【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#22

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

3rd ミキ、合コンでイケメンに出会う。
#22

カーシェアリングサービスの会社が入るビルを出た途端、ため息がこぼれた。
今朝、会社で周藤に「事件を解決します」と大見得を切ったばかりだ。でも、きっと、これで調査が打ち切りになることはまず間違いない。
母親が心配して弁護士事務所に頼ったことで大事にはなったものの、もともと、田中卓也が損害賠償を請求されることはなかったのだ。
それはつまり、わたしたちが調査の目的を失ってしまったことを意味する。
西新宿から、方南町の現場は近い。丸ノ内線を利用して、15分もかからないだろう。
どうしてもまた駐車場を見たくなって、わたしの足は会社とは反対方向に進んでいった。
中野坂上で、ホームの反対側にある電車に乗り換え、間もなく方南町駅に到着した。ゆっくりと階段を上って、目的地へ向かう。
駐車場には、例のデミオが停まっていた。
前にまわり込んで、擦った場所に手を当ててみた。板金工場で目にした時と同じだ。もう傷跡はすっかり消えている。
その場で、スマートフォンを取り出した。
河口綜合法律事務所に電話をかけると、受付の事務員がでた。
〈インスペクションの上山と申しますが、河口純先生はいらっしゃいますか?〉
〈少々お待ちください〉
忙しい人だから事務所にはいないかもしれない。
〈あ、もしもし、ミキちゃん?〉
意外にも、純の声が聞こえる。きっといないだろうと思っていたので、伝言を残すつもりだった。
〈純先生、いま、お時間大丈夫ですか?〉
〈うん、ちょうど空いててよかったよ〉
一連の経緯を説明する。あまり時間がないだろうから、要点を整理しながら伝えた。
〈そっか、カーシェアリング会社の意向がそういうことなら、調査は打ち切りだな。依頼人の田中さん本人やお母さんにはこちらから連絡しておくよ〉
〈そうですよね。よろしくお願いします〉
駐車場にしばらく立ち尽くしてしまった。もうここに来ることも二度とないだろう。
方南町駅に引き返し、会社のある五反田に電車で向かう。
その途中、スマートフォンを取り出すと、LINEに不気味なメッセージが届いていた。「マークX」を名乗る謎の人物はすでに退出済みだ。
〈デミオからもう手を引け。じゃないと怪我をするぞ。こんな小さな事件でこそこそ動きまわってんじゃねえよ。お前、邪魔なんだよ〉
なにこれ……。
背筋が凍りつく。
どういうことなんだろう。いったい誰がこんなことをしてきたのか。明らかに事件の関係者がわたしに脅しをかけてきている……。
調査の終了が決まったのはついさっきだ。そのことをまだ知らないとしても、こんなメッセ―ジを送ってくる意味がわからない。
会社に戻ると、報告したいのに、周藤も松井もいなかった。
不安が募り、気分が悪くなってくる。18時になって、すぐに家に帰った。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]