【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#20

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

3rd ミキ、合コンでイケメンに出会う。
#20

わたしは電車で、カーシェアリングサービスの会社に向かった。全国に展開する大手で、本社は西新宿の高層ビルに入っている。
電話では済まない話ということだ。いったい、どんな内容なのだろうか。緊張する。
エントランスで担当者を呼び出すと、50歳前後の男性と30代前半の女性の2人の担当者が現れた。
会議室に場所を移す。名刺交換を終えてソファに腰を下ろすと、水野信一という男性のマネージャーがわたしの名刺を見つめながら声を発した。
「保険調査会社の方とは何度かお会いしていますが、若い女性の調査員の方は初めてです。とても珍しいですね」
「どこに言っても、よくそのように声をかけられます」
ここで正直に、「新人です」などと言って、足元を見られるわけにはいかないのだ。
すると、女性の方の担当者、大津由香が笑顔で続けた。
「わたしよりも、ずっとお若いですよね。かわいらしい」
続けて、水野が声のトーンを落として切り込んできた。
「ところで、調査の状況はいかがですか?」
「まだ、スタートしたばかりですので、なんとも申し上げられません。実は、わたしの方からもぜひお願いごとがありまして。詳しくお話をお伺いできていない男性にお会いしたく、勤務先や住所などをお聞きしたいと思っておりました」
2人とも頷いた後、僅かに顔を見合わせた。
「そうでしょうね。大変な手間がかかる調査のはずです。簡単にはいかないでしょう」
相手もプロだ。こういうケースは初めてではないだろうし、よくわかっているのだろう。
「おっしゃる通りで、誰かがうそをついているのかと思いますが、今から証拠を見つけ出すのはなかなか骨の折れる作業です。ただ、わたしどもは真実を追求するために、最善を尽くしますので」
「調査はどこまでする予定なのでしょうか?」
水野から核心に切り込む質問がぶつけられた。
状況は厳しい。わたしとしてはなんとか犯人を見つけたい。でも、仮に犯人が見つからなかった場合、意地になってやればやるほど、うちにとっての損害は大きくなるのだ。引き際も大事になってくる。
周藤が今朝、皮肉を込めて聞いてきたのはそのことだろう。
「繰り返しになりますが、まだ調査は始めたばかりですので――」
水野がわたしの回答を遮るようにして、神妙な面持ちで口を開いた。
「率直にお願い申し上げます。調査は中止にしていただけませんか?」
水野が発言した内容に驚き、つい動揺してしまった。
「え、ど、どういうことですか?」
水野も大津も口をつぐんでしまった。
「なぜですか? 理由をお聞かせください」
まさか理由も聞かず、「はい、中止しましょう」と帰るわけにもいかない。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]