【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#25

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

3rd ミキ、合コンでイケメンに出会う。
#25

わたしは愛車のヨタハチで、成田真由子のマンション前に到着した。
クラクションを鳴らす。
おしゃれをした真由子が、髪をなびかせてエントランスから出てきた。ボーダーのタートルネックに、青いコートを合わせていて、同性から見てもかわいい。
「お待たせ」
「そのコート、買ったの?」
「うん、セールで安かったんだもん」
まるでモデルみたいな美女の真由子を助手席に乗せて、ゆっくりと走りだした。
向かう先は、お台場だ。
真由子に相談したいことは山ほどあった。仕事のことも、プライベートのことも。
「ところで、真由子さ、カーシェアリングを使ったことはある?」
「あるよ。マンションの近くにシェアカーの駐車場があるんだ。あれ、けっこう便利だよね」
そうか、マイカーを持っていない同世代はけっこう利用しているものなのかもしれない。
「わたしは使ったことがないけど、ガソリン代とか保険代とかコミコミでいいよね」
「え、なんで? ついに、ヨハタチを手放すつもり?」
首を横に何度も振った。
「わたしのお母さんみたいなことを言わないでよ。もうね、ヨタハチが悲鳴を上げて、走らせないで、って言うまでわたしは乗り続けることに決めているの」
笑い声が聞こえる。
「そうだよね、じゃあ、カーシェアリングが、どうしたの?」
「真由子は、利用前にちゃんと、傷とかないか車両チェックしてる?」
「そんなこと、当たり前でしょ。わたしを誰だと思っているの? 損保の人間だよ」
間髪いれずに、返事があった。
「そうだよね、それはそれは、失礼しました」
車を運転していても、なぜかバックミラーが気になる。
誰かにつけられているような意識に駆られてしまう。
「ねえ、毎度のことだけど、暑いよ!」
真由子が声を荒げた。
「あ、ごめん、寒いよりはいいかと思ってさ」
わたしのヨタハチは「燃焼式ヒーター」といって、ガソリンを直接の燃料として駆動する、今ではかなりめずらしいタイプの暖房装置を内蔵している。
2シーターで車内空間がコンパクトだということもあって、けっこうすぐ暖かくなる。暑くなりすぎるくらいだ。
ただ、装置の内部に煤がたまるので、定期的なクリーニングが必要になる。
今は、このヒーターを取り外してしまっているオーナーが大半だ。このまま使用されている車体はかなりめずらしいだろう。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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