言ではないのか、とちょっとムッとする。
「その件に関しては、周藤係長には関係ありません」 ​
「まあ、そりゃそうだな」と、鼻で笑われた。そのまま、周藤はフロアを去っていく。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]