【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#02

第3話「Twitter男を調査せよ!」

1st マークX、熊谷へ走る
#02

周藤の運転するマークXは、首都高速中央環状線から首都高速5号池袋線、埼玉大宮線に入り、順調に調査対象者、中山智史の家に近づいていた。
​間もなく、9時半だ。与野で高速を降りた。ここからは、17号線で一気に北上することになる。
下道もそれほど混雑していなかった。
今回の調査対象者は、五反田の会社から距離のある場所に住んでいる。なんとか、1日で証拠を集めてしまいたい。
ところが、もう少しで熊谷、というところでTwitterに動きがあった。
<久しぶりの浅草! 早く足が良くなるように、これから浅草寺でお参りしてきます>
絶句。はるばるここまでやってきたというのに……。
気を取り直して、報告する。
「周藤さん、調査対象者はいま……、東京の浅草です」
周藤が目を剥いた。
「なんだと!」
今までのSNSへの書き込みを見る限り、さいたま市に出かけることはあったが、東京まで行くことはなかなかなかった。わたしたちが東京から埼玉へ、中山が埼玉から東京へ。すれ違いになってしまった。調査をする今日に限って都内へ出かけるとは……。
「運が悪かったな」
わざわざ2時間ほどかけて、埼玉の熊谷までやってきたのに、徒労に終わってしまった。
前日に、次の日の予定についてつぶやいてくれたら良かったのに。なんて、そうそうこちらの都合に合わせて動いてくれる訳もない。
とりあえず、調査対象者の自宅に向かった。
静かに車を寄せ、表札などを確認する。
車がない。やはり、ハスラーで浅草に向かったのだろう。
わたしは、助手席からデジカメで自宅外観を撮影した。
「よし、浅草に向かうぞ。お前は引き続き、SNSであいつの状況をチェックしてくれ」
「はい、わかりました」
中山が帰宅するまで、自宅周辺で待つという選択肢もあるかもしれないと思った。でも、わざわざ遠出しているのだから、今日はかなりの時間、都内に滞在するはずだ。そして、できれば、今日の中山をカメラで押さえたい。もしも不正受給だとしたら、中山の浮かれた行動を撮影できるはずだ。
iPadを強く握りしめていた。
「松葉杖をついているとすれば、お参りにも時間がかかるはずですね」
マークXが来た道を逆走する。
高速に入ると、周藤の右足は強めにアクセルを踏み込んでいた。次から次に、前の車両を追い抜いていく。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト

[ガズー編集部]