【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#11
第3話「Twitter男を調査せよ!」
2nd ミキ、チョコレート調査開始。
#11
わたしは、父を知るカーショップのオーナー、水野に、当時の父に関する情報の聞き取りをしていた。
「水野さん、父はほかになにか相談していませんでしたか? いなくなる前に、おかしな様子はありませんでしたか?」
水野は目を瞑って、じっと考え込んだ。
「ほかには特になにもなかったと思うけどね。あの時警察にも同じことを聞かれたからさ、そう答えたことはよく覚えているんだ……」
わたしの父は10年前、フィリピンへの出張中に失踪してしまった。仕事の後、プライベートで訪れたフィリピンの首都マニラで、カヌーに乗ったまま消えてしまったのだ。転覆したカヌーが見つかって地元警察は事故と断定した。
結局、誰に会うために、何のためにマニラに行ったのかは、警察も掴めなかったのだという。
遺書は見つかっていないし、自殺は絶対に考えられない。
あの当時、この話はタブーだった。事件に結び付けようとするのはおかしいという空気が親族内にあったのだ。でも、みんながそういう気持ちになったことはなんとなくわかる。
「そうですか」
わたしは窓の外を見つめた。手がかりはそれほどないけど、一つひとつ地道につぶしていくしかない。今の仕事で学んだことだ。
「なにせ、もう10年も前のことだからね」
水野がソファにもたれて、遠くを見つめた。
「そうですよね。いまさらほじくり返そうなんてして、すみません」
わたしは再びコーヒーカップに口をつけてから、すでに飲み干していたことに気づいて、そのまま飲んでいるふりをした。
水野がわたしのカップが空になったことに気づいて、立ち上がろうとした。わたしは「そろそろ失礼しますので」と、それを制止する。
「もしなにか思い出したことがあれば連絡するよ。一応、当時の手帳も読み返してみるわ」
水野が気休めとわかる言葉を発する。
「はい、ありがとうございます。ぜひ、お願いします」
わたしは帰る準備をし始めた。
「もしかしてさ、ミキちゃんは、お父さんの事件を調べるために、保険調査員になったのかい?」
わたしが立ち上がろうとすると、水野が真剣な顔で聞いてきた。
「もちろん、それだけじゃありませんが……。自分で納得できるまで調べてみたいなって、思っているんです」
「そうかい、気持ちはわかるよ。これからも、なにかできることがあれば言ってね」
わたしは立ち上がってから、深々と頭を下げた。
「あ、あと、ヨタハチの修理をお願いします」
「ああ、調子が悪いんだってね。それなら任しといて」
ずっと険しい顔をしていた水野が、やっと白い歯を見せてくれた。
(続く)
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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