【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#09

第3話「Twitter男を調査せよ!」

2nd ミキ、チョコレート調査開始。
#09

わたしはヨタハチで、横浜市内にある旧車ショップに向かっていた。
​この店には、整備や車検などで、いままで何度お世話になってきたかわからない。ヨタハチは錆びやすいし、綺麗な車体を維持しようと思ったら本当に大変なのだ。
やがて、店頭にズラリと並ぶ名車が見えてきた。腕のいいスタッフが揃っているので、手入れの行き届いた車両ばかりが並んでいる。
まずは、ヨタハチを駐車場に停めた。
駐車場には、2000GTが停められている。この店のオーナーが所有する車だ。何度見ても惚れ惚れしてしまうほど美しい。丁寧にメンテナンスされていて、まるで新車のようだ。
店の方にまわった。
最初に目に入ったのは、ホワイトのフェアレディZ。その隣には、ブルーのスカイラインGT-R。どちらも、1970年代前半のモデルだ。70年代の刑事ドラマで覆面パトカーに使用されていたイメージがある。
並べられた車両を眺めながら歩いていると、思わず足が止まった。
視線が吸い寄せられたのは、ブラックのトヨペットクラウンRS。ドアが観音開きになっていて、“観音クラウン”と呼ばれている。小さなテールランプがめちゃくちゃかわいい。1957年式って、お父さんもまだ生まれていないかも。
その隣のグロリア スーパーデラックスも洒落ている。外装も内装も、デザインがぜんぜん色褪せていない。
ここにだったら一日中いても飽きないだろう。見ているだけでテンションが上がって、楽しくなってくる。
やがて、ベテランスタッフの野村が近づいてきた。
「ミキちゃん、久しぶり」
今日来ることは、事前に電話しておいた。
「野村さん、すみません、ヨタハチ預けていきますので」
カバンから鍵を取り出して渡す。帰りは面倒だけど、電車移動だ。
すると水野オーナーが目を細めながら近づいてきた。
「ミキちゃん、待っていたよ」
「水野さん、お久しぶりです。ちょっと早いですが、みなさんで食べてください」
昨日買ったばかりのチョコを渡した。
「ミキちゃんからもらうチョコは、義理でも嬉しいな」
「いいえ、感謝の気持ちを込めた本命ですよ」
水野が顔をほころばせた。
この店のオーナーもスタッフも、ヨタハチを知り尽くしている。知識がない店だと、故障個所の修理などは難しい。近くにいいショップのないヨタハチオーナーは、車両の維持に苦労しているはずだ。
わたしはたまにヨタハチオーナーの集まりにも参加している。年齢も職業も違うさまざまな人が集まっているが、「ヨタハチが好き」という共通点があることで、強く結びついている。困った時やわからないことがあった時などに、いつも助けてくれるのだ。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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