【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#04

第3話「Twitter男を調査せよ!」

1st マークX、熊谷へ走る
#04

わたしと周藤は、調査対象者の中山智史を探し出すため、東京スカイツリーを訪れていた。2人で手分けして、駐車場で、熊谷ナンバーのパッションオレンジ ホワイトの2トーンルーフのハスラーを探す。
​時間はない。だが、駐車スペースは果てしなく広い。
息を切らしながら走り回るが、目立つはずのハスラーはなかなか見つからない。見つけたと思っても、フェニックスレッドパール ブラック2トーンルーフだったり、クールカーキパールメタリックだったり。
あ、見つけた!
やっと見つけたパッションオレンジのハスラー。でも、熊谷ナンバーではなかった。
そうこうしているうち、周藤から着信があった。なんとか息を整えて電話に出る。
<周藤さん、そっちはどうですか>
<ダメだ。いったん、合流するぞ>
待ち合わせ場所の立体駐車場前にたどり着くと、周藤が浮かない顔で立っていた。
「ここじゃあ、分が悪いな」
「そうですね」
中山は、次はどこに行くのだろうか。
「とりあえず、車の中で待機だ」
立体駐車場からマークXを出して、乗り込んだ。
わたしは、iPadを睨みつけた。中山の新たな投稿を待ち続ける。でも、待てども待てども、更新はない。
「中山がハスラーで来ていることが確定しているわけじゃない」
周藤の発言に頷いた。
「公共交通機関に乗り継いだかもしれませんし、そもそも同伴者の車かもしれません」
最初はてっきりハスラーで来たと思っていたけど、絶対と言い切れる訳ではない。友達の家までハスラーで向かって、そこから友達の車で来たのかもしれない。あるいは、どこかに車を停めて、電車で移動したのかもしれない。
時間だけが過ぎていく。
あたりは暗闇に包まれ始めていた。
ようやく、Twitterが反応した。
<ずっと来てみたかった鹿浜の人気焼肉店なう!>
すぐにピンときた。足立区鹿浜にある予約を受け付けない人気店。わたしも一度だけ行ったことがある。
「周藤さん、中山は鹿浜の焼肉店です」
周藤は、わたしが言い終わる前にマークXを発進させていた。
信号で停まったタイミングで、カーナビにお店の住所を入力する。
首都高速6号向島線で隅田川沿いを一気に北上する。首都高速中央環状線にぶつかると、今度は荒川沿いに西へ進む。
鹿浜橋が迫ってきた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト

[ガズー編集部]