【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#27

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

3rd ミキ、合コンでイケメンに出会う。
#27

わたしは緊張しながら、電車で久しぶりのデートに向かった。待ち合わせ場所は、築地本願寺の正門だ。
約束の時間の5分前に到着したけど、すでに長身の男がスマートフォンをいじっている。
やっぱり、タカヒロはイケメンだ。こんな人が彼女いないとか、わたしのことがタイプとか、そんなこと、あり得るのだろうか。目が合うと、笑顔で近づいてきた。
「思った通り、私服姿もかわいいな」
「え、そんな、冗談やめてください」
「いや、冗談じゃないし」
築地場外の寿司屋に入った。カウンター席に並んで座る。
「相変らず忙しそうだね。最近はどんな仕事をしてるの?」
本当は相談にのってもらいたいけど、そんなわけにもいかない。
「たとえば、盗難事件の調査がありました」
「盗難ね、俺も車両保険つけてるよ。盗まれたら、犯人は絶対許さないけどね」
タカヒロはそう言いながら、ウニの軍艦を口に運んだ。怒ったらちょっと怖そうだ。
「他はどんな事件を扱うの?」
「そうですね、カーシェアリングの車が擦った事件を担当しました」
「ああ、最近、カーシェアリングって増えてるらしいね。どんな事件なの?」
盗難事件よりも食いついてくるとは思わなかったけど、それ以上は言わない方がいい気がした。トロを口に入れて、ゆっくり味わった。美味しい。
「守秘義務っていうのがあって、あんまり詳しいことは言えないんです」
彼はあからさまに不機嫌な表情になった。
「へー、いろいろあるんだな」
お寿司の代金を払おうと思ったけど、頑なに拒否された。気前もいいし、やはりお金を持っている可能性が高い。
2軒目は本願寺の裏の和カフェに入った。
甘味を食べながら、話が弾む。トーク力は高いし、自分が話し続けるだけではなく、聞き上手でもある。心地よい時間は一気に流れて、気づくと夕方になっていた。
夜ご飯を一緒に食べるのもいいかなと思っていた。
「明日は仕事だよね?」
「はい、タカヒロさんも?」
「うん、俺もだよ。今日は我慢するけど、もしよかったら今度はドライブ行こうよ」
頷いていた。店を出ると、築地本願寺まで一緒に歩き始めた。
「俺さ、車で来てるから、もし良かったら家の近くまで送っていくよ」
迷うところだ。でも、せっかく距離が縮んだのに、ここで拒否する必要もないだろう。頷いて、チェロキーの助手席に乗った。座席の位置がとても高く感じる。
釆女橋から、首都高に入った。
おかしい、車は家とは反対方向に向かっている。
「あの、どこに向かっているんですか」
返事はなかった。スピードがどんどん上がっていく。
「すみません、やっぱり降ろしてください」
彼を見つめたけど、さっきまでとは目つきが全然違う。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]